技術用語解説36『バイオマス (Biomass)』

1. 定 義

バイオマスは、本来生態学において、生態系の中に存在する生物の総量を表わす用語で、「生物量」とも呼ばれる。動物、植物を問わず、すべての生物有機体を指すが、実際には植物体のみを指すことが多い。特に植物体だけに限定してその総量を表すときにはファイトマス(Phytomass)という言葉が使われることもある。
地球上のバイオマスの現存量は、控えめの推定値でも乾燥重量で約1.8兆トンあるとみられる。また年間の生産量すなわちフロー資源としては、最低730億トン程度あると見積られている。非生物有機資源の代表的なものの1つは石油であるが、その推定埋蔵量は地球上のバイオマスのストック量にはるかに及ばないとみられている。
しかも、石油等の化石資源は更新不可能であるのに対し、バイオマスは更新可能な資源であ り、適切な資源管理の下に利用すれば尽きることがない。

2. バイオマスの生産・収集

バイオマスの元は太陽エネルギ ーによる光合成産物である。太陽放射量、気温、水、土壌などの諸条件によって、1ヘクタール当たり数トンから数十トンの乾物有機体が生み出される。バイオマスは、種類を選ばなければ、上記諸条件を満たす限り、どこでも生産可能で、化石資源に比較して、地域的偏在性が少ない。 現存バイオマスの90%以上は、森林であり、自生状態のものが多く、これを人間が収集利用しているが、造林のように人間が積極的に管理して、その生産力を高めることも行われる。農業は人工的バイオマス生産の代表的なものであり、必要なものを計画的に生産管理し、利用することができる。バイオマスは上記のように比較的広く分布し、しかも生物体であるために損傷腐敗しやすく、その収集と運搬には独自の技術が必要であり、また嵩高いため輸送費用が高くなり、そのままでは輸送距離と利用地域が限られることが多い。

3. バイオマスの変換・加工

バイオマスをその利用目的に沿って、利用価値を高めるため、あるいは貯蔵性や輸送性を改善するために、変換、加工が行われる。その方法としては、微生物や酵素による生物学的方法、熱や薬品などを用いる化学的方法、粉砕、分離。分級、高密度化などの機械的方法がある。
例えば、バイオマスを燃料として用いるとき、植物体をそのまま燃やしたのでは、極めて限 られた用途にしか適せず、また貯蔵、輸送にも不便である。そこで1つの方法としてエタノール変換を行う。すなわち、植物体を粉砕し、温水で澱粉を溶解分離し、酵素反応で糖化した後、アルコール発酵を行ってエタノールに変換する。繊維質も脱リグニンの後に、セルラーゼによって糖化することが可能である。バイオマスから液体燃料を得るには油脂植物や石油植物から、それぞれディーゼル油やガソリンに近い植物油を抽出することも行われてきた。気体燃料としては、バイオマスを熱分解する方法と、メタン発酵によってメタンに変換する方法が主要なものである。固体燃料を粉砕や圧縮成形によって取扱性や燃料効率の向上が計られるなどの改善が図られている。

4. バイオマスの利用

バイオマスは、食料、飼料、繊維、建材、工業材料、燃料、肥料、薬品原料などとして昔から多方面に利用されてきている。これらの用途に適した種類の植物が選ばれ、さらに育種 や栽培技術の向上とともに、品質、生産量の向上、省力、生産コストの低減が図られてきた。
近年、化石資源の活用においては地球温暖化や環境問題についての認識が深まるにつれて、特にエネルギ資源や工業材料としてのバイオマスの利用が計られつつある。このようなバイオマスの用途の拡大、消費量の増大とともに、食品ロスなどの問題から発生している食品などの廃棄物を活用した従来からのものとの競合やとうもろこしなど穀物類の過度の収集による生態系の破壊を避けるためのバイオマス資源管理が要請されるようになっているが、エネルギ問題解決の方法として再度見直しする時期かもしれない。

技術レポートにも取り上げたが、食品や飲料製造業においてもバイオマスの利用や環境問題を考慮した包装資材のバイオマスプラやモノマテリアルが今後注目されるだろう。