技術用語解説30『スマート農業(Smart agriculture)』

技術用語解説30『 スマート農業 (Smart agriculture) 』

 食品工場などで扱う原料は主に農林水産品である。なかでも農業分野に関する技術革新が進んでいる。いまICTやロボット、AIなどを活用した次世代型の農業「スマート農業(スマートアグリ)」が登場し、注目を集めている。

1. スマート農業とは

農林水産省は、「スマート農業」を「ロボット技術やICT等の先端技術を活用し、超省力化や高品質生産等を可能にする新たな農業」と定義している。
海外では、

  • スマートアグリカルチャー(Smart Agriculture)
  • スマートアグリ(Smart Agri)
  • アグテック(AgTech)
  • アグリテック(AgriTech)

などとも呼ばれており、日本よりも一足先にさまざまな国で導入されている。
 農業は、特にこれまでITやICTといった技術とあまり縁がないと思われがちだった分野だけに、導入が難しいとされてきた。それがここ数年の間に一気に加速し、規模の大小を問わず、導入も急速に拡大しつつある。

2. スマート農業の目的

 日本の農業において、スマート農業を導入する目的として、以下が考えられる。

① 農作業の省力化・労力軽減

 ひとつ目は、農作業における省力・軽労化だ。日本の農業は、個々の農家の高齢化が進み、深刻な労働力不足に陥っている。
そんな日本の農業の現場の苦労を、ICTなどを活用して支援していくことが求められている。

➁ 農業技術の継承

 ふたつ目は、新規就農者への栽培技術力の継承だ。跡継ぎや農業を継承する人材が不足し続け、これまで家族の継承のなかで培われてきた農業技術を、スマート農業のシステムなどによって継続的に継承していけるようにすることにある。

③ 食料自給率の向上

 3つ目の目的は、日本の食料自給率対策としてのスマート農業だ。日本の食料自給率(カロリーベース)は2018年度で37%と、輸入が自国生産を大幅に上回っており、適切なバランスが保てているとは言いがたい。前述のような人材不足のなかで収量を上げて自給率を高めるためには、少ない人員で農産物を確実に育てるうえで、センサーやロボットによる自動化が欠かせなくなる。

3. スマート農業の主な取り組み

 近年、次のようなスマート農業の取り組みが行われている。

① ロボット技術×農業

 農機ロボットの自動操縦技術によって省力化を図り、収穫作業などをロボット技術により自動化する。
 カメラやセンサーを搭載して画像分析に活用するロボットもあれば、農薬散布などの重労働を担う自動飛行ドローン、レタスなどの作物の自動収穫ロボット、収穫した作物の選果や箱詰めをするロボット、荷物を運搬するロボットなどさまざまな目的と用途がある。
ロボット技術の開発が進むと、24時間365日、さまざまな作業をさせることも可能となり、生産性の向上や市場規模の拡大も見込める。究極的には、人間が行う作業をすべてロボットが肩代わりするという世界も実現できる。
 さらに、実作業だけでなく、人間しかできなかったような摘果(いいタイミングで果実を収穫すること)の判断や、かたちやサイズの選別といった部分も、AIと組み合わせることでロボットに任せる取り組みも進められている。
 世界的にも高齢化が進む農業界において、こうしたスマート農業によるロボット技術の活用と導入、そして普及は喫緊の課題だ。

➁ ビッグデータ×農業

 圃場の状況を撮影したり、センサーで計測したりして集めたビッグデータを解析し、効率的に栽培管理する方法を提示する農業も進められている。これらは「精密農業」も呼ばれている。
 たとえば、生育状況や病気、日照などの状況による変化が、データ解析により誰でも手軽にわかるようになる。野菜の収穫可能時期は一定濃度の炭酸ガス(CO2)の量によりある程度予測することができるが、炭酸ガスの量などを測定することで、収穫/出荷時期を予測することもできる。
 さらに、気象データなどのビッグデータを解析していけば、栽培に関するリスクを予測することも可能になる。過去のデータから生育の傾向を導き出し、確実に成熟した作物の収穫に結びつけることができる。
 天候は人間がコントロールするのは難しいが、不足している水分や日照などを他の方法で賄うことはすでに行われている。これらをIoT機器やロボットと結びつけることで、人間の作業がなくとも収穫まで行える農業も実現可能になる。

③ 人工知能(AI)×農業

 AIは新規就農者向けの技術やノウハウをシステム化して提供することにも活用できる。これにより、農業の経験や知識がない人でも、農業に従事できるようにして、人材不足の解決につなげる。
 すでに、作物の形状や色から成長度合いを解析し、収穫時期を予測・判断するプログラムなどが開発され、実用化している例もある。また、AIによる画像解析で農作物の病害虫の情報を早期発見したり、対処方法を提示したりすることもできる。いずれもすでに実証実験は始まっており、部分的に実用化されているケースもある。
 AIによる農業の分野で特に最近増えているのが、ドローンによる圃場の画像から生育状況を判断し、病害虫の場所を検知して対処するというものも開発が進んでいる。この技術は、大規模農家はもちろんのこと、小規模な圃場しか持たない中小農家でも実現可能な点で、後継農家や新規就農者を支える技術になっていくかもしれない。

④ IoT×農業

 IoTにより市場の動向や消費者のニーズを把握でき、ニーズに合った産物の生産が可能になる。需要予測が成り立てば、必要とする人に確実に野菜などを届けることもできる。より規模が大きいレベルでは、生産・流通・販売を連携させることで、輸送コストを低減し、効率化を図れる。
 稲作で言えば、トラクターでの走行時に土壌を分析し、収穫時にどれくらい乾燥させればいいのかを判断するIoTトラクターやコンバインの普及が始まっている。さらに、農業従事者の作業記録などを、スマートフォンなどを活用することも、スタッフの仕事負担の軽減や健康上の問題の早期発見にもつながる。

4. スマート農業のメリットとデメリット

 スマート農業を導入することによるメリットとデメリット、課題を表⒈に示す。

表1.スマート農業のメリットとデメリット / 課題
スマート農業
【メリット】 【デメリット / 課題】
  • 省力化による圃場の拡大・収量アップ
  • 肉体への負担の軽減
  • 農業ノウハウのデータ化&活用
  • 持続可能な社会を実現するための有機栽培・減農薬栽培の推進
  • イニシャルコストが割高
  • 個々の機器のデータ形式のバラツキ
  • スマート農業実施者の不足と育成
  • 農家への新たな作業負担
  • スマート農業で育てた野菜の食味

 スマート農業は、農作業の負担などを軽減してくれることは間違いない。しかしそれは、おいしい野菜などを作るための“手段”であって“目的”ではない。栄養価が高く、おいしい野菜を育てるための方法がスマート農業であるという点を忘れないようにしなければならない。

以上