『プラント設備・機械装置の自動化技術の展開を考える』

『プラント設備・機械装置の自動化技術の展開を考える』
Consider the development of automation technology for plant equipment and machinery

 現在、生産現場では、労働時間の短縮化および労働環境のさらなる改善の要求、また人材不足、若者の製造業離れ、と総じて作業工程の省人化を図らなければならない状況にある。
そういった現状に加え、三品産業(食品、医薬品、化粧品)においては、製品のライフサイクルの短納期化や要求される品種の多様化が、今後一層進むものと考えられる。合わせて、合理化による生産性の向上や品質管理、衛生管理の徹底、さらにハイテク化、ファイン化への対応も必須不可欠の状況であり、これらのニーズに応えることが望まれている。

 自動化を進めるにあたって、生産システムをどう見直してどう改革するかを各企業が目的に応じた最新自動化システム確立への取り組みが注目される。そのためにはプロセスの計画、設計、運用、運転・制御の意志決定の方法論として、昨今、設備・装置のAI、IoT、ICT、ビッグデータ、デジタルツインなど各種IT技術を取り入れたスマート化の流れが主流となってきている。
 例えば、工場の中には数多くの生産プロセスがあり、また一つの生産プロセスの中には多くの単位操作が存在するといったような構造になっている。したがって工場の運用に関する意志決定をしようとする場合、膨大な数の単位操作の情報が必要となってくる。
 各種スマート化技術が単位操作に関する直接的な情報を工場全体の運用に利用することが可能になってきた。単位操作の情報いわゆるビッグデータが集約されて生産プロセスの意志決定に、また生産プロセスに関する情報が集約されて工場運用の意志決定に活用され始めている。
 また逆に単位操作の意志決定のためには、生産プロセスさらに工場全体の目標に関する情報が単位操作の意志決定に利用できるように分解されなければならない。
ここでもAIやIoTの技術が活用される。
 このような情報の集約と分解が要素機器から世界全地域レベルで合理的に行われるためには、どのような方法で情報の集約と分解がなされるべきかが課題である。
現在多くのIT技術が取り入れられ生産系技術と情報系技術の組み合わせが進められている。要素技術の自立分散系技術に展開され始めている。
 今後の展開として生産系技術にIT系技術をどのように計画、運用すれば合理的な自動化生産が可能になるか、といった方向に目が向けられてしまうが、自動化のしやすい生産系そのものハードの計画、設計が要求されている。

1. FAの概念

 FA(Factory Automation)の言葉の意味は工程の自動化である。自動化は自動車、電機を中心に相当古くから研究され、また実用化が進められてきた。こうした技術がFA、自動化技術とIT技術が融合して最近、三品産業である食品、医薬品、化粧品の分野で強い関心を呼んでいるのは、むしろ生産ラインが人手に頼る方法、人海戦術的工程が多いことにあり、少子高齢化、人材不足にともない人手が確保できなくなってきている。そのため工程の自動化による省人化に力点が置かれた考え方に基づいているためである。
 すなわち、FAは狭い意味では本来手作業を対象にした自動化技術を指していたものであるが、大型プラントのようないわゆるプロセス産業に対してはPA(Process Automation)が用いられていた。化学プラントや三品産業の例えば、飲料製造プラントでは主にこのPAの工程といえる。化学プラントや飲料製造プラントにおいては、自動制御技術は非常に普及している。特に連続プロセスに関しては、通常の条件維持に関する限りほとんど人手の介入する必要がないほど自動運転が導入されている。
しかし、自動化がイコール省力化とは限らず、無人化プラントなどは非現実的である。
化学プラントや三品産業の生産プロセスの自動化と省力化・省人化との乖離現象が見られる。
 本来自動化の目的の中で最も大きな問題が省力化であり、省人化であった。この乖離現象が顕著な三品産業は現在の生産体制の矛盾を考えると、人手不足となることがわかっている今こそ改めてFA化(自動化)が叫ばれている理由である。
 労働力に対する負荷を減少させる作業の自動化は、近年ロボットの導入という形で盛んに取り入れられている。今では、決められたことだけを行うという自動化から、設定した条件からずれたときに修正する動作を行うなど、AI技術を組み入れたロボットが学習し知能化が進められ年々進化を遂げている自動制御技術によるものである。
 化学プラントや飲料製造プラントは、装置産業といってよい。その意味するところは、生産作業が組立産業や機械加工産業のように人の手によって行われるのではなく、装置自身の中で現象的な過程によって製品がつくられるという構造を持っている。したがって、そこにいる人は生産設備が製品を造るのに最も適した条件に維持されているかを監視することが主たる役割となっている。
 自動制御技術が進めば進むほど、制御システムの守備範囲である運転条件の維持に関しては、人の介入する機会がなくなる。しかし、それで生産現場での人の役割がなくなった訳ではない。現在は、設備・機器の状態監視はできても不測の変化に対して常に有効に整定動作を果たしてくれるものではないことから、この部分に対しては人が臨機応変に対応しているのが実情である。
 例えば、ポンプが不調になって流量が低下するといった不具合が発生した時でも、従来の制御システムでは理由の如何に関係なく、バルブの開度を大きくするといった一般的な対応をすることになるが、この場合は問題の解決にはなっていない。これを、開度を大きくしても流量がそれほど増加しないという状況から、ベテランのオペレータはポンプの不調であることに気が付く。この部分についても、IT技術で対応できれば、省人化が図れるだろう。
 しかし三品産業などは、装置と人手が混在する産業であり、生産作業が人の手によって行われひと手間をかける工程が多い点が大きく異なりFA化を困難にしている。
自動化が進んでも省力化・省人化が実現しない理由の最大のものは、制御範囲外の事態が発生した時の対応策が自動化されないからである。この点が、AI技術とIoT技術でベテランオペレータと同様の判断が可能になる自動化となるが、これは異常時の対応であるとすると、設備・機器自身が異常原因の同定を行う知能化が求められることである。

2. プラントの自動化の展開

 実際のFA化とは具体的に何を指すのかは特にその定義がなされている訳ではない。自動車、電機産業や化学プラント、最近注目されている三品産業などそれぞれの自動化技術として共通するのは、省力化・省人化をどの工程に導入し、有効に活用できるかである。
 自動化の目的について、人に頼っていた作業を機械化、ロボット化するという意味で省力化・省人化が直接的な狙いになるが、実際に自動化を実現する場合には、労働コストとの比較という単純なことではなく、さまざまな自動化の効用を評価した上で導入されるべきである。
 現状は、大幅な人員削減を目的にしているわけではないが、特に付加価値を伴わない人の作業、例えば物の運搬については、積極的にFA化の導入を考えるべきである。そのためにも重要なのが、AIなどのIT技術をどう加味するかであり、キーポイントに据えるべきである。付加価値を生む作業に人員を投入して生産性の向上を図るべきである。

2-1. 品質の高度化

 化学プラントや飲料製造プラントにおける品質管理の問題は、一般の製造プラントにおいては製品の製造工程を直接管理することができるのとは異なり、製造条件を管理するという間接的な方法に頼らざるを得ない。製品の形態が一品ずつではなく多品種となり物性が変わるなど、それぞれの品質がどの運転条件に左右されているのかを管理しなければならない。化学製品や医薬品など製品品質に対する要求が厳しく、しかも同じ製品でもその銘柄の種類が多様であるために、それに応える品質管理技術としては、従来の人の経験に頼る方法で高純度の製品が要求されると、条件管理ではなく濃度管理を行うために、いわゆるアドバンスト制御方式を採用しなくてはならなくなるが、ここにAIなどのIT技術が有効に働くようにすることがポイントである。

2-2. 操業の安定化

 人が本来持っている機能の中には、変化に対応して制御する能力があり、当初はそれを利用してプラントのマニュアル運転を行っていたが、性質の悪い動特性をもったプラントの場合には人では追随できないといった問題も起こり得る。しかし、それ以上に問題なのは、運転中常時プラントから眼が離せないという、人にとって過酷な要求があることである。
 プラントが高度化すると、あたかも自動車の運転や飛行機の操縦と同様な機能としてプラントの運転を考えるにしては相手のプラントの挙動が複雑過ぎるし、管理すべき項目数が多過ぎて安定した操業を確保することは困難になる。ヒューマンエラーなどのリスクも考慮しなければならない。
 この問題は、自動制御の機能として最も重要視されているものであり、現在では制御が必要な状態量に対してはほとんどすべて制御ループが設けられている。既存の部分的なPID動作による定値制御方式では十分に安定な運転が確保し難く、総合的な制御システムによる安定性を図ることである。さらにIT技術を積極的に不安定要因に対して整定するような制御システムに組み込むことがポイントである。

2-3. 生産性の向上

 PID制御系は基本的には一つの制御変数に対して一つの操作変数が対応し、閉じたループを形成し、それが与えられた設定値となるように制御する構造であるので、他のループとは基本的に無関係に操作されることになる。
しかし、プラント全体を最も有利な条件で操業しようとすれば、各制御変数に与える設定値は独立には決められず、こうした問題を扱うためには、各制御ループを統括する上位制御が重要となってくる。運転の自動化によって生産性を向上させる可能性は現在のIT技術の進化に追随して、上位の統括制御(MES:生産実行システムなど)の質の向上が図られることから生産性の向上につながる。

2-4. 安全性の確保

 自動化技術による安全性の確保という考え方には、これまでも多くの議論がなされている。過去に起こったプラント事故の原因を調査した結果を考察すると、人による誤操作、誤判断によるヒューマンエラーのものがかなりの部分をしめている統計が出ている。
こうしたヒューマンエラーに起因する事故を減らす最も直接的な対策は人による操作を極力減らすことである。すなわち自動化は安全性の確保につながると考えられる。
一方では、予め全ての異常現象に対してできることを前提に設計されていない自動化システムであるから、システム自身の故障も含めて、システムの機能を超えたトラブルの発生の可能性が他の手段によって完全に取り除くことができない限り、自動化システムだけによって安全化が確保できるかどうかという疑問も拭えきれない。
 完全無人化のプラントを前提にしている訳ではない。こうしたバックアップは人が行うという方法を当面は取らざるを得ない。分散型制御システムにAIやIoT技術を導入して制御精度が大幅に向上してきたためプラント内の異常の兆候がこれまでよりも非常に早い時点で察知できるようになった。自動制御技術の向上はこうした面からも安全性の確保に寄与するところが大きい。

2-5. 省力化・省人化の実現

 省力化・省人化の問題は既に議論がされるが、FA化の狙いとして取り上げる。最近の動向としては、人材不足により、プラントオペレーションのような仕事に従事することが敬遠されがちである。またプラントに限らず全ての作業が無人化をすることが技術の進歩であると考えることにより、プラントにおいてもできるだけ省力化・省人化を実現したいという要求か強く望まれている。ここで最大の問題点は、自動制御技術がこれほど高度なシステムを提供することができるようになった現在でも、そのようなシステムが進化を続けている。想定していなかった予想できなかった問題、保全で見逃した問題をオペレータに任せている限りは、オペレータの人数を削減することはできない。IoT技術の活用によりプラント設備・機器管理技術の充実と合わせて工場全体の体制を考えた全体最適化と省力化・省人化が達成可能と考えられる。

2-6. 技術の高度化

 ここまで挙げてきた自動化の効用は、大体において合理化手段としての位置づけであったが、今後の問題として高度な自動化技術を前提としたプロセスが提案され実用化が始まっている。他の分野では、例えば半導体の製造プロセスにおいては人が顕微鏡を覗きながら微細な作業をしていたのでは、生産性は向上しない。このような作業は自動化することによって圧倒的な高速で、精度よく実現できる。研究開発の段階から、プロセス開発の一環として自動制御技術のカスタム化を図ることによって、独自のプラント構築が可能になる。
 IT技術よるデジタル化は、仮想現実によるバーチャル工場など新たな技術VRなどに発展してさらなる高度化が見られる。プラント開発段階での導入により最適化が図られている。デジタルツインなどVRと現実プラントが連動して遠隔操作も可能となりつつある。

3. FAの背景

 コストを抑えるために生産拠点を海外に移した企業も多くありますが、近年では人件費の高騰により海外生産のメリットが少なくなってきている。さらにグローバル競争も激化し、生産現場には抜本的な改革が求められている。その手段のひとつがFAである。なぜFAが求められているのか、IT技術に加えて画像処理技術、センシング技術が必要とされているのか、といった背景とFA化のメリットについて考えてみる。

3-1. 量から質へ ~グローバル競争で優位に立つために~

 製造業にとって生産コストは永遠の課題である。日本の主要メーカーの多くが中国をはじめとしたアジア諸国に生産拠点を展開したことも、安い労働力によるコストダウンを図るためであった。しかし、昨今では現地の人件費も高騰し、海外生産のメリットであるコストダウンが見込めなくなりつつある。さらに新興メーカーの品質も上がり、製造業における国際競争が激化。そこで求められるのが「量」から「質」への転換である。従来は人手に頼っていた生産の在り方を改め、全自動に近い生産ラインを構築することで高品質な商品を安く、効率的に供給することが必要だといえる。そして、人手に変わるものが協働ロボットや高度なセンシングをはじめとしたFA機器である。

3-2. 労働人口減少対策 ~少子高齢化に向けた省人化ラインの実現~

 

 生産拠点は海外だけではなく国内にもあり、国内の生産拠点には別の課題がある。それが少子高齢化に伴う労働人口の減少である。ある調査によると、2030年に日本の就労世代である16~64歳までの人口が現在より1,400万人減少すると予測されている。現在のような人に依存した「ものづくり」は、人手不足によって困難を極めていく。このような少子高齢化による労働人口減少という課題を解消するためには、省人化を実現できるFA化が欠かせないものとなっている。

4. FAの開発動向

 FAの究極形、完全自動化ラインによる未来像はどのようになるだろうか考えてみる。
創生期のFAは、人の目や手ではできない工程や精度が要求される作業などをセンサでカバーする、補助的な使い方が主流であった。しかし、センサ技術や制御技術のイノベーションにより立場は逆転しつつあり、現在の生産現場ではセンサやロボットなどが主役になり、人がその補助を行うケースも増えている。これにより工場の省人化は進み、生産効率アップやコストダウンを実現する取り組みが旺盛である。しかし、未だに生産ラインには人が介在している。これを全自動に準ずる生産ラインにすることで、さらに2~3割のコスト削減が見込め、生産性や品質の向上などの恩恵も受けられる。日本はもちろん世界が求めているFA化は、完全自動化ラインであり、各企業はその実現を目指してチャレンジを続けている。

5. FA化の課題 ~FAが目指すこと~

5-1. 人件費の削減

 安い人件費と多くの労働力を求め、世界の製造業が中国に生産拠点を設けている。しかし、中国現地の最低賃金は10年で3倍にも高騰しており、それはアジア諸国全体に波及。そのため海外生産のメリットは薄まっている。完全自動化に近いFAであれば人的コストを最小化し、生産性を最大化できるので、労働賃金に左右されることなく一層の高収益化が図れる。

5-2. 不具合の撲滅

 日本の「ものづくり」は、ベテランオペレータに頼ってきた側面がある。しかし、経験と知識を持ったオペレータは定年を迎え、少子高齢化によって若い技術者は不足し、技術の伝承が困難になりつつある。高い精度と品質で技術大国となった日本であるが、このままで品質の維持は困難である。少ない働き手で量産を続ければ品質が伴わず、商品の歩留まりが極度に悪化する可能性もある。それは企業の信頼を傷つけ、ブランドイメージを低下させることにもなりかねない。そのような将来を見据え、人手に頼らない生産システムを構築することが大切である。

5-3. 製造時間の短縮

 FAが効果を発揮するのは、組み付けや製造といった工程だけではない。従来は人の目によって行っていた商品検査でもいかんなく力を発揮する。例えば目視で1秒間に検査できるのはせいぜい数個単位であるが、最新の画像処理センサを活用すれば1秒間に約300個と100倍近い検査が可能になり年々性能が向上している。ボトルネックになりやすい検品や検査工程の時間を大幅に短縮でき、作業員の削減など生産コストの圧縮にも効果を発揮できるようにすることである。

 最後に、現在コロナ禍の状況にあり、人海戦術的な生産ラインは清浄な環境であっても感染のリスクはどこにでもある。ならば、人と人のソーシャルディスタンスが保てるように人の介在を極力協働ロボットやFA機器に置き換えていく取り組みが求められている。
 そのためには、特に化学プラントや三品産業向けの高度なFA化に向けたハード、ソフトのさらなる技術革新と連携が必要と考える。

以上