技術用語解説65『コロイド、ゾルおよびゲル (Colloids、Sols and Gels)』

技術用語解説65『コロイド、ゾルおよびゲル (Colloids、Sols and Gels)』

 水溶液中で拡散、透析の速さが著しく遅い物質をコロイドGRAHAMが呼んで以来、各種コロイドについて研究がなされ、コロイド的特性は物質に固有の性質ではなく、物質の状態(主として粒子の大きさ)に起因することが明らかにされた。
 コロイドはおよそ5nm ~0.1μmの大きさの粒子から成る分散系であって、この大きさをコロイド次元と呼ぶ。コロイド次元よりも大きな粒子の分散系は粗大分散系、コロイド次元よりも小さな粒子(すなわち分子)の分散系は分子分散系(すなわち真の溶液)である。しかし、電子顕微鏡などの発達 によりコロイド粒子を容易に見ることが出来るようになり、コロイド分散系と分子分散系(高分子溶液)との境界があまり重要でなくなり、統一的に扱われることが多くなってきた。
 コロイド分散系は分散媒と分散相(微粒子)の種類により、気体コロイド、粉体、多孔体、気泡、エマルション、サスペンション、ゾル、泡沫、クリーム、ゲル、固体コロイドなどに分類される。分散媒が水である場合、ハイドロコロイドと呼ばれる。
 ゾルとは分散相が固体で、分散媒が液体であるような分散系である。温度、 pH、圧力な どの条件が変化すれば、ゾルはゲルになる(ゾルーゲル転移)という。ゲルはゾルと同様、分散相が固体で、分散媒が液体であるが、ゾルのように自重では流動せず、形を保っている。しかし、ゾルもゲルも、水や油のような単純な流体(ニュートン流体)と完全弾性体(フックの法則に従う固体)との中間の状態にあり、その境界は必ずしも明確ではない。つまり、ゲルには限りなくゾルに近いものから、限りなく固体に近いものまでいろいろある。 「流動しない」といっても、ヘラクレイトスのいうように、「万物流転」であり、非常に長い観測時間の間には旧約聖書のDeborahのうたうように、 「山でさえ神の前では動く」と表現できる。
 あらゆる物質の力学的性質が観測の時間の長短により異なる様相を示すことが、レオロジー(物質の変形と流動についての科学)研究の出発点である。コールタールを板で強く打つ(速い刺激を与える。つまり観測時間が短い)と、コールタールは固体のようにふるまうが、コールタールの上に石ころを置くと、長時間の間には石ころは沈んでしまい、コールタールは流体のようにふるまう。従って、ゾルとゲルを流れるか流れないかということで区別することはあいまいな点を含むことになる。
 条件によりゾル ⇔ ゲルの転移がどの方向にも起こりうるものを可逆性ゲル、一度ゲルが形成されてしまうと、条件を変化させても戻らないものを不可逆性ゲルと呼ぶ。寒天やカラギーナン、ゼラチンなどのゲルについては、二重あるいは三重らせん分子が会合して秩序のある構造を形成し(この部分を架橋領域という)、これらの部分が分散媒(水)中にちりばめ られ、架橋領域間は長い鎖状分子により結ばれているものと考えられる。しかし、これらの最も良く研究されてきた熱可逆性ゲルでさえ、構造上不明の点が多い。ゲル → ゾル転移は、らせん分子あるいは伸長した分子の会合により形成されている架橋領域が崩壊していくことであると考えられる。これをジッパーが開いていく過程と考えて、DNAの融解やヘリックス ・コイル転移の説明に用いられたジッパーモデルにより説明する試みがなされいる。
 ゲルの耐酸・耐アルカリ性・保水性の善し悪し、透明性などの光学的性質、熱可逆か不逆か、熱伝導の善し悪しなどの物性・機能特性とゲルの構造との関係を解明することは、食品の製造、加工、調理の面できわめて重要なことである。熱不可逆性ゲルの典型のように思われていた卵白アルブミンゲルも調製法により熱可逆性ゲルを形成すること、ローカストビーンとキサンタンなど単独ではゲルを形成しないのに混合によりゲルを形成することが示 されたり、ジェラン、ウェランなど特異な機能性をもつ微生物多糖が続々と見出されたり、この方面の研究は一層活気を呈している。いろいろな起源のゲルやゾルの機能特性や構造について、各種の研究報告を参照することが大切である。

以上

【参考文献】

  1. 「食品ハイドロコロイドの科学」 西成勝好・矢野俊正 編 朝倉書店