「HACCP制度に関連した現場の困りごとQ&A」【制度化編】

「HACCP制度に関連した現場の困りごとQ&A」【制度化編】
Q&A regarding on-site problems related to the HACCP system【Institutional edition】

はじめに

 相談や質問があったものをQ&Aとして【準備編】【制度化編】【衛生計画編】の3回に分けて技術レポートにまとめ解説を行う2回目として、今回は、『制度化編』について詳述する。

Q&Aの事例

【Q.1】HACCPに準拠した衛生管理の導入によるメリットは何ですか?

【A.1】HACCPに準拠した衛生管理を導入することで最大のメリットは、すなわち国際標準に準拠して管理を行っている証となる。HACCPのガイドラインは、食品の国際規格を定める国際政府間組織の委員会で、Codex(コーデックス)については基礎編で説明したが、制定からすでに20年が経過している。現在では、HACCPは国際標準として国内外において定着した食の安全を担保する仕組みとなっている。
 食品事業者がHACCPを導入し、実践することによるメリットは、これまでの勘や経験による衛生管理から食の安全を「見える化」できることである。HACCPによって見える化することで、衛生管理は、科学的な根拠を持った衛生管理となるので、食品の安全性の向上につながる。さらにHACCPによる衛生管理は、食中毒の原因や食品への異物混入による事故などの防止、事故発生時の迅速な原因究明に活用できる。また、国際基準の衛生管理のHACCP導入により消費者に安心感を与えることができる。
 HACCPの7原則12手順を厳守することで、食品の安全・安心を消費者に担保できる取組として示すことができる。

 

【Q.2】HACCP以外のやり方ではNGですか?

【A.2】改正食品衛生法では、すべての食品等事業者は「HACCP」に沿った衛生管理の導入を義務付けている。また、民間規格である「JFS規格」、「FSSC22000」、「ISO22000」等を取得している場合、「規格の認証基準でCODEXと同様の要件が求められていること」を条件として、管轄の保健所による立入検査の際に、認定に必要な書類や記録、審査や監査の結果を活用できる。しかし、これら以外でのやり方(例えば、一般衛生管理の取組みだけ)はNGとなる。
〔補足〕総合衛生管理製造過程認証制度は現在廃止され、改正食品衛生法の施行日(2020年6月1日)以前に承認・更新の手続きが全て完了していれば、経過措置規定により承認・認証の日から3年間は効力を有するとされている。

 

【Q.3】HACCPに沿った衛生管理の導入が遅れた場合、罰則が科せられるか?

【A.3】改正食品衛生法では、HACCPに沿った衛生管理を導入しない場合や導入するのが遅れた場合を理由とした罰則は科せられることはない。
 改正食品衛生法が施行されても、直ちに全事業者がHACCPに沿った衛生管理を導入することは求められていない。しかし許可更新申請を行う際や2021年6月以降の新規許可申請を行う際にはHACCPに沿った衛生管理計画の提出が求められる。また、管轄の保健所が立入検査を行う際に、「HACCPに沿った衛生管理を導入しているか、していないか」が監視・指導される。この立入検査により事業者が衛生管理計画を作成していない場合や内容に不備がある場合、あるいは作成されていても遵守していない場合、改善に向けた行政指導がされる。この行政指導に従わない場合は、改善が認められるまでは、事業者に対して営業の禁止などの行政処分が科せられる。

 

【Q.4】食品を海外に輸出する際にHACCPは必要か? 

【A.4】食品を海外に輸出するためには、食品衛生法によるHACCP制度とは関係なく、HACCPを導入し実施することが望ましいと考えるべきである。理由は、商品を購入する側の立場になって考えるよい。HACCPは、食品の安全性を第三者に適切に開示することで消費者が判断するときの世界共通の取組みであり、共通の判断基準とすることができるためである。HACCPにより消費者に安心感を与えることが重要だからである。
 HACCPは安全な製品を製造するための世界共通の考え方であり、食品の国際規格を策定する国際機関CODEX委員会が制定した規格であることから、海外の食品取扱企業に対して「HACCPを実施している」ことを説明することで、具体的な製造方法や衛生管理の取組みを相手に情報として伝えることができることから、安全性を理解してもらえるなどのメリットがある。安全な製品を製造し、その取組みを示すことができることから、国際的な判断基準になる点が大きいといえる。

 

【Q.5】HACCP制度での衛生管理では、業種ごとに異なる点は何か?

【A.5】大企業と小規模の企業とでは、HACCP計画の作成や実施についても異なっていくる。例えば、CODEXの「HACCPシステムとその適用のためのガイドライン」では、「小規模の企業では、人・財源・施設・工程・知識等を考慮した弾力的な対応が重要である」と明記されている。さらに小規模の企業は、HACCP計画の作成、実施のための財源や現場で必要となる専門的な知識が不足している。そのため業界団体や専門家などから助言を受けるべきとも明記されている。
 厚生労働省のWebサイトで公表されている「小規模な営業者向けの手引書」を参考に取り扱う食材や調理法、製品などを踏まえて、危害要因分析や重点的な管理が必要な工程とその管理についての方法を検討することが大切である。
〔補足〕厚生労働省Webサイトの「小規模な営業者向けの手引書」以下URLを参考に参照
URL:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000179028_00003.html

 

【Q.6】自治体HACCP認証を受ける必要はあるか?

【A.6】改正食品衛生法では、「自治体HACCP認証を受ける必要はない」とされている。また、HACCP制度化による衛生管理が完全に施行された際は、各都道府県で認証されていた自治体HACCPは、原則として運用できなくなるので注意する必要がある。さらに厚生労働省が推進していた「総合衛生管理製造過程承認制度」も廃止されることが明記されている。
 改正食品衛生法では、小規模事業者がHACCPを構築するために「手引書」に従った衛生管理の取組みをすれば特に問題ない。すなわち「自分たちの製造環境で手引書の内容に準じた作業を実施できるようにすること」が求められる。
〔補足〕
現行の自治体による認証としては、以下の都道府県に実例がある。
北海道、青森県、岩手県、宮城県、秋田県、山形県、茨城県、栃木県、埼玉県、東京都、静岡県、愛知県、三重県、岐阜県、福井県、石川県、滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、和歌山県、奈良県、鳥取県、広島県、山口県、徳島県、愛媛県、高知県、熊本県、長崎県である。認証を受けたい組織が上記の都道府県で操業していて、認証対象の施設であることが必須条件となる。

 

【Q.7】都道府県ごとに食品衛生監視に伴う指導は異なるか?

【A.7】都道府県ごとの保健所の食品衛生監視員による監視指導は、改正食品衛生法の施行後、すべての地方自治体で統一された同じ衛生管理の基準によって実施されることになる。
そのため、2018年の食品衛生法が改正されるまで、各地方自治体で衛生管理の基準が条例で設定されていたため、多店舗展開している飲食店では地方自治体ごとに異なる監視指導を受ける必要があり、不利益なものとなっていた。この点が「HACCPに準じた衛生管理」の法制化によって衛生管理の基準が法令で規定されることになるので、監視指導の内容も業界団体が作成した手引書を基に平準化されることになった。

 

【Q.8】容器包装や外装包装資材の原料製造事業者もHACCPが必要か?

【A.8】対象事業者には該当しない。2018年の改正食品衛生法では「HACCPに沿った衛生管理」が、制度化されている。その法令では、食品用器具・容器包装製造事業者は直接の対象にならないとされているが、ただし食品用器具・容器包装事業者に該当する場合は、適正な製造規範(GMP)の対応が必須となる。また、この改正における「国際的な整合を目的とする食品用器具・容器包装の衛生規制の整備」の中で、食品用器具・容器包装は安全性を評価した物質のみ使用可能とする『ポジティブリスト制度』が導入されている。
 具体的には、次の条項に注意する必要がある。
①改正食品衛生法の第50条の3
「器具・容器包装事業者は、一般衛生管理及び適正製造管理(GMP)の取組みに関する省令で定められた基準に従い、公衆衛生上必要な措置を講じることが必要である」と明記されている。
〔補足〕
ここに明記されているGMPは、平成29年7月10日付、厚生労働省策定の「食品用器具及び容器包装の製造等における安全性確保に関する指針(ガイドライン)」に準して策定されている。
②同法の第50条の4
「ポジティブリスト制度の対象となる材質を使用した器具・容器包装事業者は、その取り扱う器具・容器包装及びその原材料がポジティブリスト制度に適合していることが確認できる情報を事業者間に伝達することが必要である」と明記されている

 

【Q.9】HACCPを導入・実施していることを対外的にアピールする方法は?

【A.9】JHACCPを導入・実施していることを対外的にアピールするには、必要に応じてHACCPが含まれている国際規格の認証取得があげられる。例えば、ISO 22000やFSSC 22000などになる。
 HACCP関連の認証には、次の3つがあげられる。
①自治体による認証
②業界団体による認証
③民間認証機関による認証

となる。
 改正食品衛生法の施行により①自治体による認証は廃止になることから、今後のアピールとしては、➁および③による認証を検討するのが望ましい。
〔補足〕
①業界団体による認証
次の業界に実例がある。ただし、認証を取得するには、それぞれの協会に所属している必要がある。日本炊飯協会、日本精米工業会、大日本水産会、日本弁当サービス協会、日本食品油脂検査協会、日本惣菜協会、日本冷凍食品協会である。
②民間認証機関による認証
ISO 22000、FSSC 22000、SQF、JFS – Cに実例があるが、認証機関や規格により認証できる業種が異なる。2018(平成30)年11月に日本発の食品安全規格『JFS – C』が国際的な組織であるGFSI(Global Food Safety Initiative)から承認されている。

 

【Q.10】HACCP導入の成功事例はどんなものがあるか?

【A.10】同業他社の導入動向や成功事例は気になるところである。成功事例については、比較的多く公開されている。HACCP関連セミナーや書籍などの事例を参考にするのが良い。 HACCPによる衛生管理を構築する際に重要となることは、「その基礎となる一般衛生管理をどの程度までにするか」によって異なってくる。その一般衛生管理は、HACCPの基礎であり土台となる部分である。一般衛生管理がどれくらい充実しているかによって、例えば同じ製品を製造していても、一般衛生管理が異なるとそれぞれの企業独自のHACCPが存在することになる。

 

【Q.11】HACCP制度化の相談窓口は?

【A.11】HACCP制度化に関する相談窓口は、必ず所轄する保健所に相談することが良い。HACCPの制度化の導入・実施・定着のステップを順次進めて行く必要がある。所轄する保健所ごとに多少対応が異なる場合があるので確認することが重要である。また、HACCPの導入・構築などは専門家に支援・アドバイスを受けることも望ましい。
HACCP制度化が完全施行した現在は、すべての食品事業者がHACCP制度化に対応する衛生管理計画に基づいた運用が実施されているはずであるが、導入後の定着や計画見直しなどの質問や相談も所轄する保健所、あるいは専門家から受けることが望ましい。

以上

【参考引用先】

  1. 厚生労働省HP https://www.mhlw.go.jp/
  2. 厚生労働省「HACCP導入のための手引書」
    URL:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000098735.html
  3. 厚生労働省「HACCP導入のための参考情報(リーフレット、手引書、動画)」
    URL:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000161539.html
  4. 食品産業センターHP https://www.shokusan.or.jp/
  5. 日本食品安全マネジメント協会HP https://www.jfsm.or.jp/
  6. 新訂「早わかり食品衛生法(食品衛生法逐条解説)」(2022)日本食品衛生協会
  7. 「食品衛生法対応 はじめてのHACCP」(2018) 日科技連出版社