技術用語解説5『ガス置換包装 (Gas exchange packaging)』

技術用語解説5『ガス置換包装 (Gas exchange packaging)』

1. 定義

 ガス置換包装とは食品を包装する場合、その変質を防ぐ目的で、窒素,二酸化炭素(炭酸ガス)等、あるいはそれらの混合ガスで包装系内を置換する包装技法をいう。

2. 目的

 ガス置換包装には品質保持の目的から見て、二酸化炭素を用いて主に微生物による変敗を防止する方法と窒素を用いて油脂等の酸化,変色を防止する方法に大きく分けられる(表1.に示す)。その他,生肉の発色を維持するため酸素と二酸化炭素の混合ガスで置換する方法などがある。
 多水分、中間水分の食品の変敗に多く見られる好気性細菌やカビはその生育に酸素を必要とするが、多くの好気性微生物は残存酸素が1%程度でも充分生育することが知られている。また,微生物の中には酸素がなくても生育する嫌気性細菌や酵母があり、このような微生物が生育する条件では、単に包装系内の酸素を不活性ガスで置換するだけでは充分な品質保持効果は得られない。したがって、微生物の生育抑制を目的としたガス置換包装には静菌作用を持つ二酸化炭素あるいは窒素との混合ガスが用いられる。細菌の生育抑制を目的としたガス置換包装は一般に多水分系食品を対象としているので、通常低温流通と併用される。
 油脂の酸化,色素の変・退色、非酵素的褐変等、空気中の酸素によって引き起こされる化学的変質を防止する目的では、一般に窒素置換が行われる。油脂の酸化は残存酸素1%程度でも進行するが、ハイバリアー包装材料を用いた場合には窒素置換の効果が充分発揮される。乾燥食品中の肉色素,カロチノイドなどの変色防止には更に低い残存酸素レベルが要求され、ビニロン系の遮断性の良いハイバリアー包装材料と置換率の高い窒素置換が必要である。

表1.主なガス置換包装の応用例とその目的
窒素置換 二酸化炭素、混合ガス置換
削り節 赤味保持、風味保持、酸化防止、褐変防止 洋菓子、和菓子、パン粉
甘納豆、切り餅
CO2 カビの生育防止
海苔 変色防止、風味保持、防虫 チーズ CO2+N2 カビの抑制(密着包装)
乾燥椎茸 風味保持 白米 CO2、N2 食味保持
お茶(緑茶) ビタミンCの酸化防止、変色防止、風味保持 テリーヌ、ムニエル、サンドイッチ、寿司、調理パン、弁当等 CO2+N2 細菌の生育抑制、風味保持(低温併用)
コーヒー、ココア、粉末ジュース 酸化防止、香気保持 ハム、ソーセージ CO2
CO2+N2
変色防止、酸化防止
細菌の生育抑制(低温下)
凍結乾燥品 酸化防止、変色保持 水産練り製品 CO2
CO2+N2
細菌の生育抑制(低温下)
油菓子、豆菓子、スナック類、ナッツ類 酸化防止、風味保持 生肉(小売用)
生肉(業務用)
CO2+O2
CO2+N2
細菌の生育抑制(低温下)、発色保持
細菌の生育抑制(低温下)、肉色素保持
食用油、粉乳、油揚げ、ドーナツ 酸化防止 生鮮魚の切身 CO2+N2 細菌の生育抑制(低温下)、肉色素保持
凍豆腐 酸化防止、褐変防止
こんにゃく精粉 粘度低下の防止
粉末香料 固結防止、香気保持

3. 方法

 ガス置換包装の方法には次のような種類がある。

① ノズル式ガス置換法:
 食品の入った袋に直接装着したノズルで袋内を脱気し、その後窒素や二酸化炭素などを封入し、ノズルを外すと同時にヒートシールする方法。
装置が比較的簡単で、ガスの使用量も少ない利点があるが、脱気時に食品の形が崩れやすいこと、ガス置換率が低く、再現性の点でも難点があるなどの問題点がある。

② チャンバー式ガス置換法:
 真空チャンバー内に食品の入った袋を置き、真空ポンプでチャンバー内を一定のレベルまで減圧状態にした後,窒素や二酸化炭素などを導入し、ヒートシールする方法。
 チャンバー内にガスを導入する際、袋に装着したノズルから入れる方法と単にチャンバー内をガスで満たす方法がある。チャンバー・ノズル式は、ガス置換率が高く、再現性の良い方法であり、ガス置換包装に多用されているが、時間当たりの処理量は少ない。チャンバー式には、小規模のガス置換包装に用いられる手動型と、ロータリー型自動ガス置換包装機、深絞り型自動ガス置換包装機などがある。

③ ガスフラッシュ式ガス置換法:
 ピロー包装機でロール状のフィルムを製袋しながら食品を包装し、シールする直前に窒素や二酸化炭素をフラッシュし、ガス置換する方法。
 この方法は、高速でガス置換包装ができる特徴があるが、多孔質や複雑な形をした食品ではガス置換率が上がらない欠点がある。しかし、多少の残存酸素は大きな問題とならないポテトチップスや油菓子の包装にはこの方法が用いられている。

4. 包装材料

 一般の窒素置換包装には、延伸ポリプロピレン、ナイロン、ポリエステルなどにポリ塩化ビニリデンを塗布した積層フィルムあるいはアルミ蒸着フィルムなどが用いられる。低い残存酸素レベルが要求される食品あるいは二酸化炭素を用いたガス置換包装では、エバール、ポバール、延伸ビニロン、アルミ箔などのガスバリアー性の高い積層フィルムが用いられる。

以上