【コラム】2019.09.27

つかの間、静謐(せいひつ)が広がる。集中するキッカー、固唾をのむ観客。蹴り上げた楕円球がゴールに吸い込まれると一転、数万人の熱狂がスタジアムを揺らす。ラグビーには静と動が同居する▶応援は自由、そして平和だ。鳴り物はなく、スタイルを強制されない。全てが自然体。敵味方に分かれて陣取ることもなく、肩寄せ合って好プレーをたたえ、やがて調和が生まれる▶ワールドカップ開幕戦。背後に座ったのは1次リーグでしのぎを削るスコットランドの男性2人だった。民族衣装をまとい、強烈なアイデンティティーをにじませつつも「ジャパン」を連呼し、初トライにハイタッチを交わした▶その表情が曇ったのはビデオ判定で2本目のトライが覆った時だった。淡々とプレーに戻る選手。一方、スタンドからはブーイングが上がった。やじは恥ずべき行為。2人は残念そうな面持ちで「グッドラック」と言い残し、途中で席を立った▶主役は選手。レフリーが平和をつかさどる。良い試合をつくるのはしかし、ピッチの彼らだけではない。観客もラグビー文化の一員だ。時流を享受できるのは自律と他者への敬意があればこそ。日本代表のレベルは確実に上がった。あすは強豪アイルランド戦。私たちも世界と肩を並べたい。

【2019.09.27】神奈川新聞 照 明 灯 引用