技術用語解説21『生分解性プラスチック(Biodegradable Plastics)』

技術用語解説21『生分解性プラスチック(Biodegradable Plastics)』

 石油系プラスチックによる農産物及び食品の包装は、野菜、肉、鮮魚などの発泡スチロールのラップ掛け包装やカップ麺など流通・販売時の利便性や品質保持の用途で広く利用されており、用途に合わせた特性を持った様々な包装資材が開発されている。石油系プラスチックは、加工性に優れていると同時に、ガス透過性などをコントロールしやすく、また非常に安定であるなどの多くの利点を持っている。しかしながら、天然の素材と異なり微生物等による分解が困難で、また焼却時には大量の熱や排ガスを発生するなど、廃棄処理時に環境汚染を生じることが地球規模の問題となっている。そのため包装資材のリサイクル処理技術の開発とともに生分解性プラスチックの開発が進められている。生分解性プラスチックは、自然界において、微生物が関与して低分子化合物に分解されるプラスチック(高分子化合物及び配合物)として定義されている。主なものについて表1.に概要を示す。

表1.生分解性プラスチックの種類と特徴
表1.生分解性プラスチックの種類と特徴

 表1.に示すように現在の生分解性プラスチックは、大きく分けてデンプンを主体とした天然高分子利用型、微生物の生産するポリエステルなどを利用した微生物生産型、さらに生分解性ポリマーを化学合成する化学合成型の3つがある。天然高分子利用型は非常に高い生分解性を持つ一方、耐水性に乏しく用途が限定され、現在バラ状緩衝材や発泡成形体の形態で使用されている。一般的に非熱可塑性のデンプンにおいては成形加工操作において、添加剤による熱物性の改質が必要となっているが、各種の組成技術の開発が進んでいる。
 耐水性の付与や物性の改質には次のような処理方法がある。
1) 置換反応(エーテル化やエステル化)
2) 高分子反応(共重合、重縮合、架橋反応)
3) 混合 など
 最近ではタンパク質主体の生分解性プラスチックの開発、実用化も進んでいる。微生物生産型としては多くの細菌で生産されるポリエステルであるポリヒドロキシブチレート(PHB)が代表的であるが、これらのポリマーは石油系ポリマーと同様に熱可塑性を持ち、通常の成形処理が可能であり、また生分解性も高く、生体適合性もあることから医用材料として検討されている。

 化学合成系のものではポリ乳酸、ポリカプロラクトンなどがある。ポリ乳酸は原料となるL-乳酸は発酵法で生合成されるが、高重合体には熱分解によるラクチドの開環重合が必要であり化学合成型である。このタイプは石油系プラスチックとほぼ同様な使用が可能であり、汎用性が高いが生分解性の面では、重合の制御や分解菌のスクリーニング等の課題を持っている。生分解性プラスチックは、繊維、不織布、フィルム、シート、射出成型品、ボトル、発泡成型品等の製品形態において、生分解性の必要な分野や望ましい分野を中心に用途展開が考えられている。例えば、自然環境下で使用される水産、農業、園芸、土木資材分野から、日常生活において廃棄物処理が問題となる包装分野(包装フィルム、食品容器、買い物袋、緩衝材等)や生活資材(生ごみ袋、紙おむつ、トイレタリー用品等)が対象となる。

 生分解性プラスチックについては従来の石油系と比べてコストが高いことや種類によっては耐水性など機能的に劣ることなどが普及面での課題となっており、石油系プラスチックにおけるリサイクル処理が進めば、さらにプラスチックの分別処理も懸案事項となると考える。しかし、生分解性プラスチックの製造コストの引下げが進んでおり、また原材料に未利用・低利用資源を用いることでの2重の環境保全効果も期待されていることから、適用可能分野での普及が進むものと考える。

 現在、年間約1100万トンのプラスチックが海洋に流出しており、そのうち46%を薄膜プラスチックが占める。海洋へのプラスチック流出量は2040年には2900万トンに達すると見込まれ、生分解性プラスチック普及に向けての取組みが期待されている。

以上