『食品製造業の自動化の現状と抱えている課題』

『食品製造業の自動化の現状と抱えている課題』
Current state of automation in the food manufacturing industry and issues faced

1.食品製造業の現状

 食品製造業の構造を説明する場合、第一次、第二次、第三次食品製造業の3つに大別できる。農産物や畜水産物を直接原料とし、物理的あるいは微生物によって、処理加工し家庭用もしくは業務用製品に変成する「第一次食品製造業」、その単品もしくは複数の業務用製品を原料として、変化に富む食品に加工する「第二次食品製造業」第一次、第二次食品製造業において製造された各種業務用製品を原料とし、異なる食品に加工する「第三次食品製造業」と多彩になっている。
 また第一次から第二次食品製造業を生産形態・設備という観点から大別すると物理的(反応も含む)処理加工を主に、液体、粉体など素材を提供する大型設備の多い「装置分野」、微生物処理加工による伝統的な「発酵・醸造分野」、粉体、固形物、ペースト状など厄介な原料を扱い、物理的処理加工を主に、比較的勘と経験に頼っている「加工分野」になる。
大まかにはなるが、図1.に示す製造業を分野ごとにマトリックスにして、食品を具体的に当てはめると、比較的に多いのは、第一次から第三次製造業の加工分野である。

図1. 食品製造業の加工別区分
図1. 食品製造業の加工別区分

 さらに視点を変えて、生産ラインを大別すると図2.に示すようになる。装置分野および発酵・醸造分野のほとんどが「素材型ライン」という、その下流の一部と、加工分野の中心が「混合型ライン」といえる。この2つのラインの下流には業務用あるいは家庭用の多種に及ぶ荷姿の異なる包装、すなわち「包装型ライン」である。特に加工分野は、そのウエイトが高くなっている。このように食品製造業の製品は種々雑多で、しかも範囲が広く多岐に亘っている。自動化という観点からどれ一つとっても、単純に解決できるものがないのが現在の食品製造業である。

図2. 食品生産ラインの分類
図2. 食品生産ラインの分類

2.素材型ラインも見直す時期

 素材型ラインは、素材を提供する食品製造業として、装置を中心に大型化、連続化、高速化が求められ大量生産志向を取り、比較的取り扱いの容易な液体、粉粒体ということもあって、早くからProcess Automation(以下PAとする)を取り入れ、省力化を進めてきている。ところが近年、多様化の時代となり、必然的に品種数が増えてくると、そのために装置の切り替え、洗浄などの操作が煩雑化し、稼働率の低下やエネルギーロスなどを招き、設備を大型化してきたことがかえって障害になっている。
 さらに昨今のエネルギー問題の解決策の一つである省力化にチャレンジするためには、物・設備・人といった観点から、生産システムの見直しが必要になってくる。特に人海戦術に依存するところが多い。搬送、投入、スタート/ストップ、品種切り替えといった作業や、建物、床、設備ラインの洗浄作業、品質検査などの自動化、さらには多品種少量生産に対応するための効率的な工程管理、生産管理などに取り組むことが重要な課題になってくる。
 さらに視点を変えて、生産ラインを大別すると図2.に示すようになる。装置分野および発酵・醸造分野のほとんどが「素材型ライン」という、その下流の一部と、加工分野の中心が「混合型ライン」といえる。この2つのラインの下流には業務用あるいは家庭用の多種に及ぶ荷姿の異なる包装、すなわち「包装型ライン」である。特に加工分野は、そのウエイトが高くなっている。このように食品製造業の製品は種々雑多で、しかも範囲が広く多岐に亘っている。自動化という観点からどれ一つとっても、単純に解決できるものがないのが現在の食品製造業である。

3.人海戦術に頼っている混合型ライン

 混合ラインは、素材型ラインとは異なり、以前から多品種少量生産を強いられてきた生産ラインである。粉体、ペースト、固形物など取り扱いの難しい原料、副原料、香料といったものを混合し、煮る、蒸す、焼く、いためるなど勘や経験に頼るところの多い加工産業分野である。これらは計量、充填、成形加工、検査、洗浄といった複雑な作業があり、人海戦術に頼る部分が多いのが現状である。
現在の最新技術やIT技術などを駆使すれば解決する方策があるにしても、投資額がかさみ採算面での費用対効果を考えると引き合わないことが多い。しかし、現実には嗜好性が多様化していることから、品種が増え、それに伴う妥当な設備投資で、効果的な新しい生産システムをつくることが要求されている。従来行われていた人海戦術においても人材不足からFA技術の導入が急務となりつつある。

4.直接消費者の影響を受ける充填・包装型ライン

 多様化に伴い業務用、家庭用を問わず、直接消費者の影響を受けているのが充填・包装ラインである。食品の商品価値を高めるために、形状、デザイン、色彩など視認性による「感覚的な価値」、取り扱いなどを考慮した「機能」が要求されることになり、常にコストの追及と環境に配慮しつつ、包装材料、包装形態の改善が必要になっていることから、企業への負担が増しているのが現状である。
 充填・包装ラインは加工食品によって異なるが、洗瓶、検査、計量充填、殺菌、包装、冷凍……梱包、保管などいくつもの工程の組合せで、それぞれの工程を専用機で対応しているのが現状である。専用機個別には比較的自動化が進んでいるものの、専用機間のつなぎ、包材の組立て供給、検査、段ボール詰め、パレタイジング、機器洗浄など人海戦術に頼ることが比較的多い。特に練り物、粘着性の高い固形物、デリケートな商品など計量、充填は難しく取り扱いのため手作業に頼っている。またこのような充填・包装ラインは品種ごとのロットが小さく、比較的故障率が高いことなどから、一般に稼働率が低いという側面を持っている。
 このように充填・包装ラインは根深い問題が山積みされており、FA化すなわち自動化が比較的遅れている。従って、これらを解決するためには、産業用ロボットに代表されるメカトロニクス、センサ開発を含めた検査システム、洗剤開発を含めた洗浄システムなど、食品企業とメーカー協力による開発に期待するところが多く、FAの狙い目の一つと言える。
食品製造業の工場で残されている自動化は搬送、マテリアルハンドリング(マテハン)、検査、洗浄が重要視されてくる。また、多様化に対応するための生産システム構築が鍵を握り、工程管理や生産管理などの制御システム、生産システムの構築が重要となってくる。

5.食品工場のFA化はどこまで進んでいるか

 食品工場で以前から大掛かりな集中制御・管理が行われている主なものを挙げると製粉、デンプン、製糖、製油などになる。いわゆる装置産業分野に属する工場で、近年、これらの工場は設備更新を機会にIT技術や最新の生産システムを導入したFA化を随時行いつつ、環境に配慮した省力化を狙いとした、抜本的な改善を進める取り組みが多く見られる。工場の規模の大小にかかわらず連続操業の場合、1直勤務2~3名程度で運転することが常態化していた。しかしながら食品の加工工場では、FA化に向けて困難な事情が山積みしているため、自動化が進んでいないのが現状である。

6.過去に支援した食品工場のFA化導入事例

6-1. 某醤油製造工場の事例

 某醤油製造工場を一例に取り上げる。原料処理、製麹、発酵、圧搾、火入れ、充填・包装、保管、流通工程が設備された醤油の一貫製造工場である。生産能力は、生揚げ:9,000kL、醤油:16,715kL、従業員数:35名で、徹底した省力化を図ることで、コスト低減はもとより、製品の品質向上も実現している。充填・包装工程にはクリーンルームを設けるなど、衛生面の配慮も図っている。
 FA化については、3つのブロックから構成されている。
(1) 第1ブロック
第1ブロックは「原料受入れ⇒処理⇒製麹⇒発酵」工程で、受入れ、歩留りおよび品質管理が集中管理され、製麹工程は24時間無人化を実現している。この工程は、醤油の品質の決め手になる麹の安定化を図ることができたことで実現している。長年の製麹データと各種のノウハウに基づく制御技術が確立できたことが成功の決め手になっている。
(2) 第2ブロック
 第2ブロックは「圧搾⇒火入れ⇒ブレンド⇒充填・包装」工程で、従来多くの人手を要した圧搾工程には、圧搾ロボットを導入し、大幅な省力化を図っている。また多品種少量生産に対応するため、従来の製品ブレンドをバッチブレンドから連続ブレンドにするなど新しい方式を採用している。充填・包装には高速自動充填機包装機を導入し、包装された製品はパレタイジング・ロボットによってパレットに載せられルまでの工程である。
(3) 第3ブロック
 第3ブロックは「立体自動倉庫」に搬送される。このブロックにおいても集中管理され、先入れ先出し、厳密な仕分け管理、在庫管理が行われている。この工場は計画段階でFA化の基本である工場レイアウト、装置・機器レイアウトなどを製造シミュレーション技術を活用し、製造ライン全体の最適化を図った。例えば、工場建屋を計画している敷地に当初から段差を設けるなど工夫をすることで、液体の移送に自然落下が利用できレイアウトとすることで従来のポンプ数を1/2削減でき、大幅な省エネルギー対策が図られ、生産性の高い工場として稼働している。

6-2. 某レトルト食品工場の事例

 外食産業向けレトルト食品工場のFA化事例を紹介する。外食産業もコロナ禍の影響を大きく受け変化しつつある。しかしながら、ファーストフード、ファミリーレストランなども現状に合わせた発展している。従来から迅速かつ低価格帯で一定水準の商品を提供している。そのような一定水準の味を提供するためには、完成品もしくは中間製品として、一次加工し、多店舗に供給する大規模調理施設(以下CK:Central Kitchen)方式を採るケースが多い。CKは独立した食品加工工場であるが、近年、ますます多様化が進むにつれ、その対応のためにFA化、IT化の導入が課題になっている。
 ここでご紹介する食品工場は外食産業向けレトルト食品工場である。FA化にあたっては、次の3つの目標を柱に導入された加工食品工場である。
(1) 生産の効率化
(2) 省エネルギー
(3) クリーンネス(食品衛生の完璧化
を挙げ、効果の狙いとしてスペースの有効利用、総合的信頼性の向上、省力化、省人化を達成目標として計画された。
 この工場は家庭料理の調理に類似し、肉、野菜などを準備する「前処理工程」、ケルト(釜)を使い、原料を煮る、炒めるといった「加工工程」がFA化の対象となった事例である。これらの工程は扱う原材料が多種多様で、大量になり、しかも製品個々の味付けが異なるため、多くの人手と熟練した調理人が必要であった。また加工工程は、ケルト単位のバッチ生産で、生産スケジュール(MES)に合わせ、ケルトへの原材料、薬味、調味料の投入、その火加減、撹拌作業、それに合わせた原材料の準備、一時保管などに伴う運搬、ハンドリング、監視などの作業や、これらを運用するための工程管理、生産管理がきわめて煩雑になっている。しかも時々刻々変わる生産変更に対応しなければならないなど課題があった。このような背景からFA化導入の要望があった。
 まずFA化計画立案に向けて、物と情報の流れを把握する必要性がある。本事例の場合、前処理工程では、生産管理システムからの指示書(食材の種類、数量、作業条件等々の情報)に基づいて、一旦原料冷蔵庫に保管された肉、野菜などの食材を取り出し、洗浄、裁断、ミンチなどの手を加え、所定のバケットに詰める。食材の詰められたバケットは計量後、入庫設定器(QRコードやRFIDタグなど)で必要事項を入力すると同時に自動倉庫(冷蔵庫)へ格納される。手を加えた後の食材は生鮮度(微生物管理)の面から加工までのリードタイムが最短となるように計画する。調理加工の半製品の一時保管も短時間とすることが望まれた。
下処理準備が完了した状態からは、工程管理システムに予めインプットされた生産スケジュールに従って、それぞれのケルトの作業開始前に、必要な時に、必要な物を、必要な量のバケットを適宜出庫し、指定されたケルトのバケットステーションへ無人搬送車(AGVあるいはAMR)を用いて搬送する。ケルトへの食材投入は「作業指示電子カンバン」の指示に基づくが、食材の投入タイミングが製品の味に影響を与えるため、調理に精通しているオペレータの判断によってハンドリングロボットに指示を与え投入する方法を採用した。
 ハンドリングロボットは人協働ロボットを導入し、食材投入の自動化を行うがオペレータの安全、作業性を配慮した設置を行った。食材投入後の空バケットはバケットステーションに戻り、無人搬送車により洗浄機に搬送される。洗浄されたバケットは操業中に限り、再使用のため前処理工程へ返送されるが、作業が終了するとすべて自動倉庫(冷蔵庫)へ格納される。ケルトで出来上がった製品は、次工程の充填、殺菌、冷却、冷凍工程へ自動搬送される。この製造システムの最大の特徴は、ケルトの使用均等化を図るため生産シミュレーションを活用して最適スケジューリングを確立したことになる。
 生産スケジューラと制御システムの連動により、ケルトエリアへの操作盤に作業開始指令を与えると、生産データに基づき順次運転が行われる。運転状況は随時監視モニターで視認され、制御システムに製造実績データが記録、集計され日報、月報管理が自動で行われるシステムである。
 本FAシステム構築にあたって配慮した点は、食品工場の特質として洗浄が頻繁に行われるため、装置・機器の腐食の防止、無人搬送車のスリップ、電気機器類の漏電対策などに十分対策を講じたことである。また食品衛生上食材バケットは蓋付とし、食材を入れる時と、ケルトへ投入するとき以外は密閉した状態で搬送し、バケットの衛生状態を保つようにした。無人搬送車は、安全対策として、発信音、回転灯による走行警報、超音波センサによる人や物など障害物検知などそれぞれの現場に合わせて選択できるように配慮を行った。

 最後に、ここでは2つの事例の概要を紹介したが、ここには挙げていないが多くの問題点に直面しながら、なんとか成功までに漕ぎつけることができた事例である。今後FA化に取り組まれる技術者の参考となれば幸いである。

以上

【参考文献・引用先】

  1. 「プロセスの自動化のためのデザインエンジニアリンク」著者:草間和彦 食品機械装置
  2. 「食品工業のファクトリー・オートメーション」著者:草間和彦 光琳
  3. 「大量調理施設の衛生管理」著者:矢野俊博 岸本 満 幸 書房
  4. 「はじめての食品加工技術」著者:吉田照代 工業調査会
  5. 「技術用語解説26『食品製造プロセス単位操作』」食品工場キーワード2021/09/13
    木本技術士事務所HP https://www.kimoto-proeng.com/keyword/1837