技術用語解説38『 凍結変性 (Freeze denaturation) 』

技術用語解説38『 凍結変性 (Freeze denaturation) 』

1. 定義

 食品や動植物組織を凍結すると、成分や組織にいろいろな変化が起こる。それら変化の中で、白質の凍結による変化を凍結変性と言い、冷凍変性とも言われる。
 タンパク質化学における変性の定義は、タンパク質が生の状態とは異なる状態に移行することを言う。生(未変性)のタンパク質はペプチド結合で連なったアミノ酸の鎖が折り畳まれてタンパク質固有の高次構造を保っている。何らかの要因によって、この構造が壊れることが変性である。そして凍結によって引き起こされるタンパク質の構造変化が凍結変性である。ところで、食品で取り扱うタンパク質は生の状態から加工処理を受けて変性したものなどいろいろである。そして凍結した場合に見られる変化は、そのタンパク質が変性あるいは未変性に関わらず共通であることが多い。そこで食品のタンパク質に関しては、凍結前のタンパク質が変性、未変性に関係なく、凍結に起因する変化を凍結変性と呼んでいる。

2. 凍結変性の機構

 食品中のタンパク質の凍結変性として知られている現象は、魚肉や畜肉を長期凍結保存したときに見られる硬化やスポンジ化、それに伴うゲル形成性の低下やドリップの増加、卵黄の長期間凍結による粘稠化、牛乳の長期間凍結によるカゼインの凝集とホエーの分離、豆腐 の凍結によるスポンジ化などである。凍結変性はタンパク質を取り巻く水が氷になることにより起こる変化であり、他の変性に比べて緩やかに進行する。そのため凍結変性に至るまで には長時間かかる場合が多い。凍結変性の進行は一般には-10℃以上の比較的高温で促進 され、それ以下の低温では抑制される。また凍結する際の氷結晶のでき方によっても影響 され、緩慢凍結により大きな氷結晶ができると凍結の影響を受けやすくなる。凍結変性の機構に関しては、いろいろな説があり、次のような3つがあげられてる。
① 多量の水分が凍結するため、希薄であった塩類が未凍結水の中に濃縮され、これにより蛋白質が塩析を受けて変性する
② タンパク質が未凍結水の中で濃縮されて接近し、分子間相互反応による結合が出来て巨大分子化する
③ タンパク質を取り巻く水和水が凍結するため立体構造に変化が起こる
などである。
 タンパク質分子の立体構造の安定性や分子間の反応性はタンパク質によって異なることや、凍結を受ける際のタンパク質の存在状態がさまざまであることから、凍結変性の機構も一つではない。

3. 食品の凍結と凍結変性防止

 食品の凍結のほとんどは保存を目的にしている。この場合には凍結変性をできるだけ抑えるため、急速凍結を行い、低温で貯蔵する。例えば、魚肉や畜肉では-20℃以下、マグロのように肉色の変化しやすいものでは-50℃以下で保存される。冷凍食品には-18℃以下の保存基準がある。凍結変性は低温に保つ以外に、糖、糖アルコール、重合リン酸塩などの添加によって抑制される。凍結変性を起こしやすいスケソウダラなどの魚肉に、これらの添加物を凍結変性防止剤として加えて長期間の凍結保存を可能にした。それにより練り製品の主要な原料である冷凍スリ身として広く使われるようになった。

4. 凍結変性を利用した食品加工

 凍結保存では嫌われる凍結変性であるが、これを利用した食品加工法に凍り豆腐の製造 がある。大豆タンパク質が凍結によりスポンジ化する性質を利用して、高水分の軟らかな豆腐を、保存性と独特の歯応えのある凍り豆腐に作り替える。凍結変性を促進するため緩慢凍結を行 い、-3℃前後の比較的高温の冷蔵庫に2~3週間保つ。氷の間隙に濃縮されたタンパク質が新 たな分子間結合を作るため、氷が解けてもそのままの形を保ってスポンジ状になる。これを解凍後、脱水・乾燥して凍り豆腐に仕上げる。

 これらのように凍結変性の性質を利用した食品製造技術として各種の加工に応用されている。

以上