『器具・容器包装に係わる材質のリスクと分析技術(試験法)』

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『器具・容器包装に係わる材質のリスクと分析技術(試験法)』
Material risks and analytical techniques related to instruments and containers and packaging

 器具・容器包装における規格基準は、乳製品類に対する規格基準である「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令(昭和26年12月27日厚生省第52号)」(以下、乳等省令とする)と、一般食品に対する規格基準である「食品、添加物等の規格基準(昭和37年12月28日厚生省告示第370号)」(以下告示第370号とする)がある。
 乳等省令は日本特有の規格基準であったが、規制内容が告示第370号と重複しているものもあり、告示第370号と統合されることが決定している。これにより国内の器具・容器包装に対する告示第370号のみとなるが、乳等省令の規制対象である牛乳、特別牛乳、殺菌山羊乳、成分調整牛乳、低脂肪牛乳、無脂肪牛乳、加工乳、クリーム、調整液状乳、発酵乳、乳酸菌飲料、乳飲料および調整粉乳については告示第370号の用途別規格に組み込まれることで調整されており、乳製品類に対する規格基準がなくなるわけではないので要注意である。
 告示第370号では、器具・容器包装を構成する物質のうち、毒性が強く健康被害が生じる恐れがある物質のみを規制する「ネガティブリスト制度」が採用され、2018年6月13日に食品衛生法の一部が改正、公布され、器具・容器包装についても新たな規制が設けられた。改正の概要を表1.に示す。

表1.食品衛生法改正の概要
No. 改正の概要
1 広域的な食中毒事案への対応強化
2 HACCP(ハサップ)に沿った衛生管理の制度化
3 特別の注意を必要とする成分等を含む食品による健康被害情報の収集
4 国際整合的な食品用器具・容器包装の衛生規制の整備
5 営業許可制度の見直し、営業届出制度の創設
6 食品リコール情報の報告制度の創設
7 その他(乳製品・水産食品の衛生証明書の添付等の輸入要件化、自治体糖の食品輸出関係事務に関わる規定の創設等)

 器具・容器包装は合成樹脂、ゴム、金属、ガラス、陶磁器、紙、木などの材質により製作されている。これらの材質中には添加剤や不純物のほか、未反応の原料モノマーや分解生成物など、健康被害が懸念されるさまざまな化学物質が存在している。飲料容器の材質としては金属缶、ガラス瓶、合成樹脂等が使用されるが、材質により存在する化学物質も異なる。金属缶では金属由来のヒ素(Arsenic)やカドミウム(Cadmium)、鉛(Lead)の他、内面に使用されるエポキシ樹脂コーティングやフェノール樹脂コーティング、塩化ビニルコーティングなどのコーティング剤由来の化学物質であるフェノール(Phenol)やホルムアルデヒド(Formaldehyde)、塩化ビニル(Vinyl chloride)などが規制されている。ガラスはケイ酸塩を主原料とする無機物を高温で溶解、焼成させて製作されているため、有機物の残存は考え難く、原料や着色剤由来の重金属類が規制されている。また、加熱調理器具か否か容量により規格値が異なる。
 現在、飲料容器として多く使用されている合成樹脂は、樹脂の材質により規制内容が異なる。主に着色剤由来のカドミウムおよび鉛の含有量規制、有機物の総量を規制する過マンガン酸カリウム消費量(Quantity of KMnO4)、重金属類の総量を規制する重金属試験(Heavy metal)の一般規格と呼ばれる項目の他に、個別規格として樹脂特有のモノマーや添加剤が規制されている。例えば、PETボトルの材質であるポリエチレンテレフタレート(Polyethylene terephthalate)では、製造時の触媒としてアンチモン化合物(Antimony)やゲルマニュウム化合物(Germanium)が使用されるため、これらが規制の対象となっている。

1. 材質試験

材質試験とは器具・容器包装中に含有される化学物質の量を求める試験法であり、主に灰化法、溶解法、抽出法がある。前処理法の違いはあるが、基本的には試料の目的成分全量を酸や有機溶媒に溶かした溶液とし、その溶液を測定することにより含有量を求める試験である。表⒉に告示第370号で規制されている材質試験の前処理と測定方法について示す。

2. 溶出試験

器具・容器包装は直接体内に取り込むものではないため、それらに含まれる化学物質がどれだけ食品に移行して体内に取り込まれるのが重要となる。溶出試験は器具・容器包装から食品への化学物質の移行をシミュレーションする試験で、器具・容器包装に特有の試験法である。

表2.告示第370号の材質試験
  試験項目 前処理 測定方法
灰化法 カドミウムおよび鉛 450℃電気炉で灰化 AAS法又はICP法
バリウム 直火約300℃で炭化後、450℃電気炉で灰化 AAS法又はICP法
溶解法 揮発性物質 テトラヘドロフラン又はo-ジクロロメタンに溶解 GC法
塩化ビニリデン N、N-ジメチルアセトアミドに溶解 GC法
アミン類 ジクロロメタンに溶解 GC法
ビスフェノールA LC法
ジフェニルカーボネート
抽出法 ジブチルスズ化合物 アセトン及びヘキサンの混液(3:7)+塩酸1滴を加え、約40℃で一晩抽出 GC/MS法
クレゾールリン酸エステル アセトンニトリルを加え、約40℃で一晩抽出 LC法
2-メルカプトイミダゾリン メタノールを加え、約40℃で一晩抽出 LC法
フタル酸ビス
(2-エチルヘキシス)
アセトン及びヘキサンの混液(3:7)を加え、約37℃で一晩抽出 GC法
GC/MS法

【補足】測定方法
AAS法:原子吸光光度法
ICP法:誘導結合プラズマ発光強度測定法
GC法:ガスクロマトグラフィー
LC法:液体クロマトグラフィー
GC/MS法:ガスクロマトグラフィー/質量分析法

 本来であれば実際の食品を使って移行試験が実施できればよいが、夾雑物の影響や無数の食品での試験は非現実的であるため、実際の試験では食品に見立てた食品疑似溶媒を用いる。この食品疑似溶媒を規定の条件下(温度、時間、溶出割合)で試料と接触させることにより得られた溶出液を試験液とする。溶出方法には浸漬溶出法、片面溶出法、充填溶出法がある。

(1)浸漬溶出法 試料全体を溶媒に浸す溶出法である。資料が単一の材質に用いられる。

(2)片面溶出法 試料の表裏が異なる材質の場合に、専用の器具を用いて資料の片側だけを溶出させる方法である。

(3)充填溶出法  溶媒を満たすことができる形状の資料に用いる方法である。試料に溶媒を充填させるため、溶出割合が規定されている場合は、溶出後に規定の割合に換算する必要がある。

(4)食品疑似溶媒と溶出条件  告示第370号では食品を4つの食品群に分け、食品疑似溶媒を設定している。酸性食品には4%酢酸、酒類には20%エタノール、油脂および脂肪性食品には、へブタン、その他の水生食品には水が用いられる。へブタンは実際の油より溶出力が高く試料の材質により高数値となるため、規制値を高くすることにより補正している。 溶出温度条件は告示第370号の合成樹脂については使用温度帯が100℃以下か、100℃を超えるかの2区分が設定されており、食品疑似溶媒により温度と時間が決められている。また、溶出割合は試料の接液面積1cm2あたり2mlが採用されている。

 最後に
 海洋プラスチックなどでマイクロプラスチックなどの廃プラスチックが大きく取り上げられ世界的な問題となっている。現在の国内の器具・容器包装の法規制は、大きく変革しようとしている。新素材として生分解性樹脂の開発も活発になっている。既存物質はもとより新規物質についてもより高い安全性確保が求められている。告示第370号の試験法についても改正に向けた調整が進められていることから、今後も器具・容器包装の法規制等の動向について注視しなければならない。

以上

【参考引用先】
厚生労働省H.P:
1. 「食品用器具・容器包装のポジティブリスト制度について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_05148.html
2. 「食品衛生法の改正について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000197196.html