技術用語解説55『分子調理(Molecular cooking)』

技術用語解説55『分子調理(Molecular cooking)』

 「分子調理」という言葉の定義は,科学すなわち「分子調理“学”」と,技術すなわち「分子調理“法”」で構成されていて、「分子調理“学”」は,「食材⇒調理⇒料理」のプロセスにおいて,食材の性質の解明,調理中に起こる変化の解明,おいしい料理の要因の解明などを分子レベルで行う“科学”とされている。それに対して,「分子調理“法”」は,おいしい食材の開発,新たな調理方法の開発,おいしい料理の開発を分子レベルの原理に基づいて行う“技術”と定義されている。

図1. 培養肉自動生産システムのイメージ(出典:島津製作所プレスリリース)
図1. 「分子調理」の定義(出典:宮城大学H.P 1.より転載)

 分子調理“学”と分子調理“法”は,互いに影響し合い,科学の分子調理“学”で発見した科学的知見が技術の分子調理“法”へと活かされ,また反対に,分子調理“法”によって生まれた新しい技術から分子調理“学”における新たな知見が引き出されるといった相互の関係性が注目を集めている。
 調理に関する現象を分子レベルで理解し,料理に対する新たな科学的知見を集積すること,ならびに分子レベルに基づいた新しい料理,新しい調理技術の活用が始まっている。我々の身近な家庭での調理に止まらず、商業的にも応用がされていて3Dフードプリンタでの活用において新たな食品製造技術としての注目度が高い。日本家政学会誌で述べられていたアイスクリームの例を引用させていただくと、次のように述べられている。まず、「マクロからミクロ」の観点からアイスクリームのおいしさを考えれば、その風味や深みのあるコクはもちろんであるが、何といってもその「舌触り」が重要である。とろける「滑らかさ」は、アイスクリームに欠かせない魅力の一つである。乳脂肪分の多い濃厚なプレミアムアイスクリームのおいしさの一つは、そのクリーミーな舌触りであるが、そのアイスクリームを顕微鏡等を使ってミクロレベルで調べると、アイスクリームの中の氷の結晶が小さいことが分かる。アイスクリームのクリーミーさは、アイス組織中の氷の結晶の大きさと密接な関係があり、氷結晶の大きさと舌触りの関係は、顕微鏡で観察すると、氷結晶が「35μm未満⇒著しく滑らかなアイスクリーム」、「35~55μm⇒滑らかなアイスクリーム」、「55μm以上⇒粗いアイスクリーム」となる。このように、アイスクリームのおいしさを分子や組織レベルで基礎的に研究することが、マクロからミクロの流れの分子調理、すなわち分子調理学の特徴と言えると、説明がされている。
 先にも触れたが3Dフードプリンタを支える技術として分子調理学と分子調理法が深く関わっている。「個別化食」への取組みが検討される中、3Dフードプリンタによる応用が始まっている。3Dフードプリンタに、個々人の年齢、性別、遺伝情報、病気の有無、運動の有無、その日の体調などの「個人データ」と、自分が食べたいものと好みを入力するだけで、栄養面や嗜好面が完璧に反映された「個別化食」が生み出される、そんな未来食が考えられるようになり、電子レンジや冷蔵庫と同じように一家に一台といった未来が来るかもしれない。
 「科学や技術によって料理をおいしくする」という考え方は、料理のプロの世界だけでなく、一般の人々にも広がって行くだろうと感じる。

以上

【参考文献・引用先】

  1. 「料理と科学のおいしい出会い 〜分子調理学への誘い〜」宮城大学H.P
    https://www.myu.ac.jp/seeds/006/ishikawa-shin-ichi/
  2. 日本家政学会誌(Vol.70 No.10 692 – 695 2019)「分子調理学のすすめ」_pdf (jst.go.jp)
  3. Maker Faire Kyoto 2021|『分子調理の日本食』出版記念 〜石蛙博士の分子調理講座
    〜|Molecule cooking in Japanese cuisine https://youtu.be/LOsHRGtkhoo
  4. 技術用語解説47『 3Dフードプリンタ ( 3D food printer ) 』木本技術士事務所H.P
    https://www.kimoto-proeng.com/keyword/2694