粉体プロセスのキーテーマ技術の最新動向

『粉体プロセスのキーテーマ技術の最新動向』

三品産業(食品、医薬品、化粧品)などで各種原材料や製品として粉粒体がさまざまな産業で利用されている。そのような粉粒体プロセスでのキーテーマの最新動向について詳述する。

粉体とは固体の小さい粒が多数集まったもので、身の回りでは食品や医薬品、化粧品など数多くの製品に利用されている。粉体は固体に分類されますが、扱い方によっては気体や液体のように振る舞うことがあるので、粉体を使った製品の生産は簡単ではない。特に最近では、取り扱う粉体の大きさがますます小さくなり、さらに、これまでにはなかった高機能・高性能な製品に対するニーズの高まりから、異なる種類の粉体を組み合わせて新しい粉体を創成する必要が生じている。
その製造法、つまり、粉体プロセスの開発・解析・評価が極めて重要となってきている。そこでキーテーマでは、「機能性粉体の創成を目的として、さまざまな粉体プロセスについて基礎的な検討から応用・実用化に至るまで行う」となる。

キーテーマは次の6つである。

1.粒子設計

粉体材料に各種の高機能性を持たせるため、粉体材料の大きさ、形状、密度、内部構造、さらには表面の特性を制御する方法やプロセスの考案が行われ実用化が進んでいる。

粒子設計
図⒈ 撹拌・混練装置

例えば、水に溶けにくい薬物の溶解性を改善し体内での吸収を促進し、光の屈折を利用したフォトミックと言われる機能をもつメーキャップ用化粧品や、肌への刺激を極力抑えた紫外線遮蔽型ファンデーションの創製、機能性食品、薬物放出型農薬製剤、電子材料、電池材料など、新たに開発された技術の応用は多岐に渡っている。
また、粒子設計に用いる方法として、粒子サイズを大きくする造粒操作、多成分の材料を均一に混ぜ合わせる混合操作、うどんやパスタの生地を作る混練操作、さらに、粉体材料をナノメートルからミクロンサイズまで微細化する粉砕操作など、新しい粉体の処理技術の開発も進められている。

2.計測と制御

高性能な粉体材料を効率良く製造するには、製造中で生じる反応や現象を、リアルタイムで監視する必要がある。粉体プロセスで使用できる各種のセンサーが必要となるため各種の開発が進められている。

流動層造粒装置フロー図
図⒉ 流動層造粒装置フロー図

例えば、造粒操作では、粉体材料の湿潤度が非常に重要であり、これを管理・制御するために考案されたのが赤外線式水分計である。この水分計は非接触で、連続運転が可能で粉体材料の湿潤度(水分値)をリアルタイムで計測することが可能なセンサーである。現在、国内外の大部分の製薬会社で、この水分計を利用した製造管理が実用化されている。また、製造工程中の、粒子の大きさや形状をリアルタイムで計測し、目的とする値に自動制御することを、画像解析装置により実現している。
前述の赤外線式水分計と画像解析装置は、米国FDA(食品医薬品局)でもその利用が推奨されている。その他、粉体プロセスの静電気の計測と制御や、各種のオンラインセンサーの開発、自動制御技術の確立などに関しても研究が進められている。

3.スケールアップ

小型の実験装置で試作した製品を、大型の商用装置でも同じように製造する方法を明らかにするのがスケールアップである。粉体材料は、水などの液体(流体)と異なり、個々の微小な粒子の集合体であり、また、それぞれが独立して存在しているため、粒子と粒子の間に作用する付着力などの相互作用を考慮する必要がある。

容器スケールアップ(容量:2ℓ~112ℓ)例
図⒊ 容器スケールアップ(容量:2ℓ~112ℓ)例

そのため、スケールアップは一般に容易ではない。小型の実験装置から大型の商用生産機までのスケールアップを実験と数値シミュレーションの両面から解析して、なお図⒊は、粒子離散法と呼ばれる数値シミュレーションにより、撹拌混合器のスケールアップを解析した一例である。

4. 微粒子プロセッシング

近年、科学技術の進展にともない、必要とされる粉体材料の大きさはますます微小化する方向にある。

図⒋ 高遠心力場を利用した粉体処理装置
図⒋ 高遠心力場を利用した粉体処理装置

粉体材料を構成する個々の粒子が小さくなればなるほど、重力に対する粒子間付着力の比は大きくなり、粒子同士は付着・凝集するようになる。このような微小な粒子を凝集させることなく、その表面をコーティングするなど、表面改質(表面物性を改良)することは非常に重要な課題となっている。未だに確立した技術は考案されていないのが現状である。
超臨界流体や、図⒋に示す高遠心力場を利用した新たな粉体処理技術の開発、実用化に向けた検討が進められている。

5.数値シミュレーション

粉体プロセスの開発・設計・最適化を行う際、粉体処理装置の内部で粉体がどのように振る舞うのかを把握することが重要となってくる。しかしながら、多くの場合、装置内部における粉体および粒子の挙動は非常に複雑であり、実際に観測することは容易ではない。そこで、離散要素法(DEM)や数値流体力学(CFD)などの計算手法を駆使し、各種粉体処理装置における粒子挙動の数値シミュレーションが盛んに行われている。

図⒌ 粉体処理装置における粒子挙動のシミュレーション解析
図⒌ 粉体処理装置における粒子挙動のシミュレーション解析

図⒌はその一例で、乾式衝撃式粉砕機(ハンマーミル)における気流および粒子挙動のシミュレーション結果を示している。シミュレーション結果から実験では観測することができない有用な知見を引き出し、粉体プロセス内で起こる現象の解明や、装置の開発・設計などへの活用がされている。

6.ナノテクノロジ

現在、ナノ粒子を利用した治療技術が医療分野において注目されている。治療効果を最大限に引き出すためには、ナノ粒子を標的とする細胞内部に送り届ける必要があるためである。そのためには、粒子は細胞を覆う細胞膜を透過しなければならないという課題がある。そこで、ナノ粒子が細胞膜を透過する現象を図⒍に示す分子動力学(MD)シミュレーションにより解析し、どのような粒子を開発すればより高い効果が得られるのか研究が進められている。

図⒍ ナノ粒子が細胞膜を透過する現象を分子動力学(MD)シミュレーション
図⒍ ナノ粒子が細胞膜を透過する現象を分子動力学(MD)シミュレーション

粉体プロセスは食品、医薬品および化粧品といったファインケミカル系での粉体開発や実用化に向けた取り組みが盛んである。その応用として三品産業で取り扱われる粉体や他業種での、例えば、セラミックス、セメント、粉末冶金、OA機器のトナー、農薬などの製造プロセスに応用、実用化されている。

粉体プロセス技術は、開発、研究が盛んであり、新たな製造プロセス実用化への期待が高まっている。

【参考文献・引用先】

大阪府立大学 大学院工学研究科 装置工学グループ H.P http://www.chemeng.osakafu-u.ac.jp/group3/
はじめての粉体技術 著者:波多野重信 発行所:(株)工業調査会
ファインケミカルプラントFA化技術の新展開 著者:高松武一郎 発行所:(株)CMC