『国内株式銘柄から「洋上風力発電」の技術動向を調査してみた』

再生可能エネルギーのなかでも代表的な発電方法として洋上風力発電がある。国内技術動向調査を従来とは異なる視点で株式銘柄の動向から注目度を探ってみることにした。

再生可能エネルギーのなかでも代表的な発電方法としては、すでに我々の身近にも普及しているのが「太陽光発電」がある。しかし、最近になって太陽光パネルの価格が値上がりしていることに加え、中国での人権問題がさらなる価格上昇圧力に繋がる可能性もニュースで報じられている。また、日本政府の掲げる「2050年のカーボンニュートラル達成」に向け、再生可能エネルギーの導入を加速していく必要があるとはいえ、やはり太陽光発電のみに依存する電源構成は避けたいところである。
そんな状況のなか、有力な再生可能エネルギーのひとつとして注目を集めているのが「洋上風力発電」である。

洋上風力発電の構想は昔からあったものの、これまで再生可能エネルギーにおける主力電源とはなっていなかった。その理由のひとつとして、海の利用に関する適切なルール化がされていなかったことにある。
2019年4月1日に施行された「再エネ海域利用法」によって海上の長期占用が可能となり、地元調整のための協議会の設置などの枠組が一気に具体化。しかし依然として、複数の事業者による基礎調査の重複実施といった非効率さや、地元調整の難しさなどの課題が指摘されていた。

それらの問題を一挙に解決すべく検討されているのが、初期段階から政府や自治体が関与して迅速・効率的に調査を行い、適切なタイミングで系統確保などを行う仕組みで、事業者のリスクを軽減するため、政府が事業を主導して遅延なく計画を推進していく仕組みのことを言う。いわゆる「日本版セントラル方式」の構築である。このセントラル方式は、洋上風力発電の活用に向けた実証調査で、具体的には、昨年から調査区域として選定された海域で、風況調査や海底地盤・気象海象に関する調査、環境影響評価に関する調査などが実施されている。

ヨーロッパなどでは、すでに政府主導でのセントラル方式が採用されている。日本においても「日本版セントラル方式」を確立することで、「2050年のカーボンニュートラル達成」に向けて、洋上風力発電の導入拡大の向けた動きが加速してくることになりそうである。

そこで主題としている「洋上風力発電」関連銘柄からキーテーマ別の注目企業を選定し、技術動向を調査してみた。

【「洋上風力発電」関連の代表的な分野】

(1)海底地盤・気象海象に関する調査
応用地質(9755):洋上風力発電向けの海底地盤調査で、日本郵船などと協業
洋上風力発電市場に向けて、効率的な海底地盤調査のための独自技術の開発や市場ニーズに対応するためのアライアンス形成などを積極的に進めている。

(2)浮体式発電機
戸田建設(1860):国内初の浮体式洋上風力発電機を実用化
浮体式の洋上風力発電では、海上に浮かせた浮体式の海洋構造物に風車が設置され、アンカーで海底に繋ぎ止められる。日本は遠浅の海底が少ないことから、海底に建てる着床式より浮体式の方が適していると言われている。戸田建設(1860)は、2016年3月に長崎県五島市崎山漁港の沖合において、国内初の浮体式洋上風力発電機を実用化し、以降、商用運転を継続している。

(3)着床式発電機
東洋建設(1890):着床式洋上風力発電機の建設に必要なSEP船を保有
着床式の洋上風力発電は、海底に設置した支持構造物(基礎)に発電機を設置する方式で、一般的に水深50~60mより浅い海域で採用されている。東洋建設(1890)は、風車の設置や基礎工事など、着床式洋上風力発電機の建設に必要な作業船(SEP船)を保有。今後、洋上風力発電の市場が順調に成長した場合、複数の作業船の建造、調達が必要となってくるとの考えから、パートナー企業との共同保有も含め、積極的に追加投資を行っていく方針を示している。

(4)送電ケーブル
JMACS(5817):海底ケーブル関連のなかで、手掛けやすい中小型株として注目
JMACS(5817)は、発電システムには欠かせない電線を扱っている。海底ケーブルではNEC(6701)が高いシェアを占めているが、中小型の電線株としてJMACSに注目してみた。なお、洋上風力発電では、送電ケーブルだけではなく通信用や計装用、制御用・電源用、さらにフィールドバスケーブルなど、さまざまなケーブルが使用されいる。

(5)軸受(ベアリング)
NTN(6472):ベアリング各社のなかから株価と信用需給の面で選定
風力発電機には、ブレード(翼)の回転を伝える主軸や発電するために回転速度を上げる増速機、風の力を電気に換える発電機などが搭載されており、それぞれに軸受(ベアリング)が使われている。「ベアリング」関連銘柄は各社バリュエーション面での差が少ないため、代表としてNTN(6472)をピックアップした。

(6)発電機
安川電機(6506):新規事業の柱のひとつとして風力発電用の発電機を手掛ける
安川電機(6506)は、産業用ロボットやサーボモーター、インバーターなどが主力事業であるが、環境エネルギー事業を新規事業の柱のひとつと考え、大型風力発電用の発電機やコンバーターなども手掛けている。また2014年には、フィンランドの風力発電用電機品メーカー、スイッチエンジニアリングを傘下に収めるなどが注目される。

(7)増速機
ユニバンス(7254):自動車向け駆動系部品の技術を活用
「増速機」は、ブレードの回転を受け、ギヤを使って回転数を増す、風力発電機には欠かせない装置である。ユニバンス(7254)は、日産自動車向けの駆動系部品が主力であるが、産業機械向けの増速機や減速機も手掛けている。EVの進歩によりガソリン車向けの駆動系部品の先行きが不透明となるなか、新規事業として、駆動系の技術を活かせる風力発電用の増速機への参入を明らかにしている。

市場動向調査として国内株式銘柄(銘柄コード)から注目度の大きい「洋上風力発電」について活用してみた。注目企業を選別し、企業ホームページや中期経営計画などから技術的な取り組みや方向性などが調査できるとともに分野ごとの動きが掴めることが分かった。
ちなみに小職は、株式取引の経験はないが、異業種の動向調査だけでなく同様に専門分野としている「食品」や「医薬品」などの市場動向調査の一手法としても活用できそうだ。