工場の「クリーンルーム」とは?定義や用途の基礎知識

『工場の「クリーンルーム」とは?定義や用途の基礎知識』

 各種の工場には「クリーンルーム」という設備を設けている所がある。しかし、クリーンルームが何のために設置されているのか知らないという人もいる。クリーンルームとは一定の条件を備えた特殊な環境で、電子機器や部品を製造する工場から食品を扱う工場まで、さまざまな業界で導入されている設備である。そこで、クリーンルームの定義や用途について解説する。

1.「クリーンルーム」は何のためにあるのか?

そもそもクリーンルームとは、何のためにあるのか。ここではクリーンルームの定義や設置する目的、基本的な仕組みなどを考えてみる。

目的

 クリーンルームの定義は「空気中に浮遊する微粒子や微生物が限定されたレベル以下の清浄度に管理されており、不純物やゴミを持ち込まないようにするための部屋」である。簡単にいうと、目に見えない細菌や、視認しにくい小さなホコリなどを取り除き、製品に付着するのを防止するために使用する。なお、微粒子とは極めて小さな粒子を意味する言葉で、その大きさは肉眼で確認できる限度の100分の1程度である。微粒子は一般的な空気調和設備のエアフィルタでは完全に取り除くことができない。そのため、クリーンルームは設計の段階で、細菌や微粒子を外部から取り入れず、内部でも発生させないための工夫がされている。
 たとえば、クリーンルームの外からゴミが入り込むことがないよう、室内の圧力を制御したり、気流の分布や風の向き、速さなどを調節したりできる。また、クリーンルーム内で作業を行う人が汗をかいて、製品に付着させることがないよう、温度や湿度を管理し、快適な状態を維持することも可能である。さらに、薬剤や清浄水を使用して室内の微粒子の濃度を調節する機能もある。このように、クリーンルームは用途に応じて、温湿度や圧力、静電気、電磁波、振動、ガス成分などの環境条件を制御することができる。しかし、クリーンルームの環境を整え、維持するためにはそれなりの費用をかけなければならない。ただし、清浄度や大きさによって、設置や維持にかかる費用も変わってくる。

基本の仕組み

 クリーンルームの環境を維持するには、異物を持ち込まない、発生させない、堆積させない、排除するという4つの原則を守る必要がある。まず、異物の持ち込みや発生を防ぐために、機器や材料は基本的に全て洗浄しなければならない。人が出入りする際はエアシャワーを浴び、ゴミや細菌などを持ち込まないよう徹底する。
 さらに、異物が堆積しないよう、掃除がしやすい構造にすることも重要である。可能な限り凹凸を少なくして、ゴミが溜まらないよう環境を整えなければならない。万が一、異物が入り込んだり発生したりしても排除できるよう、発塵部付近で排気を行う仕組みや、室内の気流を妨げないような構造が導入されている。空調設備や除塵設備だけではなく、それぞれの装置を制御するための設備も必要になる。また、埃やゴミが静電気によって吸い寄せられることがないよう、除電をしたり、室圧制御をしたりするシステムも欠かせない。

クラス分け

 クリーンルームはJIS規格およびISO規格によって、空気清浄度ごとにクラス分けが行われている。清浄度はパーティカルカウンタという、空気中の粒子数を測定できる機器を使うことで把握が可能である。2001年11月以降はISO規格に統一されているが、それ以前は1963年に制定された米国連邦規格が、清浄度規格の基本とされていた。清浄度クラスはクラス1からクラス9までの9段階に分けられており、清浄度は1立方メートルの空気中に含まれる0.1μm以上の粒子により決定する。たとえば、クラス1は粒径0.1μmの粒子数10、クラス2は粒径0.1μmの粒子数100である。
 清浄度はクラスが小さいほど性能が高く、設備費や維持費も高額になっていく。そのため、作る製品や工程に適したクラスのクリーンルームを導入することが重要になってる。目安として、半導体を製造する工場など、徹底した塵埃管理が求められる現場では、クラス3~5のクリーンルームが適している。電子部品や光学機械などの精密機器を製造する工場や、薬品や食品を取り扱う工場なら、クラス5~7程度のクリーンルームが必要となる。印刷工場や自動車部品を製造・加工する工場なら、クラス7~8程度のクリーンルームで対応できる。

表⒈ 清浄度規格

2.クリーンルームのさまざまな方式

 クリーンルームには垂直一方向流や非一方向流など、いくつかの方式がある。方式は空気の清浄度にも大きく影響するため、設置する目的や取り扱う製品に合ったものを選ぶことが重要になる。

垂直一方向流方式

 垂直一方向流方式とは、HEPAフィルタやULPAフィルタといった高性能フィルタを天井や壁に設置し、一定の方向に空気を流す方式である。ファンフィルタユニットから流された空気が一方向へ押し出されるようにして排出されるため、不純物の滞留や蓄積が起きにくく、高い清浄度を維持することができる。

図⒈ 垂直一方向流方式

 さらに、垂直一方向流方式には全面一方向流方式や一方向流方式など、システムによって違いがあるのも特徴である。なお、室内の清浄度はファンフィルタユニットの配置を変えたり、運転台数を増減したりすることで変更ができる。垂直一方向流方式はクラス1~5程度のクリーンルームに採用されることが多い方式である。しかし、維持費も設備費も高く、移動や拡張が難しいというデメリットもある。

乱流方式

 乱流方式は、非一方向流方式とも呼ばれる方式である。天井や壁の一部に高性能フィルタを設けるという点は垂直一方向流方式と共通しているが、乱流方式はダクトなどの排気口も同時に設置する。ファンフィルタユニットと排気口により空気を循環させることで、室内の塵埃を希釈し、一定の洗浄度を保つことができるという仕組みである。さらに、乱流方式にも、幅木吸込方式や室内直吹き方式などの細かい分類があるため、設置したい場所や予算に合わせて選択することができる。

図⒉ 非一方向流方式

 乱流方式は垂直一方向流方式よりも設置できる場所の自由度が高く、既存の施設にも比較的導入しやすいのがメリットである。一方で、気流が滞留しやすいため、塵埃が溜まったり、製品が汚染されたりするリスクが高いため、半導体を作る工場など、高い清浄度を求められる現場には向いていない。クラス3~7程度のクリーンルームに採用されることが多い構造である。

その他

 クリーンルームには垂直一方向流方式や乱流方式の他にも、水平層流方式やクリーントンネル方式、ハイブリット局所方式などの方式が存在する。水平層流方式は垂直一方向流方式のように一定の方向に空気が流れるのが特徴である。ただし、天井から床へ向かう方向ではなく、フィルタを設置した壁から反対の壁に向かって空気が吹き出す。フィルタ付近の清浄度はクラス5程度と高いものの、室内全体の清浄度はクラス7程度である。
 クリーントンネル方式は、半導体を製造する現場で使われることが多い方式である。クラス1~4程度の高い清浄度を維持することができる。ハイブリット局所方式とは、一方向流方式と乱流方式の両方を掛け合わせた方式である。クラス6程度の清浄度を維持できるが、室内全体に清浄な空気が流れるのではなく、一部のエリアのみ集中的に清浄する。

3. クリーンルームはどのように利用されている?

 クリーンルームは電子機器や自動車を作る工場から、食品や衣料品を製造する工場まで、あらゆる現場で利用されている設備である。ここからはクリーンルームの具体的な用途や分類について解説する。

クリーンルームの用途

 クリーンルームは空気中に浮遊する微粒子や微生物を取り除き、清浄な環境を整えるだけではなく、温度や湿度を管理するなどの機能も備わっている。特に、人や備品、材料などが多く出入りする工場などでは、徹底した管理を行わないと、目に見えないゴミや微生物などがすぐに増えてしまう。クリーンルームを設置すれば、微粒子や有害物質を効果的に取り除くことができるため、あらゆる分野で導入されている。
 たとえば、半導体や液晶ディスプレイ、自動車などを製造する工場では、不良品や欠陥品の発生を防ぐために、常に正常な空間を保たなければいけない。医療機器のように精密に製造しなければならない製品を取り扱う現場でも、クリーンルームが必要になる。また、食品の製造や加工を行う工場でも、虫や細菌といった異物の混入を防ぐために、クリーンルームを設置するケースが多い。製品によっては、クリーンルームの代わりに、クリーンブースとして一部のスペースに設備を導入する場合もある。

用途に合わせたクリーンルームの分類

 クリーンルームは大きく分けて、「工業用クリーンルーム」と「バイオクリーンルーム」の2種類に分類される。工業用クリーンルームとは、自動車や電子機器などの製品や部品を製造する現場で使われるクリーンルームである。電子製品は微細な塵埃が残っているだけでも異常をきたすおそれがあるため、高性能フィルタによりホコリや微粒子を捕集したり、静電気などを除去したりする必要がある。さらに、塵埃だけではなく、製品に影響を及ぼす有害物質を取り除くのも、工業用クリーンルームの重要な役割である。
 一方、バイオクリーンルームは食品や医薬品などを製造する現場で使われている。バイオクリーンルームは主に異物混入を防ぐために使われる。菓子類や調理食品などを製造する食品工場で万が一、異物混入が発覚した場合、会社の信用は大きく損なわれてしまう。さらに、生産停止や製品の回収なども避けられず、多大な損害を被ることになる。作業員に徹底した衛生教育を行うことで、ある程度の事故を防ぐことは可能である。しかし、目に見えない微生物や微粒子まで防ぐのは難しい。バイオクリーンルームは浮遊微生物をカットし、食品の衛生面を保つため必要である。
 さらに、医療機器を製造する現場や生物研究を行う施設でも、衛生面が重視されることから、バイオクリーンルームが導入される場合がある。バイオクリーンルームでは塵埃に限らず、細菌やウイルスなどの細菌も対象にしているため、殺菌・酵素HEPAフィルタという微生物を死滅させる作用のあるフィルタを使用しているため、医療の現場でも重宝されている。
最後に、工場のクリーンルームは、解説してきたとおり清浄な環境を保ち、製品の欠損を防ぐために必要不可欠な設備となっていることが分かる。

以上


【参考文献・引用】
1. クリーンルーム 出典: フリー百科事典「ウィキペディア(Wikipedia)」
2. 医薬品製造の基礎知識 H.P https://industrymedicine.com/