技術用語解説1 『加圧殺菌(Pressure processing)』

 食品工場キーワードでは食品関連の技術用語を取り上げ、解説をしていく。第1回目として技術用語解説1として「加圧殺菌」について詳述する。

 圧力釜(以下レトルトとする)内に熱水または蒸気などの加熱媒体のほかに圧縮空気などを導入してレトルト内圧力を殺菌温度における飽和蒸気圧以上に保持して殺菌する方法をいう。水は大気圧下では100℃で沸騰するが、レトルト内を加圧して沸騰抑制をかけることによって、飽和蒸気圧が上昇して高い温度が得られる。また大気圧のもとでの飽和蒸気の温度は100℃である。
 非冷蔵の通常の貯蔵条件のもとで、長期間保存できる缶詰にあっては、商業的無菌を目標に加熱殺菌が施される。特に低酸性食品(最終平衡pHが4.6を超え、かつ水分活性が0.85を超える食品)は、細菌の栄養細胞はもちろん、耐熱性を有する芽胞を死滅させるよう、100℃以上の高温で加熱殺菌されなければならない。加圧の方法としては、蒸気または空気を用いてレトルト内を大気圧以上の圧力にしている。蒸気の場合は、飽和蒸気圧と温度とは一定の関係があり、飽和蒸気圧が上昇すると温度も上昇する。
 例えば飽和蒸気圧が0.1MPa(1kg/cm2)のときは、温度は120℃ である。加圧殺菌を行なうにはもう一つの目的がある。すなわち、フレキシブルなプラスチック容器、半剛性のアルミニウムまたはプラスチックのトレー容器などにパックされた食品を加熱殺菌する場合、内容物が熱膨張したり、容器内の蒸気圧が高くなったりして、容器の変形とそれによる伝熱の遅延、密封性の損傷などをひき起こす。特に加熱殺菌工程から冷却工程に移るとき、容器 の内圧と容器外すなわちレトルト圧力との圧力差が急激に大きくなり、プラスチックパウチなどにおいては、容器が破裂することがある。これらの問題を回避するため、レトルト内に圧縮空気を導入して、容器の内圧よりも、絶えずレトルト圧力をややオーバープレッシャ状態にしておく。このオーバープレッシャは、冷却工程まで維持される。

 レトルトとその加圧方式には、次のようなタイプがある。
(1) 空気加圧による熱水式レトルト
(2) 蒸気加圧による熱水式レトルト
(3) 蒸気・空気混合式レトルト

である。

 このうち(1)は熱水の入ったレトルトの上部に圧縮空気を導入して加圧する方式である。
空気は水より軽いため、レトルト頂部空隙に圧力を生ずる。
従って、レトルト内の温度分布に悪影響は及ぼさない。(2)は加熱媒体に熱水を用い、(1)の 空気の代わりに、蒸気を導入してこの部分を加圧する方式である。(3)は殺菌に必要な温度 と圧力を得るために、蒸気と圧縮空気の混合気をレトルト内に導入する方式である。
この場合、空気の比率を大きくしすぎると、熱効率が低下するほか、温度分布も均一になりにくい。通常は空気の比率30%以下にする。これら(1)~(3)においてはレトルト温度の制御は、圧力とは独立して行なわれなければならない。レトルトには自動温度制御装置と自動圧力制御装置が別々に取り付けられなければならない。
 このようにレトルト内に空気または蒸気を導入するため、レトルト内の温度分布を均一にすることが重要である。そのため、(1)及び(2)の場合は、循環ポンプで熱水を絶えず循環させ、(3)の場合は、特別に設計された装置が組み込まれ、レトルト内の混合気を連続的に激しく撹拌している。空気はエアーコンプレッサーで圧縮され、空気供給管を通じてレトル ト内に圧入される。
 加圧殺菌は、また剛性容器である缶詰やびん詰の加熱殺菌にも適用されることが多い。
缶詰では天地両面が外側に突出して永久変形することを防止し、びん詰では蓋の密着不良を防止する。

以上