技術用語解説25『真空濃縮 (Vacuum concentration)』

技術用語解説25『真空濃縮 (Vacuum concentration)』

 真空濃縮は、大気圧より低い圧力で液体を沸騰・蒸発させるもので、濃縮による製品の着色および熱変性が少なく、低い加熱温度によって大きな蒸発能力が得られること、濃縮経費を節減できるなどの利点がある。
 濃縮操作方式にはバッチ式と連続式があり、バッチ式は処理量が少ないか、晶出操作または濃縮中に各種の添加操作を伴う場合に適している。連続式には、処理液を濃縮機内で循環しながら濃縮する循環式と処理液を濃縮機で一回の通過で所定濃度にして排出する単一通過式がある。滞留時間は糖液や果汁濃縮の多重効用缶の場合、循環式で1~3時間、単一通過式は2~12分である。

真空濃縮機には、その構造によって次の2つに分類できる。
(1)単一機器として使用に適する形式
(2)多重効用缶方式のように結合使用に適する形式

である。
(1)に属するものとして
・循環式にはジャケット型(攪拌機付)
・コイル型(攪拌機付)
・標準カランドリア型
があり、単一通過式には次の型がある。
・瞬間蒸発式の遠心攪拌膜型
・回転円錐型等がある。
(2)に属するものとして
・循環式には標準カランドリア型
・長管式自然循環型
・液膜流下型
があり、単一通過式には次の型がある。
・液膜流下型
・プレート型
・液膜上昇型(ケスナ)
等がある。
 食品の濃縮機は、装置の洗浄性と耐食性を考慮して選択すべきである。蒸発能力はU(kcal/mm2・h・℃)で表わし、処理液の粘度が高まれば低下し、沸点上昇が高くなると、有効加熱温度差が減少するので能力は低下する。
表1.に食品の真空濃縮実施(単一通過型式)の事例を示す。

表1.食品の真空濃縮実施事例 (単一通過型式)

処理液 装置型式 原液/製品濃度 第1缶加熱温度 第1液温度 製品温度
柑橘果汁 4.重効用5段 10/63 102 87 10
ショ糖溶液 INJ・4.重効用 46/64 105 73 55
ぶどう糖液 INJ・4.重効用 26/75 105 95 54

INJ:インジェクタ熱回収方式、温度:℃、濃度:Brix値

濃縮経費の節減方式には次のものがある。

(1) 多重効用缶方式:

 複数(N)個の濃縮機を直列に結合して、各缶の蒸発圧力を順次に低下させ、前段の濃縮機で発生した蒸気を次段の濃縮機の熱源とする方式で、N重効用缶と呼ばれ、最初の濃縮機の熱源には、ボイラーよりの生蒸気の他,高温の廃ガスが用いられる。処理液の流れによって順流・逆流・並流・錯流の4方式があり、処理液の温度により熱消費の少ない方式を選択する。(全蒸発量)/(使用生蒸気量)の値を蒸発倍率(R)といい、効用缶数をNとすればR=(0.73~0.85)×Nで表わされる。型式としては液膜流下型の単一通過式が主流で、果汁・ホエーの濃縮に6重効用缶方式がある。

(2)蒸気インジェクタ蒸気圧縮方式:

 単一又は多重効用缶で発生した蒸発蒸気の一部を蒸気インジェクタで吸入・圧縮して、駆動蒸気とともに最初の濃縮機の熱源とする。蒸発倍率は前述の効用缶数を1段増加したものと同一で、設備費が低廉で食品の濃縮に多く利用されている。低温濃縮に最適で国内における最初の果汁濃縮機はこの方式の3段濃縮式である。

(3) 圧縮機による蒸気再圧縮方式:

 蒸発蒸気を圧縮・昇温して加熱蒸気とするもので蒸発の初期に加熱蒸気を必要とするが,圧縮機の動力を熱源としたヒートポンプ・サイクル型である。これは沸点上昇の低い液の予備濃縮に適し、圧縮比を低くし加熱温度差を少なくすれば動力当りの蒸発量が増大する。
図1.は蒸気インジェクタ方式と組合せた省エネルギー方式の例を示す。

図1.蒸気再圧縮方式と3重効用型濃縮機の組合わせフローシート

図1.蒸気再圧縮方式と3重効用型濃縮機の組合わせフローシート

(4) 冷媒利用ヒートポンプ方式:

 アンモニアまたは、フレオンガスなどの冷媒を利用したヒートポンプ・サイクル方式の濃縮機で、濃縮温度が15~35℃ の範囲では、動力1kwh当たりの蒸発能力は、単一効用型で6~10、3重効用型で18~22kg/h・kWhで、食品の低温濃縮に適している。

以上

【参考文献】
1. 化学工学協会編「化学工学便覧(改訂7版)」丸善出版
2. 日本食品工学会編「食品製造に役立つ食品工学事典」恒星社厚生閣