「HACCP制度に関連した現場の困りごとQ&A」【準備編】

「HACCP制度に関連した現場の困りごとQ&A」【準備編】
Q&A regarding on-site problems related to the HACCP system【Preparation】

はじめに

 2020年6月施工の改正食品衛生法で、HACCPが制度化され、すべての食品等事業者は「HACCPに準拠した衛生管理計画」を作成し、実行しなければならなくなった。ただし、基本的なHACCP概要を周知しても現場の視点で眺めてみると、さまざまな困りごとを相談されることが多い。

 そこで相談や質問があったものをQ&Aとして【準備編】【制度化編】【衛生計画編】の3回に分けて技術レポートにまとめ解説する。

Q&Aの事例

【Q.1】そもそも「HACCP」とは何ですか?

【A.1】食品安全を図る仕組みの名称でHazard Analysis and Critical Control Pointの略称が「HACCP」として日本で紹介されている。日本語訳として「危害分析重要管理点」あるいは「危害要因分析必須管理点」と訳されている。厚生労働省は日本語訳を用いず用語として「HACCP」と表現をしている。
 HACCPとは、危害要因を特定し、食品をつくる過程で、その危害要因を管理するための仕組みといえる。
 厚生労働省のWEBサイトでは、次のような表現を用いている。
 「HACCPとは、食品等事業者自らが食中毒菌汚染や異物混入等の危害要因(ハザード)を把握した上で、原材料の入荷から製品の出荷に至る全工程の中で、それらの危害要因を除去又は低減させるために特に重要な工程を管理し、製品の安全性を確保しようとする衛生管理の手法です」と明記されている。

 

【Q.2】HACCPの説明に出てくる「危害要因(ハザード)とは何ですか?」

【A.2】厚生労働省のWEBサイトでは、次のように説明している。
 「食品製造におけるHACCP入門のための手引書(以下、HACCP手引書とする)」では、「危害要因(ハザード)」について、「健康に悪影響(危害)をもたらす原因となる可能性のある食品中の物質または食品の状態。危害要因ともいう。有害な微生物、化学物質、硬質異物などの生物的、化学的または物理的な要因がある」と明記されている。
〔補足〕国際政府間組織の委員会で、Codex(コーデックス)で作成された「食品衛生基本テキスト(以下、Codex HACCPとする)」では、次のように定義されている。
「健康への悪影響を引き起こす可能性をもつ、食品の生物学的、化学的または物理的な要因あるいは状態」と明記されている。

 

【Q.3】HACCPの「CCP」とは何ですか?

【A.3】「CCP(Critical Control Pointの略)」は、「必須管理点」または「重要管理点」と訳されている。現在は、「必須管理点」と用いる方が多い。
 CCPは、「安全な製品を消費者へ製造・提供するために、必ず重点的に管理しなければならない」と判断された工程である。食品工場の製造工程中の加熱処理工程や検査(金属探知機やX線検査機)工程がCCPとされることが多い。
 厚生労働省のWEBサイトでは、次のような表現を用いている。
「HACCP手引書」では、CCPについて「特に厳重に管理する必要があり、かつ、危害の発生を防止するために、食品中の危害要因を予防もしくは排除、またはそれを許容できるレベルに低減するために必要な段階。必須管理点ともいう」と明記されている。
〔補足〕Codex HACCPでは、次のように定義している。
 CCPを「コントロールでき、食品の安全性に対する危害要因を防ぐ、除去する、または許容レベルまで引き下げるために必須な段階」とある。

 

【Q.4】管理基準とは何ですか? 

【A.4】管理基準とは、「CCPが正しく機能しているかどうかを判断するための基準」である。

 厚生労働省のWEBサイトでは、次のような表現を用いている。 「HACCP手引書」では、「危害要因を管理するうえで許容できるか否かを区別するモニタリング・パラメータの限界、許容限界ともいう」と明記されている。

 例えば、加熱による殺菌工程がCCPの場合、管理基準(許容限界)は、「加熱温度およびあるいは加熱時間」を取るのが一般的である。金属検出機による異物探知工程がCCPの場合、正確な金属探査機の通過後、NG製品を確実に管理することが管理基準になる。

〔補足〕Codex HACCPでは、管理基準は「許容限界」とされていて、危害要因を管理するうえで「許容不可能と許容可能とを分ける基準」となっている。

 

【Q.5】一般衛生管理とHACCPを同じと考えて良いですか?

【A.5】一般衛生管理とHACCPを同じと考えるのは間違えである。この場合の一般衛生管理は、HACCPを構築するための土台になる。

 一般衛生管理は、HACCPを効果的に構築し運用するための基礎となるもので、主に製造環境の管理や衛生管理が該当する。

 厚生労働省のWEBサイトでは、次のような表現を用いている。

「HACCP手順書」では、一般衛生管理について「HACCPシステムを効果的に機能させるための前提となる食品取扱施設の衛生管理プログラム」と明記されている。「一般衛生管理がどれだけ的確に行われているか」で、HACCPにけるCCPなどの実務的な作業の負担度合いが大きく変わってくる。そのため、HACCPに取り組む前に、一般衛生管理を適切に行うことがポイントである。

〔補足〕米国のHACCPや医薬品製造規範等では、GMP(Good Manufacturing Practices:適性製造規範)といわれている。また、ISO22000やFSSC22000などでは、前提条件プログラム(Pre-Requisite Programs:PRP)ともいう。

 

【Q.6】前提条件プログラムとは何か?

【A.6】前提条件プログラム(PRP)は、HACCPを効果的に構築し、運用するための基礎となるもので、次の9つが主に製造環境管理や衛生管理か該当する。

① 食品取扱者の衛生管理・教育訓練

② 検査の実施(該当する場合)

③ 食品等の取扱い

④ 鼠族・昆虫対策

⑤ 施設・設備の衛生管理

⑥ 情報の提供

⑦ 回収・廃棄

⑧ 廃棄物・排水の取扱い

⑨ 使用水の管理

厚生労働省のWEBサイトでは、次のような表現を用いている。

「HACCP手順書」では、PRPについて「HACCPシステムを効果的に機能させるための前提となる食品取扱施設の衛生管理プログラム」としている。

〔補足〕Codex委員会が示した「食品衛生の一般的原則」の規範が基本になり、地方自治体の条例で定める「営業施設基準」および「管理運営基準」などがPRPに該当する。

 

【Q.7】ISO22000はHACCPとどこが違うか?

【A.7】ISO22000は、「食品安全マネジメントシステム_フードチェーンのあらゆる組織に対する要求事項」が正式名称である。ここで明記されている「要求事項」は、ISO規格が事業者に求める要求内容をまとめた事項である。ここで明記されているフードチェーンの対象には食品製造業だけでなく、原材料や包装資材の製造業、物流業者なども含まれる。そのためISO22000は安全な食品を消費者に届けるために守るべき事項を明確にした規格といえる。

 ISO22000の中にはHACCPと同様の考えが含まれている。「HACCPを行うために組織として何をしなければならないか」というマネジメントシステムとしての問題意識を明確にした国際規格かISO22000になるといってよい。

 HACCPは安全な製品をつくるための仕組みであり、ISO22000は組織として食品安全に取り組むための基本的な事項である。

 

【Q.8】ISO22000はFSSC22000とどこが違うか?

【A.8】ISO22000は、国際組織であるISOが発行する食品安全マネジメントの国際規格である。それに対して、FSSC22000は、FSSC(Food Safety System Certification Scheme)という国際組織が発行する食品安全マネジメントの国際規格である。規格という言葉の定義として「標準化によって決められたもの」あるいは「取り決め(標準)」を文書として明記したものである。

 ISO22000は【Q.7】で説明したとおり、食品安全に特化したマネジメント規格であるが、製品やサービスそのものを評価するものではない。マネジメントシステムについての取決めであることが特徴といえる。

 それに対して、FSSC22000は、国際食品安全イニシャチブ(GFSI:Global Food Safety Initiative)が承認した食品製造業のための枠組みである。ISO22000規格をベースにすることで、その不足内容を補完して、より発展的な食品安全のための国際規格になっている。

FSSC22000は、「ISO/TS22002-1 食品安全のための前提条件プログラム 第一部:食品製造」と「追加要求事項」を加えた内容で構成されている。

〔補足〕ISO22000とFSSC22000の2つは、まとめてFSMSと呼ばれることもある。FSMSのベースとなっている規格がISO22000で、これに要求事項を追加してより高度な内容にしたものがFSSC22000と考えて良い。

 

【Q.9】JFS規格はHACCPとどこが違うか?

【A.9】JFS規格は、JFSM(Japan Food Safety Management Association:食品安全マネジメント協会)が独自に開発した食品安全規格であり、HACCPを含んでいる。JFS-A規格、JFS-B規格、JFS-C規格の3つの規格では、ISOなどと同様にHACCPプラン管理・運用されていることが適合証明あるいは認証の条件である。

それに対して、HACCPにはガイドラインはあっても、「HACCP」という規格はない。HACCPは、食品安全のための手法、やり方、方式、技法の総称である。そのため、ISO22000、FSSC22000、SQF、BRCなどの規格の中で、HACCPの構築や運用管理が必須になっている。

 

【Q.10】モニタリングとは何か?

【A.10】厚生労働省のWEBサイトでは、次のような表現を用いている。

「HACCP手順書」では、「CCPが管理状態にあるか否かを確認するために行う観察、測定、試験検査」と明記されている。

〔補足〕Codex HACCPでは「CCPがコントロール下にあるか否かを評価するための、計画された観測の手順、またはコントロールのパラメータの測定を行う活動」としている。

共通していることは、「CCPが管理されているかどうか」を確認する方法としてモニタリングとしている。モニタリングの結果は、品質記録文書として保存・保管しなければならない。

以上

【参考引用先】

  1. 厚生労働省のWEBサイト「HACCP導入のための手引書」
    https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000098735.html
  2. 厚生労働省のWEBサイト「HACCPに沿った衛生管理の制度化に関するQ&A」
    https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000153364_00001.html