『果実・野菜の濃縮製造ラインの設備診断の考え方』

『果実・野菜の濃縮製造ラインの設備診断の考え方』
“Approach to Equipment Diagnosis for Fruit and Vegetable Concentrate Production Lines”

1.はじめに

 果実・野菜ごとに「搾汁〜濃縮〜貯蔵〜ブレンド」の考え方がかなり変わるので、設計視点で設備診断(稼働率向上・改善)を考える。

2.共通の基本フロー

 多くの果実・野菜濃縮は、次の構成をベースにして考える。

  (1)原料受入・洗浄・選別
  (2)粉砕・摩砕(必要に応じて加熱前処理)
  (3)搾汁・分離(果肉・繊維・種子など)
  (4)粗ろ過・清澄化(ペクチナーゼやデカンタ・遠心分離など)
  (5)濃縮(多重効用缶/プレート/フォーリングフィルムなど)
  (6)調合・糖酸調整・ブレンド
  (7)殺菌・充填・冷却、あるいは冷凍濃縮保管

 品目ごとのライン構成を整理する。

3.りんご・桃・オレンジ・プルーン

3-1.りんご・オレンジ:典型的果汁ライン

(1)搾汁

  ・連続プレス搾汁機や脱汁機を使用。
  ・オレンジはジューサー式で果皮オイルの管理が課題。

(2)清澄 or 混濁

  ・清澄:ペクチナーゼ処理後、遠心分離+フィルターで透明果汁。
  ・混濁:酵素処理を抑え、パルプを一部残す。

(3)濃縮

  ・12〜15 °Brix → 65〜70 °Brix程度まで。
  ・風味維持のため、アロマ回収装置を付けるかどうかが重要設計ポイント。

(4)貯蔵

  ・ドラム缶・バッグインドラムで冷凍保管が主流。

3-2.桃・プルーン:高粘度・ネクター系

(1)原料処理

  ・去皮、脱核が必須。打ち抜き機やデストーナーラインが必要。

(2)搾汁というより「ピューレ化」

  ・摩砕 → スクリーンで種や粗繊維を除去し、ピューレ状に。

(3)濃縮

  ・粘度が高く、プレートよりフォーリングフィルムや強力攪拌付き濃縮缶が向く。

(4)製品形態

  ・濃縮ピューレとして保管し、後段でネクター飲料やデザート基材に使用。

3-3.トマト・ニンジン:プロセス色の強い野菜系

3-3-1.トマト濃縮ライン

(1)ホットブレイク/コールドブレイク

  ・酵素失活条件の違いで粘度や風味が変わるため、中間目標をどちらに置くかを設計で先に決める。

(2)搾汁・パルプ調整

  ・シングル/ダブルパッサーで皮・種を除去し、粘度を調整。

(3)濃縮

  ・5〜7 °Brix → 28〜36 °Brixのペーストが典型。
  ・高粘度対応のため、循環ライン径やポンプ選定が重要。

(4)連続殺菌・アセプティック充填

  ・ペーストはバッグインドラム無菌充填が一般的。

3-3-2.ニンジン濃縮ライン

(1)洗浄・ブラッシングが要

  ・土壌由来汚染・微生物リスクが高く、洗浄工程を厚めに取る。

(2)摩砕→搾汁

  ・スクリーンで繊維を調整しつつ、ビタミン損失を抑えるため低温管理。

(3)濃縮

  ・風味よりも栄養・色調が重視される製品が多く、真空蒸発器での低温濃縮が主流。

(4)用途

  ・野菜ミックス、青汁系飲料、ベビーフードへのブレンド用として濃縮汁が使われる。

3-4.青汁・野菜ミックス

 青汁や複合野菜飲料になると、「搾汁+凍結」や「粉末化」との組み合わせが増す。

(1)原料

  ・ケール、大麦若葉、小松菜など葉物が主体。

(2)プロセスの特徴

  ・搾汁直後の酵素活性が高く、変色や臭いが出やすいため低温連続処理と素早い凍結や加熱が必須。

(3)濃縮のアプローチ

  ・液体濃縮に加えて、凍結濃縮やスプレードライ粉末を組み合わせるライン構成も多い。

(4)ブレンド

  ・濃縮ニンジン・トマト・りんごなどを組み合わせ、飲みやすさと栄養バランスを設計する。

3-5.設計時に分けて考えるべきポイント

(1)品目別「ボトルネック工程」

表3-1.に品目別のボトルネックと設計の要点を整理して以下に示す。

表3-1.品目別ボトルネック工程と設計の要点

品目 ボトルネック工程 設計の要点
りんご 搾汁・清澄・アロマ回収 酵素処理条件と香気ロス対策
オレンジ 搾汁ヘッド・果皮管理 果皮油と苦味の制御
桃・プルーン 去皮・種取り・ピューレ化 高粘度搬送と衛生設計
トマト ホットブレイク〜濃縮 粘度制御とペースト粘度設計
ニンジン 洗浄・摩砕・搾汁 土壌菌対策と色調保持
青汁 低温搾汁〜凍結・乾燥 酵素活性抑制と変色防止

(2)汎用化と専用ラインの切り分け

  ・搾汁〜粗ろ過までは原料ごとに専用設備が多い
  ・濃縮〜貯蔵〜調合〜殺菌は共通設備で回す設計が現実的
  ・桃・プルーン・トマトなど高粘度系と、りんご・オレンジの低粘度系は、ポンプ・配管・濃縮器の適用範囲を分けるとトラブルが減る

4.濃縮装置タイプと各品目の適合

 果実・野菜ごとの物性がそれぞれ違うので、「どのタイプの濃縮装置がどこまで守備範囲か」を整理してライン設計を考える。

4-1.前提になる装置タイプ

表4-1.に濃縮装置の代表的なものについて整理して示す。

表4-1.代表的な濃縮装置と特徴

装置タイプ 特徴の要点
プレート式(膜流下型) 低〜中粘度向き、滞留短い、比較的省エネ
フォーリングフィルム 低〜中粘度、熱に弱い液に良い
強制循環(フラッシュ型) 泡立ちやすい液、高粘度寄りにも対応
コイル回転・薄膜型 高粘度・固形分多い液に対応
膜濃縮(RO/NF) 低温、香気・栄養保持、低〜中濃度まで
凍結濃縮 最高レベルで風味保持、濃度は中程度まで

 プレート式やフラッシュ型、コイル回転型などの「適用粘度レンジ」を明示している国内メーカーも多く、例えばプレート式は果汁やエキスなど中程度粘度まで、さらに粘度が上がると強制循環やコイル型を使う設計が一般的。

4-2.果実系の適合濃縮装置

 りんご、オレンジ、桃、プルーンについて、主用途を「果汁系」と「ピューレ系」で分ける。

表4-2.に果実系の適合濃縮装置について整理して示す。

表4-2.果実系の適合濃縮装置

品目 代表物性イメージ 推奨1stチョイス 代替・高付加価値案
りんご 低粘度果汁 プレート式、多重効用 膜濃縮+最終少量蒸発
オレンジ 低粘度果汁、パルプ少〜中 プレート式、多重効用 アロマ回収付フォーリングフィルム
ピューレ状、中〜高粘度 強制循環缶、コイル回転・薄膜型 一部膜濃縮+高粘度蒸発
プルーン 高Brixピューレ、高粘度 強制循環缶、コイル回転・薄膜型 凍結濃縮+最終蒸発

【ポイント】

(1)りんご・オレンジ

  ・低〜中粘度でBrix 60〜70程度までなら、プレート式や薄膜流下式が効率的。
  ・風味重視なら、前段にRO膜濃縮でBrixを引き上げてから最終蒸発を少なくする構成も有効。

(2)桃・プルーン

  ・Brix 30〜45付近から粘度が急上昇するため、プレート・フォーリングフィルム単独では厳しく、強制循環式やコイル回転式のような「高粘度・固形分対応」の蒸発器が向く。
  ・品質重視品では、凍結濃縮を併用して香気保持と熱履歴低減を図る構成もある。

4-3.トマト・ニンジンの適合濃縮装置

表4-3.にピューレ系の適合濃縮装置について整理して示す。

表4-3.ピューレ系の適合濃縮装置

品目 代表物性イメージ 推奨1stチョイス 代替・組合せ案
トマト ピューレ〜ペースト、高粘度 フォーリングフィルム+強制循環 コイル回転・薄膜型、高粘度専用缶
ニンジン 果汁〜濃縮汁、中粘度 プレート式、フォーリングフィルム 膜濃縮+低温蒸発

【ポイント】

(1)トマト

  ・ホットブレイク後のピューレ〜ペーストはかなり高粘度で、フォーリングフィルム蒸発器がよく用いられる。
  ・Brix 30前後のペーストまで持っていく場合、強制循環式や高粘度対応のコイル型(回転薄膜)が有利。

(2)ニンジン

  ・濾過度合い次第で粘度は中程度が多く、プレート式や薄膜流下式で十分対応可能なケースが多い。
  ・βカロテンなど熱に敏感な成分を意識する場合、前段でRO膜によりある程度まで濃縮した後、真空蒸発器で低温仕上げする設計がとられる。

4-4.青汁・野菜ミックスの適合濃縮装置

表4-4.に野菜ミックス系の適合濃縮装置について整理して示す。

表4-4.野菜ミックス系の適合濃縮装置

対象 代表物性イメージ 推奨1stチョイス 代替・高付加価値案
青汁搾汁液 低〜中粘度、熱に弱い 膜濃縮(RO)+真空蒸発 凍結濃縮
野菜ミックス汁 低〜中粘度 プレート式、多重効用 膜濃縮+プレート式併用

(1)青汁

  ・葉物搾汁液は酵素活性や変色が問題になるため、低温の膜濃縮や凍結濃縮が適しやすい。
  ・最終Brixをあまり上げない設計なら、膜単独または膜+軽い真空蒸発で十分なこともある。

(2)野菜ミックス

  ・ニンジンやトマト、果汁をブレンドした一般的な野菜飲料用のベースは、果汁ライン同様にプレート式・フォーリングフィルムで処理しやすいレンジに収まることが多い。

4-5.濃縮装置の適合範囲

表4-5.に濃縮装置の適合範囲を「Brixと粘度」で整理して示す。

表4-5.「Brixと粘度」の適合範囲

濃度・粘度レンジ 適した方式の目安
Brix 10〜30、低〜中粘度 プレート、フォーリングフィルム、膜濃縮
Brix 30〜50、中〜高粘度 強制循環缶、フォーリングフィルム、コイル
Brix 50以上、高粘度・ペースト 強制循環缶、高粘度用コイル・薄膜

 実際には、メーカー側も「適用粘度範囲」や「想定用途」として果汁、抽出エキス、乳製品、高粘度液などを明示している。例えばプレート式では果汁、エキス、糖液など1000 mPa·s程度まで、強制循環や回転コイルではもっと高い粘度と固形分を対象とする例がある。

5.既設MFE(三重効用・2000 kg/h)で処理可能な品目・Brixレンジ

 日阪のプレート式濃縮装置MFEをどう「守備範囲のど真ん中」で使うか、品目ごとに整理する。

5-1.日阪MFEの適用レンジの前提

 日阪のプレート式濃縮装置MFEは、プレート内を薄膜流下させるタイプで、果汁・抽出エキス・乳製品など「比較的低〜中粘度」の液に適用する前提。MFEの適用粘度は約1,000 cP程度までとされている。

 同じ日阪の資料では、濃縮装置の適用範囲チャートの中で、

  ・MFE:低〜中粘度、蒸発量〜10,000 kg/h
  ・REV(フラッシュ型):もう少し高粘度寄り
  ・GY(コイル回転型):1万 cPクラスの高粘度まで

 という区分が示されている。

 既設の設備は「三重効用・MFE・最大蒸発量2,000 kg/h」とのことなので、

  「清澄〜低パルプの果汁・野菜汁」
  「中程度までの濃縮、粘度1,000 cP以下」

 が基本守備範囲、と置くのが現実的。

5-2.りんご・オレンジ・ニンジン:MFEの本来の得意分野

(1)想定ライン

  ・原料処理〜搾汁〜清澄(または低パルプ化)
  ・MFE(三重効用)で真空濃縮
  ・濃縮果汁・野菜濃縮汁として保管・ブレンド

(2)品目別の「無理なく狙えるBrixレンジ」

表5-1.に品目別の原液Brix目安とMFEで現実的な出口Brixについて整理して示す。

表5-1.品目別の原液Brix目安とMFEで現実的な出口Brix

品目 原液Brixの目安 MFEで現実的な出口Brix コメント
りんご 10〜12 60〜70 清澄果汁前提なら◎
オレンジ 10〜12 60〜70 パルプ少〜中なら◎
ニンジン 6〜10 40〜50 繊維をある程度カット前提

【りんご・オレンジ】

 EasyRealなどのプレート式真空蒸発器の適用例を見ると、清澄果汁や低固形分ジュースの濃縮にはプレート式多重効用が標準とされており、Brix 60〜70までの濃縮が一般的

【ニンジン】

 高い繊維分を含んだままではフォーリングフィルムや強制循環向きとされるが、スクリーンなどで繊維を落として中粘度域に入れれば、プレート式の適用範囲に入る。

(3)結論:

この3品目の「清澄〜低パルプ系」は、既設MFE 2,000 kg/hで主力運転対象として問題なく扱えるレンジである。

5-3.桃・プルーン・トマト:MFE単独では厳しいゾーン

(1)共通する課題

  ・ピューレ〜ペーストで固形分が多く、粘度が高い
  ・Brix 30〜40を超えると粘度が急上昇
  ・強制循環やコイル回転型が推奨されるケースが多い

(2)品目別の「MFE限界イメージ」

表5-2.に品目別の原液(ピューレ)BrixとMFE現実ターゲットを整理して示す。

表5-2.品目別の原液(ピューレ)BrixとMFE現実ターゲット

品目 原液(ピューレ)Brix MFE現実ターゲット 備考
8〜12 25〜30程度まで それ以上は高粘度缶推奨
プルーン 18〜25 35前後が限界目安 高Brixペーストは別方式
トマト 5〜7 12〜15程度まで ペースト28〜36はREV/GY向き

【トマト】

 日阪のカタログでは、トマトなど高粘度・固形分系にはREV(フラッシュ型)やGY(コイル回転型)が推奨されており、MFEは果汁・抽出エキスなど比較的低粘度向けと明記されている。

 したがって、既設MFEは「トマトジュース相当の低〜中Brix域までの一次濃縮用途」が現実的な使い方になる。

【桃・プルーン】

 EasyRealの適用例でも、高Brixのフルーツペーストやピューレには多重効用の強制循環蒸発器が使われると説明されている。

 MFEは、「サラサラ寄りのピューレ」をBrix 25〜30程度までに押し上げる一時濃縮用途なら使えるが、「最終ペースト」までは能力不足、とみておくのが安全。

(3)結論:

 桃・プルーン・トマトは、

  ・MFEで「一次濃縮」または「ジュース域までの軽濃縮」
  ・高Brixペーストは将来的にREVやGY、強制循環缶を増設

 という二段構えで考えるのが現実的。

5-4.青汁・ブレンド濃縮汁:条件付きでMFE適用可

 青汁や野菜ミックスはプロセス設計次第で大きく変わる。

(1)青汁単体

  ・葉物搾汁液は固形分・繊維が多く、熱に弱い
  ・膜濃縮や凍結濃縮を前段に使う例が多い

 MFEで扱うなら、

  ・前段で分離・ろ過して繊維を可能な限り落とす
  ・Brix 10〜20程度の軽濃縮まで

 が現実的なライン。

(2)野菜ミックス・果汁ブレンド

  ・ニンジン+トマト+果汁などの「飲料ベース」なら、ろ過・清澄度合い次第でMFEの守備範囲に入る。
  ・Brix 30〜40までの「濃縮ベース」を作る程度であれば、粘度1,000 cPを大きく超えない配合ならMFEで十分対応可能。

5-5.既設MFEでの「品目×Brix」まとめ

表5-3.に既設MFEでの「品目×Brix」を品目・用途に整理して示す。

表5-3.既設MFEの品目・用途とBrixレンジ

品目・用途 MFEで主力運転にできるBrixレンジ コメント
りんご清澄果汁 10 → 60〜70 ベストマッチ
オレンジ低パルプ果汁 10 → 60〜70 アロマ回収は別検討
ニンジン濃縮汁 6〜10 → 40〜50 繊維カット前提
青汁搾汁(清澄寄せ) 3〜7 → 10〜20 高Brixは膜・凍結向き
野菜ミックス飲料ベース 8〜12 → 30〜40 粘度次第で要確認
桃サラサラピューレ 8〜12 → 25〜30 それ以上は高粘度缶
プルーンピューレ 18〜25 → 35前後 高Brixは強制循環向き
トマトジュース域 5〜7 → 12〜15 トマトペースト域は別設

 ここでの数値は、日阪のMFE適用粘度レンジ(〜1,000 cP)と、一般的な果汁・ピューレの粘度上昇カーブからの工場設計レベルの目安。実際には原料の品種や清澄度、温度条件によって補正が必要。

6.既設MFE負荷計算と年間能力の試算

 品目別「中間Brix規格」を前提にした、既設MFEにおける負荷計算と年間能力の試算を考える。

6-1.前提条件の仮設定

 まずは計算を簡単にするための共通前提を決める。

(1)装置・運転前提

  ・濃縮装置:プレート式MFE、三重効用
  ・最大蒸発量:2,000 kg/h(水換算)
  ・有効運転時間:
   1シフト運転:8 h/日 × 300日/年 ≒ 2,400 h/年
   2シフト運転:16 h/日 × 300日/年 ≒ 4,800 h/年

 以降は「2,000 kg/hで安定運転できる」と仮定した。

(2)濃縮の質量バランス式

  原則として
  ・固形分バランス:F × Brix_in = C × Brix_out
  ・水分蒸発量:E = F − C

 F:原料液量(kg/h)、C:濃縮液量(kg/h)、E:蒸発量(kg/h)

 蒸発量Eが2,000 kg/hを超えなければ、装置能力内という考え方。

6-2.想定「中間Brix規格」と能力計算

 まずは、現実的な中間Brixを仮設定する。

表6-1.に中間Brixの仮設定を整理して示す。

表6-1.中間Brixの仮設定

品目 Brix_in 中間Brix_out(規格案)
りんご清澄果汁 12 70
オレンジ果汁 12 65
ニンジン濃縮汁 8 45
青汁濃縮汁 5 15
野菜ミックス汁 10 35
桃サラサラピューレ 10 28
プルーンピューレ 20 35
トマトジュース域 6 15

 このBrixを前提に、「蒸発量2,000 kg/hのとき、原料処理量Fと濃縮品Cがいくつになるか」を算出する。

6-3.MFE 2,000 kg/h時の品目別能力

 既設MFE 2,000 kg/h時の品目別能力を算出する。

(1)りんご清澄果汁(12→70 Brix)

  固形分バランス:F × 0.12 = C × 0.70 → C = 0.171F
  水分蒸発:E = F − C = F − 0.171F = 0.829F
  E = 2,000 kg/hのとき:
  0.829F = 2,000 → F ≒ 2,413 kg/h
  C ≒ 0.171 × 2,413 ≒ 413 kg/h

 ・りんご原汁処理能力:約 2.4 t/h
 ・濃縮りんご果汁生産量:約 0.4 t/h

 年間に換算すると(2シフト4,800 h/年)

 ・原汁:2.4 t/h × 4,800 h ≒ 11,600 t/年
 ・濃縮:0.4 t/h × 4,800 h ≒ 2,000 t/年

(2)オレンジ果汁(12→65 Brix)

  C = F × 0.12 / 0.65 ≒ 0.185F
  E = F − C ≒ 0.815F
  0.815F = 2,000 → F ≒ 2,455 kg/h
  C ≒ 455 kg/h

 ・原汁:2.5 t/h
 ・濃縮:0.46 t/h

 ・年間(4,800 h)の濃縮量:0.46 × 4,800 ≒ 2,200 t/年

 ※りんごとほぼ同等レンジ。

(3)ニンジン濃縮汁(8→45 Brix)

  C = F × 0.08 / 0.45 ≒ 0.178F
  E = F − C ≒ 0.822F
  0.822F = 2,000 → F ≒ 2,434 kg/h
  C ≒ 433 kg/h

 ・原汁:2.4 t/h
 ・濃縮:0.43 t/h

 りんごと同等クラスで回せるイメージ。

(4)青汁濃縮汁(5→15 Brix、軽濃縮)

  C = F × 0.05 / 0.15 = 0.333F
  E = F − C = 0.667F
  0.667F = 2,000 → F ≒ 3,000 kg/h
  C ≒ 1,000 kg/h

 ・搾汁液:3.0 t/h
 ・濃縮青汁:1.0 t/h

 Brix差が小さい分、原料処理量は増えるが、濃縮倍率は3倍程度と緩やか。

(5)野菜ミックス汁(10→35 Brix)

  C = F × 0.10 / 0.35 ≒ 0.286F
  E = F − C ≒ 0.714F
  0.714F = 2,000 → F ≒ 2,801 kg/h
  C ≒ 801 kg/h

 ・原汁:2.8 t/h
 ・濃縮:0.8 t/h

 果汁よりやや原料処理量が多いイメージ。

(6)桃サラサラピューレ(10→28 Brix)

  C = F × 0.10 / 0.28 ≒ 0.357F
  E = F − C ≒ 0.643F
  0.643F = 2,000 → F ≒ 3,111 kg/h
  C ≒ 1,111 kg/h
  ・ピューレ:3.1 t/h
  ・濃縮ピューレ:1.1 t/h

 ただし粘度的にMFEの上限近傍なので、実際には2,000 kg/hフルには攻めず、蒸発量を少し絞る想定が安全。

(7)プルーンピューレ(20→35 Brix)

  C = F × 0.20 / 0.35 ≒ 0.571F
  E = F − C ≒ 0.429F
  0.429F = 2,000 → F ≒ 4,663 kg/h
  C ≒ 2,662 kg/h

 ・ピューレ:4.7 t/h
 ・濃縮:2.7 t/h

 計算上は大量に処理可能だが、ここも粘度的にMFEの適用上限を超えがちなので、 「理論値としてこうなる」という参考レベルで良い。

(8)トマトジュース域(6→12 Brix)

  C = F × 0.06 / 0.12 = 0.5F
  E = F − C = 0.5F
  0.5F = 2,000 → F = 4,000 kg/h
  C = 2,000 kg/h

 ・ピューレ(薄い):4.0 t/h
 ・トマトジュース相当:2.0 t/h

 ペースト域に入る前の「一次軽濃縮」用途としてはかなり余裕がある。

6-4.年間能力のイメージ

 例として、「果汁系を中心に、MFEを2シフト4,800 h/年回す」場合の能力を示す。

(1)パターンA:果汁中心運用

  ・りんご濃縮:2,000 t/年(清澄12→70 Brix)
  ・オレンジ濃縮:1,000 t/年(12→65 Brix)
  ・ニンジン濃縮:800 t/年(8→45 Brix)

 それぞれの必要運転時間(h)は

  ・りんご:2,000 t ÷ 0.413 t/h ≒ 4,840 h
  ・オレンジ:1,000 t ÷ 0.455 t/h ≒ 2,200 h
  ・ニンジン:800 t ÷ 0.433 t/h ≒ 1,850 h

 合計が8,800 hを超えるので、このままでは物理的に不可能。

 実際には

  ・シーズンごとに優先品目を絞る
  ・一部は中間Brixを抑えて蒸発負荷を軽減する

 などでバランスを取る必要がある。

(2)パターンB:りんご・野菜ミックス・トマト一次濃縮で回す

 例えば

  ・りんご濃縮:1,000 t/年(12→70 Brix)
  ・野菜ミックス:1,000 t/年(10→35 Brix)
  ・トマト一次濃縮:5,000 t/年(6→12 Brix)

 のように組み合わせると、

  ・りんご運転時間:1,000 ÷ 0.413 ≒ 2,420 h
  ・野菜ミックス運転時間:1,000 ÷ 0.801 ≒ 1,250 h
  ・トマト運転時間:5,000 ÷ 2.0 ≒ 2,500 h

 合計:およそ6,200 h

  2シフト4,800 h/年をやや超えるが、シフト増や運転Brixの微調整で十分現実範囲に収まるレベルとなる。

7.CIP時間短縮による稼働率改善

 CIP時間短縮やバッチ時間の延長などによる「稼働率改善のシミュレーション例」について述べる。バッチ型の濃縮ラインは、CIPや切替の「段取り時間」を変更・改善で、能力がかなり変わる。シンプルな数字でシミュレーションして示す。

7-1.ベース条件の整理

 まずは共通の前提を一つ決める。

(1)想定:果汁系1バッチの標準条件

  ・立ち上げ T_start = 1.0 h
  ・定常運転 T_run = 6.0 h
  ・CIP・段取り T_cip = 2.0 h

(2)1バッチ時間

  ・T_batch = 1 + 6 + 2 = 9 h

(3)日の運転可能時間

  ・T_day = 16 h(2シフト想定)

このときの「有効運転率」をベースとして計算する。

(4)パターン0:現状イメージ

  ・1日で回せるバッチ数:N_batch = T_day ÷ T_batch = 16 ÷ 9 ≒ 1.77

実務上は「1〜2バッチ/日」である。

  ・有効運転時間:T_run,day = N_batch × T_run ≒ 1.77 × 6 ≒ 10.6 h
  ・稼働率:η_day = T_run,day ÷ T_day ≒ 10.6 ÷ 16 ≒ 66%前後

ここから「CIP短縮」「バッチ延長」を変数として振ってみる。

7-2.バッチ時間延長(T_run延長)の効果

(1)パターン1:CIPを2.0 h → 1.5 h に短縮

  ・新T_batch = 1.0 + 6.0 + 1.5 = 8.5 h
  ・N_batch = 16 ÷ 8.5 ≒ 1.88
  ・T_run,day ≒ 1.88 × 6.0 ≒ 11.3 h
  ・η_day ≒ 11.3 ÷ 16 ≒ 71%

 → CIP30分短縮で、稼働率は約66% → 71%にアップ
 → 有効運転時間は約7%増(10.6 h → 11.3 h)

(2)パターン2:CIPを2.0 h → 1.0 h に短縮

  ・新T_batch = 1.0 + 6.0 + 1.0 = 8.0 h
  ・N_batch = 16 ÷ 8.0 = 2.0
  ・T_run,day = 2.0 × 6.0 = 12.0 h
  ・η_day = 12.0 ÷ 16 = 75%

 → CIP1時間短縮(2 h → 1 h)で、稼働率は約66% → 75%
 → 有効運転時間は約13%増(10.6 h → 12.0 h)

 CIP時間削減は「1バッチの非生産時間を直接削る」ので、効果がストレートに効く。

7-3. バッチ時間延長(T_run延長)の効果

(1)パターン3:T_runを 6 h → 8 h に延長

 今度はCIPそのままで、「1バッチあたりの定常運転を延ばす」ケースで考える。

  ・新T_batch = 1.0 + 8.0 + 2.0 = 11.0 h
  ・N_batch = 16 ÷ 11.0 ≒ 1.45
  ・T_run,day ≒ 1.45 × 8.0 ≒ 11.6 h
  ・η_day ≒ 11.6 ÷ 16 ≒ 72%
  → 有効運転時間:10.6 h → 11.6 h(約10%増)

【ポイント】

  ・バッチ時間を延ばすと「1日に回せるバッチ数」は減るが、1バッチあたりの非生産時間(1 h+2 h)は薄まる
  ・T_runを増やすほど有効率が「上限に近づいていく」イメージ

(2)パターン4:T_runを 6 h → 10 h に延長

  ・新T_batch = 1.0 + 10.0 + 2.0 = 13.0 h
  ・N_batch = 16 ÷ 13.0 ≒ 1.23
  ・T_run,day ≒ 1.23 × 10.0 ≒ 12.3 h
  ・η_day ≒ 12.3 ÷ 16 ≒ 77%
  → 有効運転時間:10.6 h → 12.3 h(約16%増)

7-4. CIP短縮とバッチ延長を組み合わせた場合

 両方を少しずつ効かせると、改善幅はさらに大きくすることができる。

改善案:パターン5:T_run 8 h、CIP 1.5 h のバランス案

  ・T_start = 1.0 h
  ・T_run = 8.0 h
  ・T_cip = 1.5 h

【新T_batch】

  ・T_batch = 1.0 + 8.0 + 1.5 = 10.5 h

1日あたり

  ・N_batch = 16 ÷ 10.5 ≒ 1.52
  ・T_run,day ≒ 1.52 × 8.0 ≒ 12.2 h
  ・η_day ≒ 12.2 ÷ 16 ≒ 76%
  → ベースの約66%から、約76%へ「10ポイント改善」
  → 有効運転時間は約15%増(10.6 h → 12.2 h)

7-5. 改善インパクトを年換算する

 仮に「濃縮品の平均生産量 0.45 t/h(りんご果汁クラス)」とすると、

  ・ベース(η ≒ 66%):有効運転 10.6 h/日 → 濃縮 4.8 t/日
  ・パターン5(η ≒ 76%):有効運転 12.2 h/日 → 濃縮 5.5 t/日
  ・1日あたりで 0.7 t/日 増加:300日運転なら年間で約210 t/年の増産に相当
結論:
 設備増設なしでこれだけ増える計算になるので、「CIP短縮+バッチ延長」を検討する価値は大きい。
実務で検討する際のポイントは、CIP短縮策の例から、プレリンス時間の最適化、レシピのシンプル化(薬液1段+短酸洗など)、自動バルブ・自動レシピ化で「待ち時間」を削る。
バッチ延長策の例は、原料タンク容量の見直し、品目まとめ(同品目を連続日でまとめて処理)、夜間に「高Brix仕上げバッチ」を集中させなどが設備診断での結論になる。

以上

【参考引用先・関連レポート】
1. 日阪製作所「カタログ:プレート式グローバル蒸発・濃縮装置 (FO-CJ000306)」
2. 日阪製作所HP「製品情報:蒸発・濃縮装置」
 URL: https://www.hisaka.co.jp/food/product/product02.html?utm_source=openai
3. 技術レポート『蒸発濃縮設備における設計の心得』木本技術士事務所HP
 URL: https://www.kimoto-proeng.com/report/1805
4. 技術用語解説25『真空濃縮 (Vacuum concentration)』木本技術士事務所HP
 URL: https://www.kimoto-proeng.com/keyword/1806
5. 技術レポート『食品膜技術による分離・濃縮の基礎と応用』木本技術士事務所HP
 URL:https://www.kimoto-proeng.com/report/912