技術用語解説 22「食品フレーバー (Flavor)」

技術用語解説22「食品フレーバー (Flavor)」

1. 定義

 フレーバー(flavor)とは、「食物が口中に入った時得られる総合的な感覚」と定義されている。従って、口に入る前に人間が食物の判定を行なう視覚を除いて、フレーバーは全ての感覚によって感知・評価されるものである。この中で味覚と嗅覚のみは、特定の物質が直接感覚細胞を刺激して引き起こされるところから化学感覚と呼ばれ、いわゆる「味と香り」を狭義のフレーバーとして定義することもある。食品分野で言う風味がほぼこれに相当する。味と香りに限られる理由は、食品成分の研究対象として、味覚物質と嗅覚物質が研究方法においても、食品の嗜好性に及ぼす影響についても、自然科学的な方法論が確立しているためと思われる。
 Food Science, Food Technologyの分野ではTasteand SmellがFlavor Scienceであるとの受け取り方が一般化している。フレーバーを決定する諸因子と人間の感覚、嗜好性との関係をまとめると図1.のようにまとめられる。

図1. 人の感覚とフレーバーとの関係
図1. 人の感覚とフレーバーとの関係

注意しなければならないのは、フレーバーが「総合的感覚」であるということで、脳の中で総合されたフレーバー感覚に、さらに個人の学習、経験が加えられれば、食品の嗜好性となる。食品の嗜好性を決定する主要因子としてフレーバーは位置づけられるがヒトのもつ、文化的経験の差によって評価に違いが生じる。フレーバーが自然科学的研究の対象でありながら、最終的にヒトの感覚評価に頼らなければならないことが、さまざまな立場から異なった理解を生む結果となっている。食品科学技術の用語としては、分野によってフレーバーの使い方が著しく限定されることもある。以下に具体例を示す。

2. フレーバーの応用

① フレーバリング 天然・合成など各種の香気物質を使って食品の香気特性の改善を行なうことを言う。香料の調香師に相当する専門家はフレーバリストである。従来経験とカンにたよる点が多かったが、最近は食品香気の分析結果や素材の製剤化など科学的成果を利用するフレーバリングの技術が進んでいる。

② 風味調味料味に関わる純粋な科学成分を混合した化学調味料(うま味調味料)では食品素材の微妙な特徴は演出できない。このため天然のだし素材を伴用するものが風味調味料で,専門家によるフレーバリングを一般家庭で手軽に再現できる調味料として大きな市場となりつつある。JASの規格では「化学調味料及び風味原料(かつおぶし、こんぶ、貝柱、乾しいたけ等の粉末又は抽出濃縮物をいう)に糖類、食塩等を加え、乾燥し粉末状、顆粒状等にした調味料であって調味の際風味原料の香り及び味を付与するものをいう」となっている。

③ フレーバー成分の相乗相殺効果、味や香りについて、多種の成分が共存すると感覚量が相乗的又は相殺的な効果を示す例は多く知られている。前者の場合、少量存在する方をフレーバー強化剤(flavor enhancer)と呼ぶことがある。後者は好ましくない苦味、酸、不快臭の除去に利用されるが、技術的にはマスキング(masking)と呼ばれる。

以上