技術用語解説32『異性化糖(High fructose syrup)』

技術用語解説32『異性化糖(High fructose syrup)』

 ブドウ糖の一部を、その異性体である果糖に変換(異性化)して得られるブドウ糖と果糖の混合物で、異性化液糖ともいう。ブドウ糖は従来、安価な甘味料として食品工業に広く使用されてきたが、甘味がショ糖を1とした場合、0.6~0.7と低いため、その利用範囲が限られていた。 これに対して果糖は、ショ糖の1.3~1.7倍の甘味をもつことから、ブドウ糖を果糖に変えて、その甘味料としての質の向上を図ろうとする考えが生まれた 。ブドウ糖の異性化手法には、ブドウ糖をアルカリ条件下において、化学的に異性化反応を起こさせるアルカリ異性化法と、グルコースイソメラーゼによる酵素法とがある。当初はアルカリ法が検討され、パイロットプラントによる製造が試みられたが、本法では、果糖以外に糖の分解による副産物を生ずる難点があり、大量生産には結びつかなかった。
 一方、酵素法は、1957年のMARSHALL and KOOIによるグルコースイソメラーゼの発見に端を発し、60年代半ば、国内の研究者による放線菌グルコースイソメラー ゼ(キシロースイソメラーゼ、EC 5.3. 1.5)の発見によって一時代を迎えた。この酵素は、培地中にキシロースあるいはキシランを加えたときに菌体内に産生される誘導酵素で、基質特異性が高く、熱に対して非常に安定であるなど、実用化に適した数多くの条件を備えていたことから、この酵素を用いた異性化糖の工業生産が1965年頃から開始された。 以来、異性化糖の製造は、もっぱら酵素法により行なわれている。
 異性化糖の製造には、でん粉を液化型および糖化型アミラーゼにより加水分解して得られる液糖を原料として用いる。 この液糖には通常、94%のブドウ糖6%のオリゴ糖が含まれる。グルコースイソメラーゼの反応は、最終的に異性化率50%まで進行するが、経済効率を勘案して、実際には42~45%辺りで停止させている。
 従来、菌体そのものを酵素源とする回分法で行なわれていたが,固定化酵素技術の発展に伴なって固定化グルコースイソメラーゼが開発され、70年代後半からは、固定化酵素カラムによる連続法に置き換った。回分法では、反応終了までに約70時間かかるため、糖の分解による着色が激しく、脱色操作などに労力を要したが、連続法では反応時間の大幅な短縮により着色が抑えられ、その後の操作を容易にしている。固定化グルコースイソメラーゼとしては、酵素をイオン交換樹脂やDEAE-セルロースに吸着させたもの、酵素を含む菌体をグルタルアルデヒドで架橋したもの、キトサンなどの高分子電解質で凝集したものなどが用いられている。
 異性化糖に関するJAS規格も1976年に制 定され、異性化率42%および45%のものが市販されるようになった。 これらの異性化糖は、ショ糖に比較して甘味がやや劣ることから、さらに果糖含量の高い製品の開発が望まれていたが、近年になって、イオン交換樹脂によるブドウ糖と果糖の効率的な分離法が我国で開発され、果糖含有率55%あるいは90%のものが生産されるようになった。現在ではこれらを適当に混合して、用途に見合った種々の果糖含量の果性化糖が調製されている。これに伴なってJASも1980年に全面改正された。それによると、異性化液糖(JASではこの呼称が採用されている)というのは,「でん粉をアミラーゼ等の酵素または酸により加水分解して得られた主としてぶどう糖からなる糖液を、グルコースイソメラーゼまたはアルカリにより異性化したぶどう糖または果糖を主成分とする液状の糖であって、果糖含有率(糖のうちの果糖の割合をいう)50%未満のもの(ぶどう糖果糖液糖という)および50%以上のもの(果糖ぶどう糖液糖という)をいう」となっている。
 異性化糖の用途は、清涼飲料、乳酸菌飲料、製パン、アイスクリームなどの冷菓、缶詰、加工牛乳、製菓原料など食品産業に広く行きわたっているが、特に近年、低温で甘味が強く、爽快なノドゴシを持った果糖の特性を生かして、清涼飲料への使用が増加している。1982年頃には約70万トン(固型物換算)の異性化糖が国内で生産され、現在では砂糖に代わる安価な甘味料として、食品加工全般に広く定着してきている。

以上