『円安から見えてきた日本の課題は?』

『円安から見えてきた日本の課題は?』

 物価高対策を中心とした政府の総合経済対策が10月にまとまりニュースになっていたが、その中の対策の内、急激な円安などを背景に大幅に値上がりしている電気・ガス料金の負担緩和策を中心に、対策の問題点、円安がつきつけた日本経済の課題について考えてみることにする。

政府の総合経済対策でどれだけ負担緩和になるのか、まず冬を前に関心が高まっている電気料金などの負担緩和策について具体的に見てみる。電力に関しては、電力の使用量に応じて各家庭に請求される料金に対して来年1月から1 kwhあたり7円が補助される。これによって標準的な世帯の場合、毎月の電力使用量が400 kwhで、料金は、14,000円。これを1kwhあたり7円補助が出ると、2,800円の補助が出ることになり、料金は11,200円に引き下げられ、元の料金に比べておよそ2割安くなる計算だ。

企業向けも1 kwhあたり3.5円が補助される。さらに都市ガスについては、家庭や年間契約料の少ない企業に対し使用量1 m3当たり30円の支援を行うこととなり、標準的な家庭で900円の軽減となる。またすでに行われてきたガソリンなどの燃料価格の上昇を抑えるため、石油元売り各社に支給している補助金については、年末となっていた期限を延長し、来年9月まで補助額を調整しながら継続するとしている。さて、その電気ガス料金の負担を軽減する支援策だが、日々苦しくなる家計の助けになることが期待される一方で、円安がつきつけたエネルギーの海外依存がもたらす問題の抜本的な解決と方向性が矛盾するのではないかと指摘もされている。

日本はエネルギーの9割を海外に依存し、そのエネルギーの価格はロシアによるウクライナ侵攻をきっかけに高騰が続いている。こちらは、LNG=液化天然ガスの輸入価格を円で試算してみると、ウクライナ紛争前の今年1月と比べ、8月は1.7倍の水準にまで値上がりしている。元の価格が値上がりしている上、折からの円安で円の価値が目減りしていることで支払い額が一段と増えているからだ。さらにこうした輸入代金の支払いはドルで行われることが多く、そのために円を売ってドルを調達する動きが強まるため、円安の動きを一段と後押している面もあると考えられている。このため、円安をくい止めるためにも、海外からのエネルギーへの依存を減らすことが求められることになる。

政府は、エネルギーの海外依存を減らすため、家計や企業の省エネについて抜本的な強化が必要だとして節電支援策も打ち出しているが、そうした政策と矛盾するのではないかという指摘がある。さらに、本当に必要なのは、海外への依存度を低下させることなので、政府は今年8月、目標に掲げる17基の原子力発電所の再稼働によって約1兆6千億円の天然ガスを輸入せずに済むようになるという試算を示した。エネルギーの海外依存という弱点を克服するために、安全を大前提として原発の稼働を増やす構えだ。再生エネルギーも含め国内からの供給拡大に向けて実効性のある対応を急ぐ必要がある。

次に、成長力回復への課題について考えてみよう。最後に円安の要因となっている日本の超低金利政策の背景には、経済が力強さを欠く状況が続いていることにある。こうした中、今回の対策では成長力の回復にむけた対策も盛り込まれている。具体的には、デジタルやグリーンなどの成長分野への労働力の移動を促すために、「リスキリング=学び直しから転職までを一体的に支援する新たな制度」を設けていること。さらに円安の長期化も視野に円安を逆手にとる政策である。地域ごとに専門家を派遣して観光振興の計画づくりを行なうなどして長期滞在や富裕層の外国人旅行客を増す施策や、先端技術をもつ外国企業を国内に誘致し、重要な物資の「サプライチェーン=供給網の強化」をはかる政策などが盛り込まれている。

もちろん、こうした政策も大事だが、やはり当面の課題は物価上昇を乗り越えるための賃金アップである。その意味で、最近の日本経済で注目されるのは人手不足の問題である。民間の調査会社による報告では、今年8月時点で「正社員が人手不足の状態にある」と答えた企業がおよそ5割。「非正社員」でもおよそ3割にのぼっている。こうした人手不足が続けば、企業は人手を確保するために賃金を引き上げざるを得ず、人材獲得競争の中で賃上げの波が広がって消費が拡大するという成長の好循環につながる可能性も考えられる。

やはりここで問題になるのは、収益性の低い中小企業は賃金を上げられずに、人手が確保できなくなり事業の継続が困難となって、最悪の場合倒産するケースも出てきかねないことである。こうしたケースを防ぐには、最新の設備の導入による省力化、自動化による省人化など生産性を向上させる施策を考え、より収益性の高い事業への転換を通じて、利益を増やすことが求められるのだが、体力のない企業にはそれも難しいのが実情であることを肝に銘じておく必要がある。

以上