技術用語解説37『空中落下菌 (Airborne microorganisms)』

技術用語解説37『空中落下菌 (Airborne microorganisms)』

 大気中には微細な塵埃に付着して風などによって空気中に舞い上がった微生物、あるいはきわめて微小な水滴に含まれる細菌などが浮遊している。これらを空中浮遊菌という。空中浮遊菌のうち、比較的大きな粒子径をもったものは重力によって落下してくる。これを空中落下菌という。
 外気中の浮遊菌の種類と数は動植物の存在、土地の性状、大気の温度、湿度、風の強さ、方向などの影響を受け、時々刻々に変化する。大腸菌、赤痢菌などは乾燥に弱く、生きたまま長時間空中を浮遊することはないが、球菌(Micrococcus)、有胞子桿菌(Bacillus)、連鎖球菌(Streptococcus)などは、乾燥に強く、空気中に長く浮遊し、その数も多い。同様に乾燥に強いAspergillus、 Pe-nicillium、Cladosporium、Mucor、Rhizopusなどのカビの胞子が次いで多く、産膜酵母、Rhodotorulaなどの酵母も少数存在する。塵埃数と菌数は比例しないが、有機性の塵、植物性の塵には菌が多く、また、季節的には晩春から秋にかけての温暖、多湿の時期に多く、冬期には少ない。
 室内の空気は換気が制限されるため、局部的に特徴のある菌叢を示す。食品工場の空中落下菌あるいは空中浮遊菌は、直接食品を汚染し、あるいは容器、器具、機械を媒介として汚染し、製品の変敗、劣化などをもたらす。 食品工場の空中菌は外気中の浮遊菌の状態のほかに、工場内の場所、換気量、稼動状況、作業員の動きなどの支配を受ける。たとえば、 原料倉庫あるいは選別場所などでは原料に付着している細菌やカビの胞子が舞い上がり、また工場の床、天井など特定の場所に付着している菌が乾燥時に空中に浮遊して菌数が多くなり、特定の菌群が著しく増大することがある。室内の浮遊菌の濃度には、作業員の数、動きも大きな影響をもつ。これは細菌の室内発生源は主として人体によるためで、特に活動を伴うときに著しく増加する。
 空中菌の測定方法は、一定時間内に自然落下する微生物(細菌、真菌)数を測定する空中落下菌測定法(落下法)と、一定容量の空気を強制的にサンプリングし、その空気中に含まれる微生物(細菌、真菌)量を測定する空中浮遊菌測定法とがある。落下法での測定値は空中菌の うち比較的大きな粒子径をもつものを選択的に捕集したもので、空中菌全体の実態を示しているとはいえず、また得られた菌数を一定の空気量に関連づけることはできない。 しかし、環境条件が比較的安定していると考えられる同一測定場所 (点) での落下法による経時的な測定値の比較は、その場所(点)での空中菌による汚染状態の一つのモニターとなし得る。
 さらに、落下法による測定値は食品の開放面に付着して変敗・劣化をひきおこす微生物汚染の絶対量の表現として、きわめて重要なものである。従前のわが国の食品工場における衛生管理では空中落下菌数を指標にしている。衛生検査指針による室内空気の細菌学的清浄度 の規準を表1.に示した。

表1. 室内空気の細菌学的規準
落下細菌数* 30以下 31~74 75~100 151~299 300以上
許容度 A B C D 不適

*印:シャーレは5分開放 許容度はC左端 (75まで)

表2. NASAによるバイオクリーンルームの細菌数基準
等 級 1ft²中の生物粒子最大数 1ft²に1週間で落下する
生物粒子数
100 0.1 1,200
10,000 0.5 6,000
100,000 2.5 30,000

食品工場で空中菌の汚染を極力抑えるにはバイオクリーンルームの導入などが必要で、この際の清浄度は表2.に示したNASA基準でクラス10,000~100,000で十分とみなされる。

以上

【参考文献】
1. 「無菌化技術便覧」著者:山崎省ニ 出版社:(株)ビジネスセンター社
2. 「食品工場における空気中微生物モニタリング」著者:山崎省ニ 出版社:(株)ビジネスセンター社