『設備の本質安全化のポイント』 Key points for making equipment intrinsically safe

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『設備の本質安全化のポイント』
Key points for making equipment intrinsically safe

1. はじめに

 機械の本質安全化を図るには、近海の故障し、作業者は誤りを犯すことをまず認めた上で、仮にこれらが発生しても作業者の安全が確保される構造を、機械設備の設計、製造および改造などの段階で構築しておく必要がある。
 このために安全確認システムが設置されるが、安全確認システムが故障すると、作業者の安全が確保されず、労働災害が発生することがあるため、安全確認システムでは、故障時、必ず安全側(労働災害を発生させない形で機械を停止させる側)となる特性が求められる(=フェールセーフ技術の意義)。
 設備の本質安全化を図るもう一つの手段としてフールプルーフ化がある。

2. フェールセーフ化

 フェールセーフとは「機械などで一部に故障や誤動作があっても、安全な方に動作する仕組みづくり」といえる。制御機構を対象とした「フェールセーフ化の原則」に対する具体的な対応例を示す。

  1. (1) フェールセーフ化の原則 ①「再起動防止回路」
    急停止機構などの作動によって機械が停止した時や、停電後に機械への通電が復帰した時に、作業者が再起動操作を行わなければ、機械を再び起動できないようにする回路。
    具体的な対応:
     起動・停止ボタンやマグネットスイッチの代わりにナイフスイッチを使用することを禁止する。
  2. (2) フェールセーフ化の原則 ②「ガード用のインターロック回路」
     機械の稼動中に作業者が危険領域内へ侵入するのを防止する回路。機械が停止した後にガードのロック機構を解除し、作業者が危険領域内へ侵入するのを許可する方式と、ガードを開いた時に機械が急停止する方式の2種類がある。
    具体的な対応:
    1. A) ワークセットは作業者が行い、加工は機械が行う方式の場合、作業位置にマットスイッチを設け、作業OKの時はロック機構を解除し、作業者がセット作業完了後、再度作業OKとなる時は、マットスイッチはノーマルクローズ型接点(a接点)とし、断線した設備が停止する開度とする。
    2. B) 機械が稼働中に安全柵内の危険領域に入ることの無いように、また誤って起動されないように、入口扉にセフティブラグを設ける。危険領域に入る者は制御盤の電源スイッチを切り、「スイッチ入れるな」の札を貼ってからセフティブラグを抜いて扉から入る。
    3. C) 稼働部に設置した安全カバーを取り外した時や、点検扉を開けた時に、自動的に接点が開いて設備が停止するように、ノーマルクローズ型接点式(a接点)のスイッチを設ける。
    4. D) 設備が稼働中に、開口部から危険領域に侵入したら設備を非常停止させるように開口部に光電管スイッチおよびマットスイッチはノーマルクローズ型接点式(a接点)とし、断線したら設備が停止する回路とする。
  3. (4) フェールセーフ化の原則 ④「非常停止用の回路」
    作業者が何らかの異常を感知した時に直ちに機械の運転を停止させる回路。機械の運転中に労働災害が発生しかねない不測の事態が発生した時や、機械に異常が生じた時、作業中にトラブルが発生した時などに作動させる。
    具体的な対応:
    1. A) 非常ボタン
      作業者の近くにノーマルクローズ型接点式(a接点)の非常停止ボタンを設ける。ボタンのスイッチは機械的に作動状態をロックし、自動的に復帰しない構造とする。
    2. B) 非常停止用ワイヤーロープ
      作業エリアが長く、不特定な場所で非常停止動作を可能とする場合は、ワイヤーロープ式非常停止スイッチを設ける。この場合、ロープが緩んだりした時や、切断した時はスプリングなどにより接点が強制的に開くような構造とする。
  4. (5) フェールセーフ化の原則 ⑤「行き過ぎ防止用の回路」
    機械があらかじめ設定した位置・角度などを超えて行き過ぎないように監視を行い、行き過ぎが生じた時は直ちに機械を停止させる回路。
    具体的な対応:
    1. A) 過巻防止回路
      電気ホイストなどの昇降装置において、ワイヤーロープやチェーンが過巻き状態となった時は、スイッチが作動して緊急停止する構造とする。スイッチはノーマルクローズ型接点(a接点)とする。
    2. B) オーバーラン防止回路
      作業ミスや機械の異常により、所定の範囲外に機械が移動した時、スイッチが作動して緊急停止する構造とする。スイッチはノーマルクローズ型接点(a接点)とする。
    3. C) 位相ズレ防止回路
      複数のコンベヤが同期して運転されている場合、相互の位相が規定値以上にズレたらコンベヤを緊急停止させる。
  5. (6) フェールセーフ化の原則 ⑥「操作監視用の回路」
    作業者が正しい操作をした時に限り、起動信号を発生させる回路(フールプルーフ回路)。
    具体的な対応:
    1. A) ワークセット後、カバーを閉じないと機械が起動しないようにインターロックを設ける。
    2. B) 昇降装置の単独操作回路では、重要な条件をインターロック化し、誤操作を防止する。
  6. (7) フェールセーフ化の原則 ⑦「ホールド停止監視用の回路」
    ホールド停止状態にある機械が故障や電磁ノイズなどの影響によって暴走が起きた時に直ちに機械を停止させる回路。
    具体的な対応:
     モータの電流を監視するセンサを設け、万が一暴走状態となって電流を検知したらモータの電源回路を遮断するような制御システムを構成する。
  7. (8) フェールセーフ化の原則 ⑧「速度監視用の回路」
    機械を低速状態で運転する時に、故障や電磁ノイズなどの影響によって機械があらかじめ定めた速度を超えて暴走しないように監視を行い、暴走が起きた時は直ちに機械を停止させる回路。
    具体的な対応:
     ロボットなど、サーボモータを使用した機械の場合、暴走検知回路を設け、指令速度以上の動きを検知したら異常停止させる。
  8. (9) フェールセーフ化の原則 ⑨「ホールド・ツー・ランの回路」
    作業者が操作装置を押している時に限って機械が運転を開始し、操作装置から手指などを離した時は直ちに機械を停止させる回路。
    具体的な対応:
     圧搾機械やプレス機械などで、ボタンを押した後ボタンから手を放して機械内に手を入れる可能性がある場合に適用する。通常、ボタンを2個設置し、両手押し状態の時のみ運転する方式を採る。

     制御機構以外を対象とした「機械的フェールセーフ化」に対する具体的な対応例を示す。

(1) 機械的フェールセーフ化 ①「暴走防止コンベヤおよびアンチバックの設置」
 搬送コンベヤのバーチカル(傾斜)部で主務チェーンが切れた場合、搬送用ハンガーが作業エリアに下降して重大災害となる可能性がある。
 この対策として、下りバーチカル部に暴走防止用の補助コンベヤを設ける。また、上りバーチカル部には逆走しないようにアンチバックを設ける。

(2) 機械的フェールセーフ化 ②「電源が切れたら作動するブレーキ構造の採用」
 昇降装置などでは、機械の電源が切れた時、その場で停止しないと吊り荷の落下事故となる。このような設備では電源が切れた時に制動ばねでブレーキが作動する構造の電磁ブレーキを採用する。

(3) 機械的フェールセーフ化 ③「安全弁の採用」
 流体の圧力が規定値以上になった時、安全弁を作動させることにより、異常圧力上昇を防ぐ。

(4) 機械的フェールセーフ化 ④「落下防止装置の採用」
 ハンガーの吊りピンなどでナットの緩みが発生すると落下事故となる。このような構造の部位には、落下防止のワイヤーなどを追加して落下防止を図る。天井クレーンや搬送装置の走行・横行レールのストッパなども同様の処置を施す。

(5) 機械的フェールセーフ化 ➄「残圧の除去」
 ワークの引っ掛かり不具合が発生した時、エアシリンダには圧力が掛かったままの状態で停止する。このままの状態で異常処理を行うと引っ掛かりが外れた時に大変危険である。簡単に残圧を除去できるバルブなどを設けることにより対応する。
 密閉配管内に残圧として残っている場合などの分解作業などでも同様でリリーフバルブで密閉配管の残圧を抜いて、さらに圧力計などの表示がゼロになっていることを確認する。

3. フールプルーフ化

 設備の本質安全化を図るもう一つの手段であるフールプルーフ化がある。フールプルーフ化とは、「人はミスをするもの、それ故にミスをしても安全を確保する」といった設計仕様といえる。以下に事例を示す。

(1) 設備起動の合図
搬送コンベヤなど、広範囲に渡った設備の場合、設備の起動ボタンを押したら、まず起動の合図としてベルなどを鳴らし、その後起動するような回路とする。

(2) 安全柵の設置
 危険領域を安全柵で仕切り、容易に侵入できないようにする。

(3) 安全カバーの設置
 機械の可動部に人体が近寄ることができる場合、うっかりして可動部に巻込まれるのを防止するために安全カバーを設ける。

(4) 感電防止カバーの設置
 制御盤内の作業時、むき出しの端子部に人体が触れて感電するのを防止するために、アクリルカバーなどを設ける。

(5) 電源・制御盤扉のインターロック
 盤内に高圧の電源を保有していて、活電状態での開放扉を禁止する場合に、ブレーカーを切らないと扉が開かないような構造とする。

(6) 開口部からの落下防止
 搬送設備では、ワークの昇降、通過のためにどうしても安全柵を設置できない高所での開口部が存在する。この開口部に気が付かないで落下災害を起こすケースがある。
 対策としては、開口部に接近すると何らかの方法で人に知らせる方式を採用する。事例として、人が乗ると空気が抜ける音がするマットがある。

(7) 危険領域への侵入防止
 スラットコンベヤ上で作業をしている時、作業遅れにより、移載装置のある危険領域に侵入してしまう恐れがある。ワークも一緒に通過するため、人体検知が困難な場合が多い。対策として、危険領域に侵入する前に音声で知らせる方法をとる。

4. 最後に

 製造業における労働災害発生を起因物別に見ると、設備による災害が全体の約40%を占めている。その中でも機械に挟まれたり巻き込まれたりといった原因が多くを占めている。これらの災害は1つの要因だけでというよりも「不安全状態」と「不安全行動」とが重なって発生するケースが多い。設備による災害発生防止の基本のキは「フェールセーフ化」であり、「フールプルーフ化」の徹底である。

以上

【参考文献】
「故障学ぶ」設備管理の基礎と実務 著者:勝浦弘、村田晃章 発行:JIPMソリューション