2025/05/22
コメの品薄と価格高騰で消費者に広がった不安。それが消えない中で、生産量を減らしてきたこれまでの姿勢を転換する必要性に迫られている。本当に安定的な増産を実現できるのか。4月11日、政府は、日本の農業をどう展開していくかを示す「食料・農業・農村基本計画」を閣議決定した。今回の計画の内容を見てみる。
法律に基づいておおむね5年ごとに作られ、今回は2030年度まで5年間の計画である。去年、“農政の憲法”と呼ばれる「食料・農業・農村基本法」が改正されたあと初めての策定となる。閣議決定の後、農林水産大臣は記者会見で今回の計画について、「私は『令和の米騒動』という言葉は使いたくありませんが、そのような事態を踏まえて、コメの生産基盤自体の強化をしてほしいというのは国民の意思だと思う」と述べていた。
しかしながら一転して増産を掲げた背景は、何があるのか?
農林水産大臣がこう触れたように、今回注目されるのは、農水省がコメの生産量を増やし、生産基盤の強化につなげる方針を打ち出したことである。コメの生産量は、おととし2023年には791万トンだったのを、5年後の2030年に818万トンとする指標を掲げた。これは方針転換と言える。前回・5年前の計画では、2018年から2030年にかけて821万トンから806万トンに減産する方針を示していた。
これまで減産を打ち出していたのは、国内の需要が減り続けてきたことに大きな理由がある。国内の総需要量は、ピークの1963年度から一貫して右肩下がりでる。つまり、「ずっと日本国民がコメを食べなくなっている」ということである。さらにこのところは人口減少、高齢化も相まって減少が加速し、毎年10万トンペースで減っている。コメ価格が高騰している今はあまりピンと来ないかもしれないが、食料は需要を超えて生産されたときには急激に価格が下がりやすい性質がある。消費者が食べる量には限度があり、それを超えて買おうとはしないからである。
そこで価格の暴落を避けようと、需要の縮小に合わせるかたちで生産量も減らしてきた。生産量のピークは1967年度で、この時1445万トンもあったが、現在では半分近くにまで落ちている。これまでの農政は、コメの生産も消費も縮小させるスパイラルから脱却することができないでいた。
それが一転して増産を目指すのは、「食料安全保障の確保」を重要視したからである。コメは、国内の主な作物の中で唯一、自給できる貴重な食料である。ただでさえ、食料自給率が低い中、コメの生産を減らしたのでは、食料安全保障はままならないと考えたわけである。同時に、生産基盤の強化はを図ることを推し進め、今後、コメの不足は何としても避けるべきだという国民的な声の高まりも増産指標の設定を後押ししたと言える。
輸出に頼る需要の拡大も必要である。生産量を増やすことでコメ不足の心配が解消するのなら、消費者としては歓迎すべきことである。これまで需要が落ちているから減産してきたというのに、そんなに急に需要を作り出すことができるのか。また、生産する側も対応できるのか。ここからは増産に向けた課題は何かである。
まず、需要面では、「輸出頼み」になっている点に課題がある。現状では国内のコメの需要は減り続けるとみている。そこでパックごはんなども含めた輸出量を、2030年に去年の7倍以上となる35.3万トンに増やすことで、全体として増産につなげる考えである。国内需要が減り続けるなら、輸出に活路を見出すしかない。しかし、専門家からは「実現は厳しい」という声が出ている。
年によって変動はあるものの、日本のコメ価格はコストの高さを反映して、中国産やタイ産、それにアメリカ産よりもおおむね高くなっている。品質のプレミアムをいくぶんか乗せて販売できるとはいえ、今の価格水準では量的な拡大に限度があるとみられている。日本では、一般に海外での日本産米の評価は高いと思われている。輸出量を増やすには一定水準の価格競争力がないと難しいだろう。その上、アメリカのトランプ大統領が相互関税を打ち出したように、国際情勢の変動にさらされるリスクも高まる。地道に生産コストの低減に取り組み、今よりも安く輸出できるようにすることが拡大の必須条件である。
農家減少で農地の集約化が必要である。生産面での農家の減少にどう対応するかが深刻な課題になる。主にコメを生産する農家・団体の数は、2030年には27万と10年で半減すると試算しています。農業従事者の高齢化が進み、減少のスピードは加速する見込みである。今のままの政策を続けることを前提にすると、2030年の生産量は567万トンにまで落ち込むと推計している。計画で掲げる数字と比べると、実に250万トン以上少ない水準である。
少ない人で生産量を増やすことが急務である。そのために最も問題になっているのが農地の分散である。大規模な生産者が耕作している水田は、一か所にまとまっているわけではなく、小さく飛び飛びになっているのが実態である。これでは労働生産性は上がらない。
農地の集約や大区画化をはじめ、あらゆる手段を使って効率を上げなければならない。それが結果的に生産コストを下げ、輸出競争力を高めることにもつながる。
昨日、小泉進次郎氏が農林水産大臣に就任し“コメ大臣”として、コメ離れを止める、スピード感を持って持続可能なコメ農政に取り組むと語っていた。コメ農家の大規模化、集約化を推し進め支援の在り方、海外マーケットへの売り込みなど課題は山積しているが、まずはコメ価格2,000円台達成に向けて農協と対峙することとなるが、世論を味方に農政改革が進むことを期待してYELLを送る。
以上