技術用語解説⒋『真空調理技術 (Vacuum cooking)』

技術用語解説4.『真空調理技術 (Vacuum cooking)』

 真空調理技術とは,肉,魚,野菜等の素材を生のまま、あるいは軽く下処理してプラスチックフィルムを用いて包装後、100℃ 以下で加熱調理する方法である。この技術は, 1970年代の中ごろ、フランスのジョルジュ・プラリュにより開発されたとされる。プラリュは、加熱によるフォアグラのテリーヌの目減りを少なくする手段として、フォアグラを真空包装後に低温で加熱すると歩留りが飛躍的に向上するだけでなく、均質な火入れが可能なことを見い出した。その後,フランスの列車食堂における調理技術として採用されたことにより、広く知られるようになった。真空調理技術の基本プロセスを図1.に示した。

技術用語解説4.『真空調理技術 (Vacuum cooking)』
図1.真空調理技術の基本プロセス

鮮度の高い素材を選択し、目的に応じてブランチングやコゲ目付け等の下処理を行い、素材だけあるいは調味料とともに真空包装する。包装材料には、一定の強度や安全性はもちろん、グレービー等の狭雑物に対応できるヒートシール性、耐熱性、耐油性、低温耐性等、多様な特性が要求される。レトルト食品やボイル殺菌食品に従来利用されてきた包装材料は、これらの特性を具備しているため、真空調理用に応用され、特にナイロンを基材とした積層フィルムが広く利用されている。加熱はスチーミングあるいは湯せんにより行う。加熱温度は、肉や魚に対しては55~90℃、野菜に対しては90~95℃であるが、特に肉に対しては、タンパク質の凝固温度62℃から、素材から水分が分離する68℃との間で加熱されることが多い。表⒈に各種真空調理食品の細菌検査結果を示す。加熱後の冷却は氷水中で急速に行い、加熱後2時間以内に中心温度10℃以下とする。保存は0~3℃で行うが、通常6日以内に提供する。以上のプロセスからもわかるように、真空調理食品には以下のようなメリットがある。

表1.に各種真空調理食品の細菌検査結果
検体 真空調理前後
一般生菌数CFU/g 大腸菌群数/g 低温細菌数/g 低温細菌数/g
調理前 調理後 調理前 調理後 調理前 調理後 調理前 調理後
鶏肉
(63℃、15分)
3.5×105 9.2×102 5.4×103 0 3.0×104 0 1.2×105 1.0×10
牛ヒレ肉(58℃、30分) 1.4×105 1.8×102 4.8×102 2 1.9×103 0 2.8×104 1.0×10
貝柱(冷凍)
(60℃、10分)
1.3×103 9.8×10 1.7×10 0 1.4×103 2 1.1×103 5.0×10
野菜
(90℃、20分)
1.2×105 5.3×104 4.0×103 0 7.8×104 0 5.3×104 4.0×10

まず、低温加熱なので、次のようなメリットがあげられる。
(1)低脂肪食品であってもパサつきが少なく食感が良い
(2)均等に火入れができる
(3)歩留りが向上する
(4)ビタミン類などの栄養成分が破壊されにくい等の利点がある
また、真空包装するため
(5)調味成分の浸透がよい
(6)好気性菌の生育が抑制される
(7)加熱後の2次汚染がない等をあげることができる
さらに,流通・サービス上のメリットとして
(8)計画生産が可能,
(9)取扱や運搬が容易

などがある。しかし、真空調理技術はあくまで調理技術の一つとして位置付けられるべきもので、保存技術ではないことに注意する必要がある。62~68℃の加熱により大腸菌群および低温細菌は殺菌されるが、Bacillus、Micrococcus等の中温菌や嫌気性の芽胞形成菌は生残する。このため、加熱後の保存条件には充分な留意が必要である。フランスにおける真空調理食品に対する法令では、非冷凍品の場合には0~3℃の保存と6日以内の消費、65℃以上で1時間内の再加熱と再加熱物の再利用の禁止等が示されている。

以上