技術用語解説71『液体クロマトグラフ-質量分析計 (略称:LC/MS)』

技術用語解説71『液体クロマトグラフ-質量分析計 (略称:LC/MS)』

 液体クロマトグラフ-質量分析計 (LC/MS:Liquid Chromatography-Mass Spectrometry) の略であり、液体クロマトグラフ (LC) と質量分析計 (MS) とを直結した装置を指す。
 MSは、有機分子を電子衝撃 (EI )、化学イオン化 (CI) 、高速原子衝撃 (FAB)、二次イオン衝突 (SIMS) 等の方法でイオン化し、生じたイオンを加速電圧により加速した後、磁場中 (磁場型MS) あるいは交流電場中 (四重極型MS) を通過させることによりその分子イオン、もしくは分子イオンから壊裂して生じたフラグメントイオンの質量数を測定する装置である。
 MSを用いると物質の同定や構造解析上非常に有用な知見が得られるため、今日では分析化学はもとより食品化学の分野でも欠かせない分析機器となっている。ただし、通常のMSでは混合物サンプルは導入できない。そのため、ガスクロマトグラフ (GC) とMSとを直結し、GCで各成分を分離した後MSに導入する装置 (GC-MS) が開発され、近年ではMSの標準的な利用形態として広く用いられている。しかしながら、GC-MSではサンプルとして揮発性を有するものに限られ、分子量の大きなものや、極性の高い物質、熱に対して不安定な物質等の分析には不向きである。
 このようなGC-MSの欠点を補うため、サンプルの性質に関する制限の少ないLCとMSとを直結する手法が開発されることとなった。一般に液体クロマトグラフの検出器(紫外可視吸収検出器、示差屈折計等)では、各ピーク成分の構造に関する情報を得ることはできないが、LC-MSを用いれば一度の分析でピーク成分の構造に関する情報を得ることが可能となる。特に近年では、高速液体クロマトグラフ (HPLC) の装置、カラムの性能がめざましく進歩しており、MSとの結合により分析効率の飛躍的な向上が期待できる。
 ただし、LCとMSとの結合 (インターフェース) は、GC-MSの場合と比べて技術的に困難である。なぜなら、MS分析部は高真空であることが要求されるが、一般に液体が揮発してガスになると体積が数百倍になるため、LCの溶出液をMSに導入する場合は非常に高性能な真空系が必要となるからである。また、大量の移動相から目的とする分析対象成分のみを分離またはイオン化するための工夫も必要である。以上のような点を克服するため、様々な装置が開発されたが、ここ数年ではかなり実用的でコストパフォーマンスの高い装置が多く市販されるようになった。また、特に四重極型MSを用いた装置は、もちろん性能的な限界はあるものの、非常にコンパクトで比較的安価となっている。
 LC-MSのインターフェースの方式はメーカーによって様々であるが、それぞれに特徴があり選択が難しい。主な方式としては、大気圧イオン化 (API)、ブリットFAB (またはコンティニュアスフローFAB)、サーモスプレーイオン化 (TSP)、エレクトロスプレーイオン化(ESI) などがある。イオン化の機構もインターフェースの方式により異なるため、得られるMSスペクトルについても化学イオン化 (CI) に近いもの、FAB形式のものなど若干の差がある。得られるMSスペクトルについても化学イオン化 (CI) に近いもの、FAB形式のものなど若干の差がある。
 LC-MSでは上記のようにLCで分離した成分の分子量や構造に関する情報を得ることができるばかりではなく、ある物質に特徴的な質量数のイオンのみをモニターすれば、きわめて選択的な検出器として利用することもできる。この場合は、LCカラムでの分離が不良な場合でも目的成分を分析することができる。さらに、このような選択的な検出器としての性質を拡張すれば、カラムによる分離を伴わない、いわゆるフローインジェクション分析 (FIA) への応用も可能である。
 このような分析手法は、今後食品中の微量成分のルーチン分析等において非常に有用と考えられている。

以上

【参考文献・引用先】

  1. 一般財団法人 材料科学技術振興財団HP
    https://www.mst.or.jp/method/tabid/133/Default.aspx
  2. 研究ネットHP / 研究用語辞典 (化学系の研究用語)
    https://www.wdb.com/kenq/dictionary/lc-ms