『調味料・ドレッシングの汚染指標菌と加熱殺菌の基礎』

『調味料・ドレッシングの汚染指標菌と加熱殺菌の基礎』
Contamination Indicator Bacteria for Seasonings and Dressings and Basics of Heat Sterilization

1.はじめに

 調味料の分類として一般に統一されたものはないが、表1. に調味料分類の例を示す。

表1. 調味料分類の例

2.調味料・ドレッシングの微生物規格

 調味料・ドレッシングに限定した微生物規格については特に定められていない。

3.調味料・ドレッシングの危害原因微生物

 危害の原因となる汚染微生物について、表2. に調味料・ドレッシングの主な汚染指標菌について示す。

表2. に調味料・ドレッシングの主な汚染指標菌

4.加熱殺菌指標菌とその特徴

 調味料・ドレッシングに関係するかび・酵母および細菌の特徴を以下にまとめる。

(1) Moniliella acetoabutans
 ① 分節型と出芽型の2つの型の分生子を形成する不完全菌類
② 集落は白色~灰色。集落裏面は暗緑色
③ pH3または4で生育する
④ 酢酸酸度5%にも耐性を持つ
⑤ 食酢、ピクルス、ミントソース、マヨネーズなどの変敗菌として検出された

(2) Candida属菌
 ① 子嚢菌(しのうきん)酵母。多極出芽、白~クリーム色集落、平滑~皺状(しわじょう)
② 糖の発酵性あり
③ 漬物の変色、産膜の原因、惣菜、和洋菓子の白色斑点、水産加工食品の異臭変敗(粘質物)などを引き起こす

(3) Pichia属菌
① 子嚢菌酵母。多極出芽、白~クリーム色集落、平滑~皺状(しわじょう)
② 糖の発酵性は菌種により異なる
③ 皮膜形成により漬物の風味の低下、不快臭の発生、多種類の食品の異臭、包装容器の膨脹、白斑点の原因となる

(4) Saccharomyces属菌
① 子嚢菌酵母。白~クリーム色集落、平滑
② 糖の発酵性あり
③ 多種類の食品の白斑点、異臭、膨脹の原因となる

(5) Zygosaccharomyces属菌
① 子嚢菌酵母。白~クリーム色集落、平滑
② 糖の発酵性あり。耐浸透圧性
③ 漬物の容器などの膨脹、水産加工食品の変敗、糖蜜、加糖あんなど高糖濃度食品の異臭、ソース、ごまだれ、果汁入りドレッシングの吹き出しの原因となる

(6) Bacillus属菌
① 芽胞を持つ稈菌
② 芽胞は耐熱性があり、最低でも湯殺菌程度がひつようである

(7) Lactobacillus brevis
① 乳酸菌
② 15℃で生育するが、45℃では生育しない
③ 糖(グルコースや果糖など)を資化するがガスを産生しない
④ ミルク、チーズ、ザワークラフト、漬物、サワードゥー、サイレージなどから分離される
⑤ 動物の糞便、人やマウスの口中や腸内容物に存在する

(8) L.plantarum
① 乳酸菌
② 15℃で生育するが、45℃では生育しない
③ 糖(グルコースや果糖など)を資化するがガスを産生しない
④ 乳製品や環境、ザワークラフト、漬物、サワードゥー、サイレージなどから分離される
⑤ 人の口中、腸内容物や糞便に存在する

(9) L.fructivorans
① 真性火落菌に分類される。ヘテロタイプでガスを産生する乳酸菌
② 他の乳酸菌よりも耐熱性がある
③ 変敗マヨネーズ、サラダドレッシング、清酒、食酢、デザートワインから分離される
④ 至適pHは5.0~5.5。45℃では生育できない
⑤ 初発pHが6.0以上では生育できない

5.加熱殺菌不足による主な腐敗変敗事例

 製品中の食塩量を増やす、pHを下げる、アルコールを添加する、加熱するなどの対応で、製品を開封しない状態では製品の腐敗変敗事例はほとんど見られない。

(1) 味噌
 ① 産膜酵母による白色皮膜
② 辛口味噌が流通段階で酵母によって膨脹
③ 密封包装味噌がClostridiumでまれではあるが爆発的膨脹

(2) 醤油
① 微生物によるエステル臭
② 表面にかびが発生
③ 高浸透圧性酵母による発泡
④ 産膜酵母による白色皮膜

(3) ソース
開封後に酵母に汚染して発泡

(4) ドレッシング類、マヨネーズ
① 酵母(Pichia、Sac.bailii)が表面に生育
Moniliella acetoabutansが表面に生育
③ 乳酸菌(Lactobacillus)による膨脹

(5) ミントソース、果実ソース
Moniliella acetoabutansが生育

6.加熱殺菌基準と実用殺菌条件

 表3. 調味料・ドレッシングの加熱殺菌条件を示す。

表3. 調味料・ドレッシングの加熱殺菌条件

 表4. 酸度の違いによる目安とする殺菌温度条件を示す。

表4. 酸度の違いによる目安とする殺菌温度条件

【補足】
沸騰水で加熱殺菌する場合は100℃、果汁などの液体を熱交換器に通して加熱殺菌する場合は93.3℃、ピクルスなどの湯殺菌を行う場合は65.5℃が用いられる。

7.加熱殺菌指標菌の耐熱性データ

 表5. に調味料・ドレッシングにおける代表的な変敗原因菌の耐熱性(D値)を示す。

表5. に調味料・ドレッシングにおける代表的な変敗原因菌の耐熱性(D値)

最後に
 調味料・ドレッシングには微生物規格が特に定められていないことから、各種レポートや文献などを参考に製造および加工元において独自の衛生管理基準を策定することが重要であることから目安となる参考データをまとめた。

以上

【参考文献・引用先】

  1. 「微生物殺菌実用データ集」山本茂貴監修 サイエンスフォーラム