【コラム】2019.09.28

夜の屋台で提供するそばの代金は16文。客は店主の手のひらに1文銭を落としていく。8文まで行ったところで「今、何時だい?」と聞く。「へい、九つ(午前0時)で」と答えに10文から続け、16文まで数えて去る▶古典落語「時そば」の一場面である。キャッシュレス社会の進展により、お金と私たちの関わり方が変化しつつある。1文をごまかそうとする客と店主のやりとりをイメージしにくい世代が出てくるのではないか、と考えるのは杞憂か▶消費税の10%への引き上げが3日後に迫った。「ポイント還元」が話題となり、ささやかな生活防御のためにクレジットカードの使用機会が増えそうだ。スマートフォンの電子決済(○○ペイの類い)を始めた人も多いのでは。何やら流されている気分を拭えない▶子供の小遣いをキャッシュレスかする家庭が日本でも増える傾向という。子のカードやスマホに決まった金額をチャージする。何を買ったか、浪費していないかなどを親が確かめられる利点はある▶電子決済世代の金銭感覚がどのようになるか、10円玉を握って駄菓子屋に走った者には想像もつかない。ただ「財布」の中身を確認しながらお金の使い道を検討するのは現金でもカードでも変わりないだろう。

【2019.09.28】神奈川新聞 照 明 灯 引用