2025/12/22
『無菌充填機の要求仕様設計の検討とラインバランスの具体化事例』
“Examination of required specification design for aseptic filling machines and concrete examples of line balancing”
1. はじめに
清涼飲料水(ミネラルウォータ)PETボトル500mLを200 bphレベルで生産する「低速・試作〜少量生産クラス」パイロットプラント向け無菌充填機の要求仕様を設計する場合の検討例と週次生産数量を想定してラインバランスを考慮した具体化事例を詳述する。図1. にPETボトル無菌充填包装ラインの装置構成の例を示す。
図1. PETボトル無菌充填包装ラインの装置構成(概略図)
2. 飲料用無菌充填機の要求仕様
無菌充填機の要求仕様を「プロセス無菌保証」「容器・環境・制御」「性能・品質」「設計・運用・検証」の柱で体系化する。
2-1. 仕様要件の全体像
• 適用範囲:
低酸性飲料(茶、乳飲料、コーヒー、果汁、機能性飲料)~常温流通設計、容器はPET/ガラス/缶/BIBを包含。製品側は事前滅菌・無菌
保持、容器側は無菌環境で充填・密封。
• 無菌保証コンセプト:
製品・容器・環境の三位一体。アイソレータ内の過圧無菌空気、HEPA二重構成、事前のCIP/SIPとアイソレータ滅菌(PAA/H₂O₂)で運
転中常時無菌維持。
• ライン構成例:
容器供給→容器滅菌(H₂O₂/EB/ガンマ済包材)→アイソレータ内充填・打栓→無菌搬送・検査→二次包装。BIBはガンマ滅菌済フィル
ム+無菌充填ユニットでクリーンルーム不要設計が可能。
2-2. 容器・環境滅菌方式の比較
表1.に容器・環境滅菌方式の比較を示す。
表1. 容器・環境滅菌方式の比較
| 項目 | H₂O₂噴霧滅菌 | EB電子線滅菌 | ガンマ滅菌済包材(BIB) |
|---|---|---|---|
| 適用容器 | PET/ガラス | PET主体 | BIBピロー袋 |
| 滅菌原理 | 気化H₂O₂の化学殺菌 | 電子線照射の物理殺菌 | 事前ガンマ滅菌で工程短縮 |
| 残留リスク | 低く管理可能(乾燥・分解要件) | 薬剤残留なし | 包材側で管理済 |
| ランニングコスト | 薬剤・乾燥エネルギ | 低(薬剤不要) | 包材調達コスト |
| 装置コンパクト性 | 中(条件次第でリンサー縮小/不要) | 高(照射部コンパクト) | 高(大規模CR不要) |
| 規制実績 | FDA認可例あり | 6D効果実績(B. pumilus等) | 国内導入300台以上実績 |
| 連続運転適性 | 長時間連続に適合 | 長時間連続に適合 | 高い保存性・物流最適化 |
• 補 足:
EBは全周照射・容器回転機構で確実滅菌、薬剤不使用でコスト低減。H₂O₂は内外均一噴霧で確実滅菌、条件次第でリンサー縮小。BIB
はガンマ滅菌済包材でクリーンルーム不要・長期常温保管を実現。
2-3. アイソレータ・空調・衛生設計
• アイソレータ要求:
無菌過圧管理(ダブルHEPA)、生産前の内部洗浄・滅菌、運転中の無菌維持。EHEDGガイドライン準拠の衛生設計(滑らかな表面、洗
浄容易性、広い開口で保守性)を明示仕様化。
• 滅菌薬剤互換:
PAA/H₂O₂両方式との互換性。材質選定とガス管理・乾燥性能を性能指標に含める。
• 視認性・HMI:
大画面HMI統合、スマートアラームと世界設置データに基づくトラブルシューティング、上部ディスプレイで遠隔視認性向上。稼働率
最大化のためのUX要件に格上げ。
2-4. プロセス制御・計測・CIP/SIP
• 充填精度:
ロードセル/流量計による容積精度均一化。PET小口径でも高精度充填、500mLで毎分900本級、缶で毎分2,000本級のターゲット性能を
基準値として要求。
• サニタリ計測:
自己診断付き温度センサ(SUS316L、完全溶接、ドリフト監視)で殺菌温度の精密維持、立上げ自動化、切替迅速化、ダウンタイム低
減をKPIに連結。
• CIP/SIP要件:
全媒体接液部の自動CIP/SIP、バリデーション対応の温度・時間・流速記録、アイソレータの薬剤残留管理・乾燥性能の数値化(例:残
留H₂O₂許容値到達時間)。
2-5. 性能・品質・規制
• 無菌性能:
目標D値削減・6D殺菌相当の容器滅菌能力、製品側は商業無菌達成(微生物限度試験陰性)。容器軽量化・熱劣化なしを明記(無菌充
填は耐熱容器不要)。
• 連続運転:
長時間連続稼働(目標:12–20 h以上)、無菌インテグリティ監視、段取替え時間の上限設定。
• 規制・ガイドライン:
FDA認可実績技術の参照、EHEDG準拠設計、必要に応じてISO/JIS衛生材料要件を付記。
• 常温流通:
無菌充填により常温輸送・保管可能、賞味期間延伸を製品設計要件に接続。BIBは長期保管・物流コスト削減の選択肢として記載。
2-6. 実務チェック項目(要求仕様ドラフト)
• 製品定義:
液種・pH・粘度・固形分、目標賞味期限、常温流通の有無。
• 容器仕様:
材質・口 径・形状・バリア性、軽量化目標、EB/H₂O₂/BIBの適合性評価。
• 滅菌方式選定:
H₂O₂/EB/BIBのトレードオフ(残留・コスト・コンパクト性・既存ライン親和性)。
• 環境管理:
過圧・二重HEPA・漏れ率、無菌境界の管理、アイソレータ滅菌サイクル(PAA/H₂O₂)。
• 充填性能:
ターゲットスループット(例:PET 900 bpm, 缶 2,000 bpm)、充填精度(ロードセル/流量計)、打栓・巻締の無菌一貫性。
• 計測・監視:
温度・圧力・流量・微差圧、自己診断センサの採用、アラーム分類と停止基準、トレースデータ保持。
• CIP/SIPバリデーション:
レシピ・記録・合否基準(温度・時間・導電率)、アイソレータ残留薬剤の許容値と乾燥時間。
• HMI/保守性:
直感的UI・遠隔視認性・原因特定支援、保守アクセス、工具不要の分解洗浄可否。
• 品質保証:
無菌性試験計画、エンドトキシン・残留薬剤評価、初期PQ/OQ/IQの合否基準。
• ユーティリティ:
電力・圧縮空気・真空・無菌空気・薬剤供給、排気処理、床面積・天井高。
• 安全・コンプライアンス:
薬剤ハンドリング安全、電気・機械安全、インターロック、非常停止。
• ドキュメント:
SOP・バリデーション報告・メンテ計画、部品リスト、教育訓練資料。
2-7. 導入戦略の実務的示唆
• EB vs H₂O₂の棲み分け:
EBは薬剤不要・コスト優位、H₂O₂は容器適用幅と規制実績が強み。既存設備・容器設計・立上げ文化に合わせて選定。
• アイソレータの”見える化”:
稼働率・原因解析・アラーム優先度をHMIに統合して、未然防止と段取り時間短縮をKPI管理に直結。
• BIB適用:
乳飲料・濃縮果汁・業務用の長期常温保管・物流最適に有効。大規模CR不要で初期投資削減の選択肢として検討。
• スループット基準:
PET/缶でのハイレベル生産性指標を初期URSに明示し、充填精度の測定方式(ロードセル/電磁流量計)と整合を取る。
• センサ品質:
自己診断付きサニタリ温度センサでドリフト・湿気侵入リスクを構造的に排除、CIP/SIPの信頼性を担保。
3. 無菌充填機の要求仕様(清涼飲料水・ミネラルウォーター/PET 500mL~2L)
水は栄養が乏しく微生物リスクが比較的低い一方、香味への影響が顕在化しやすい製品である。要求仕様は「無菌保証の過不足を避け、味・におい・溶存酸素の健全性を守る」ことを核に最適化する。適用前提と設計コンセプトを提示する。
3–1. 容器・キャップ滅菌方式の最適化
表2.に方式比較(PETボトル水向け)を示す。
表2. 方式比較(PETボトル水向け)
| 項目 | H₂O₂気化噴霧 | EB電子 (内外照射) |
ウルトラクリーン (無薬剤・UV/過熱空気) |
|---|---|---|---|
| 殺菌剤残留 | 管理要 | なし | なし |
| 香味影響 | 最小化設計が必要 | 影響なし | 影響なし |
| 適用容器 | 幅広 | 主にPET | 幅広(リスクはやや高) |
| ランニングコスト | 薬剤+乾燥 | 低(薬剤不要) | 低 |
| バリデーション負荷 | 中 | 中 | 低~中(保証レベルに依存) |
• 推奨方針:
非炭酸水:
EBまたはウルトラクリーンが高親和。薬剤残留ゼロと香味維持を優先。
キャップ滅菌:
インラインH₂O₂噴霧+乾燥またはEB/UVで内面確実処理。パーツ材質(ライナー)の薬剤耐性と残留ゼロを検証項目化。
3-2. アイソレータ・空調・衛生設計(香味保全重視)
• アイソレータ要求:
過圧無菌空気+二重HEPA、エアフロー均一化(首部・充填点周りの清浄度維持)。開口最小化・気密性、ガス置換に伴う香味影響を最
小に。
• 材質・表面:
SUS316L主体、低粗さ・クレビス最小、洗浄しやすい形状。パッキン材は抽出物・臭気リスク低を選定(EPDM/FKM等の飲料適合グレ
ード)。
• 薬剤互換:
採用時はH₂O₂/PAA耐性の材質と高速乾燥性能を要求(残留ゼロ達成時間を仕様化)。薬剤不使用設計の場合はUV・過熱空気・EBに最
適化。
• HMI/UX:
アラーム優先度・根因ナビ・残留監視ダッシュボードを標準。品質(香味・DO)に紐づくKPIをリアルタイム表示。
3-3. プロセス制御・品質指標(ミネラルウォーター特化)
• 充填精度:
ロードセル/電磁流量計のいずれかで高精度充填。500 mL~2 Lの容積差に対し同一プラットフォームでレシピ切替。
• 溶存酸素(DO):
DO上昇最小化を指標化。配管・充填針のデザインでエントレインメント抑制、必要に応じてN₂ブランクetingやヘッドスペースパージ仕様化。
• 微生物保証:
容器・キャップ滅菌は目標6D相当、充填環境はメディアフィル合格を合否基準化(薬剤不使用でも保証設定)。
• 異物・香味:
粒子・繊維・臭気のモニタリングフローをSOP化。材質・潤滑剤・洗浄剤の抽出物管理をロットトレース。
• 炭酸対応(必要時):
配管・バルブのCO₂対応、低乱流充填、ヘッドスペースガス管理、打栓直後のリーク検査。
3-4. CIP/SIP・ユーティリティ・検査
• CIP/SIP:
接液部の自動CIP/SIP、レシピ化(温度・時間・流速)。ウルトラクリーン選択時もCIP完全性と衛生設計で担保。
• 水系品質:
給水は0.2 μmフィルタ+UV等の前処理を工程外で担保。ライン内では再汚染防止を最優先(デッドレッグ最小化)。
• 検査統合:
キャップトルク・満量・外観・シール完全性のインライン検査、リーク・真空/加圧テスト(炭酸時)、ランダムサンプリングのメディ
アフィル。
3-5. スループット・機種スケーリングの目安
• ライン速度:
500 mL:
高速帯での採用を想定(例:充填ブロックで毎分数百~千本級)。
2L:
物理制約により速度は低下(例:毎分数十~数百本級)。
• モジュール構成:
リンス/滅菌/充填/打栓/検査をアイソレータ内ブロック化。サイズ別にスターウィール交換とレシピ切替で段取時間最小化。
• 拡張性:
将来の炭酸切替やボトル形状変更に対応するヘッド・スター部のクイックチェンジ化。
3-6. URSチェック項目(ミネラルウォーター向け)
• 製品条件:
炭酸の有無・水源処理・目標賞味期限、香味・DOの許容変動。
• 容器条件:
容量別(500 mL/2 L)・口径・プリフォーム仕様、ボトル強度・変形許容。
• 滅菌方式選定:
EB/H₂O₂/ウルトラクリーンのトレードオフ(残留ゼロ・香味保持・導入/運用コスト)。
• 充填仕様:
精度目標・DO目標・乱流抑制設計、炭酸時のガス管理。
• 検査・QA:
メディアフィル計画・トルク・満量・リーク、抽出物・臭気評価の合否基準。
• CIP/SIP:
レシピ・バリデーション記録・デッドレッグ設計値、起泡・気泡対策。
• HMI/データ:
アラーム階層・トレース・レシピ権限、DO・温度・微差圧のライブ監視。
• ユーティリティ:
無菌空気・圧縮空気・電力・薬剤供給(採用時)、床面積・天井高・騒音。
• 安 全:
薬剤ハンドリング(採用時)・インターロック・非常停止、樹脂粉・静電対策。
• 保 守:
段取時間・工具不要部位・予防保全、消耗品リストと在庫戦略。
4. 要求仕様提案(ミネラルウォーター/PET 500mL~2L、PCO1810、200bph、薬剤ゼロ)
まず、与件に合わせた方式選定の要点を整理する。薬剤ゼロ志向とスクリューキャップ(PCO1810)前提で、無菌保証の確度を優先するなら「EB方式」。コスト・構成の簡素化重視なら「ウルトラクリーン」。以下はEBを第1案、ウルトラクリーンを第2案としてURD(要求仕様ドラフト)を提示する。表3. にまず、与件に合わせた方式選定の要点を整理する。
表3. 与件に合わせた方式選定の要点
| 目的 | EB無菌充填 (容器・キャップ電子線滅菌) |
ウルトラクリーン (UV+過熱空気、薬剤ゼロ) |
|---|---|---|
| 無菌保証 | 高(容器・キャップに6D相当を取りやすい) | 中~高(設計・バリデーション依存) |
| 香味・DO影響 | 極小(薬剤不使用) | 極小(薬剤不使用) |
| 運用負荷 | 低~中(線源管理・遮蔽あり) | 低(シンプル) |
| 初期投資 | 中(EBユニット追加) | 低~中 |
| 段取切替 | 良(サイズレシピ化) | 良(サイズレシピ化) |
• 推奨結論:
薬剤ゼロ志向とスクリューキャップ(PCO1810)前提で、無菌保証の確度を優先するなら「EB方式」。コスト・構成の簡素化重視なら「ウルトラクリーン」。以下はEBを第1案、ウルトラクリーンを第2案としてURD(要求仕様ドラフト)を提示する。
4-1. コアアーキテクチャ(第1案:EB無菌充填)
• ライン構成:
容器供給→EB照射(内外面)→キャップEB処理→アイソレータ内充填→打栓→無菌搬送検査。
• アイソレータ:
過圧無菌空気+二重HEPA、開口最小、微差圧・漏れ率監視、ツールレス保守アクセス。
• 滅菌目標:
容器・キャップで6D相当、薬剤残留ゼロ。ボトルネック・キャップ内面の線量均一化治具を仕様化。
• 速度・段取:
200bph連続運転前提、段取切替 2~3回/日に対し、スター部クイックチェンジ+自動高さ・レシピ切替で切替 ≤20分/回を要求。
4-2. コアアーキテクチャ(第2案:ウルトラクリーン、薬剤ゼロ)
• ライン構成:
容器供給→UV+過熱空気(リンス不要設計)→アイソレータ相当のクリーン充填ゾーン→打栓→検査。
• 衛生設計:
CIP完全性・デッドレッグ最小(≤1.5D)、接液部SUS316L、パッキンは低抽出グレードEPDM/FKM。
• 保証設計:
メディアフィル合格を無菌保証の合否基準に格上げ。UVの照射ムラ対策(多面照射+反射設計)を仕様化。
• 速度・段取:
同上の段取性能を踏襲。大型2Lの取り扱い安定性(首部支持・スロッシング抑制)を明記。
4-3. 充填・品質・監視の要求指標
• 充填精度:
ロードセル/電磁流量計のいずれかで、サイズ別に±0.5~1.0%以内(500mLと2Lで共通プラットフォーム)。
• 溶存酸素(DO):
充填前後のDO上昇 ≤0.1 mg/Lを工程KPIに設定。必要に応じヘッドスペースN₂パージ仕様をオプション化。
• 香味・抽出物:
臭気スコアの官能基準と、抽出物・粒子モニタリングのSOP化。潤滑剤・洗浄剤のグレード管理をトレース。
• リーク・打栓:
トルク管理(PCO1810規格準拠)、シール完全性のインライン検査。大型容器はトルクばらつき抑制機構を要求。
• 検査統合:
満量・外観・キャップ座屈・ネック歪みの自動検査。2L容器の搬送揺れに対し検査ゲートの安定化治具を付記。
4-4. CIP/SIP・ユーティリティ・HMI
• CIP/SIP:
自動CIP/SIPレシピ(温度・時間・流速・導電率ログ)。起泡・気泡対策(低乱流戻し、ベント設計)を仕様化。
• ユーティリティ:
無菌空気・圧縮空気・電力、EB案では遮蔽・線源管理・冷却、UV案では過熱空気発生器の電力要件を明記。
• HMI/データ:
アラーム階層・根因ガイド・レシピ管理権限、DO・微差圧・線量(EB案)/照度(UV案)のライブ監視ダッシュボード。
4-5. バリデーション・試験計画
• IQ/OQ/PQ:
容器・キャップ線量マッピング(EB案)/照度・温度分布(UV案)を含めたOQ。
• メディアフィル:
初期3ロット+定期(例:四半期)で合否基準を明文化。
• 無菌性試験:
容器・キャップの生残率評価、環境プレート・空中落下菌の充填ゾーンモニタ。
• DO・香味:
DO上昇トレンド監査と官能評価計画(ブラインド評価)を品質保証に組み込み。
4-6. 具体的なURS項目(ドラフト)
• 製品定義:
非炭酸ミネラルウォーター、目標賞味期限、DO許容レンジ、香味基準。
• 容器仕様:
500 mL/2L、PCO1810、プリフォーム仕様、ボトル剛性・変形許容。
• 滅菌方式:
第1案:EB/第2案:ウルトラクリーン、いずれも薬剤ゼロ。キャップ内面処理の方式(EB/UV)。
• 充填仕様:
精度目標・DO目標・乱流抑制・ヘッドスペース管理。
• 段取・保守:
クイックチェンジ治具、切替 ≤20分/回、工具不要部位と予防保全計画。
• CIP/SIP:
レシピ・ログ・合否基準、デッドレッグ設計値、抽出物管理。
• 検査・QA:
満量・トルク・リーク・外観のインライン検査、メディアフィル計画。
• HMI/データ:
アラーム、根因ナビ、レシピ権限、KPI(DO・速度・微差圧)の表示要件。
• ユーティリティ・安全:
無菌空気・電力・遮蔽(EB案)、インターロック・非常停止・静電対策。
5. 速度クラスの目安(ミネラルウォーター/PET 500mL~2L、無菌・薬剤ゼロ前提)
ラインの速度を考えたとき、低速、中速、高速の範囲は色々あるけれど、サイズ別にまとめると、例えば500mLだと
- • 低 速:200~1,000bph
- • 中 速:6,000~24,000bph
- • 高 速:30,000~60,000bph
2Lの場合は高速でも12,000~24,000bphの範囲になるが、アセプティック処理によって少し遅くなる可能性を考慮する。ユーザーの200bphから今後スケールアップするには、例えば20~30ヘッドのロータリ充填機を導入するのが良い。
200bphは「低速・試作〜少量生産クラス」になる。中速・高速の現実的な上限は、容器サイズ・滅菌方式(EB/UV)・充填ヘッド数・搬送安定性で変動する。下表は実務で使うレンジが目安になる。
5-1. 容量別の速度レンジ比較
表4. は実務で使うレンジ目安を示す。
表4. 実務で使うレンジ目安
| クラス | 500mL(bph目安) | 2L(bph目安) | 主な前提 |
|---|---|---|---|
| 低速 | 100~1,000 | 100~800 | インデックス式/少ヘッド、パイロット〜小ロット |
| 中速 | 6,000~18,000 | 3,000~10,000 | 小〜中型ロータリ(36~60ヘッド)、安定ネックハンドリング |
| 高速 | 24,000~48,000 | 12,000~24,000 | 大型ロータリ(72~120ヘッド)、高安定供給・検査のラインバランス |
5-2. 速度を規定する主要要因
• 充填ブロック:
ヘッド数×回転数が基礎。大型容器ほど回転数を落とし、実効bphが低下。
• 滅菌ユニット:
EB/UVの照射均一性・滞留時間がボトルネック化しやすい(首部・キャップ内面の処理確度)。
• 搬送・打栓:
PCO1810のスクリューキャップは中速以上でトルク均一化と座屈抑制治具が必須。2 Lはスロッシング対策で速度制約。
• 検査・廃棄フロー:
高速化ほど満量・トルク・外観・リークのインライン検査能力が実効速度を左右。
• DO・香味維持:
高速帯では乱流抑制・ヘッドスペース管理がDO上昇を抑える鍵。設計が甘いと速度を上げても品質で頭打ち。
5-3. スケールアップの実務目安(200 bphから)
• 中速入口:
1,200~6,000bphは、少ヘッドロータリ(例:18~30ヘッド)+EBユニットの小型構成で到達可能。
• 中速中位〜上限:
6,000~18,000bphへはヘッド増設(36~60)と照射治具の最適化、スター部のクイックチェンジ強化が必要。
• 高速帯:
24,000bph以上は大型ロータリ+高能力滅菌・検査のライン一体最適が前提。2Lは設計上の上限が低いので、500mL主体時に速度を稼
ぎ、2Lは別レシピで運用。
6. インバランスとEBキャパシティ
6-1. スケールアップの実務目安(200bphから)
ロータリ式では、各ヘッドが1回転ごとにボトルを充填するので、ボトル数はヘッド数×回転数(rpm)で決まる。例えば、28ヘッド×30rpmだと840bpm→50,400bphとなり、これは少し多すぎるので、回転数を減らす必要がある。それを基に、レシピA(500mL)とレシピB(2L)のライン設計を進め、人とボトル数に合わせたEBモジュールの容量を検討し、必要な線形照射も加味する。
まず、2レシピ(500mL主体/2L混在)での各ブロックの能力を揃えたテーブルを提示します。数値は「安全側の実務目安」で、回転数や滞留時間は香味・DO・搬送安定性を崩さない範囲で設定する。
6-2. レシピA:500mL主体(ターゲット約5,700bph)
表5. レシピA:500mL主体(ターゲット約5,700bph)の設定を整理する。
表5. レシピA:500mL主体(ターゲット約5,700bph)の設定
| モジュール | ヘッド/ レーン |
回転数・ 速度 |
毎分能力 (bpm) |
毎時能力 (bph) |
滞留/照射時間 | 主要設計ポイント |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 供給・整列 | 2レーン | 120 瓶/レーン/分 | 240 | 14,400 | – | ネックハンドリング、ジャム検知 |
| EB容器照射 (内外) |
2レーン×多面照射 | 120 瓶/レーン/分 | 240 | 14,400 | 0.25~0.35 s/面×2~3面 | 首部均一線量、反射板・容器回転補助 |
| EBキャップ照射 | 2レーン | 120 瓶/レーン/分 | 240 | 14,400 | 0.2~0.3s/キャップ | ライナー材の線量耐性確認 |
| 充填(ロータリ) | 24ヘッド | 4rpm | 96 | 5,760 | 0.8~1.0s/瓶(実効) | 低乱流ノズル、DO上昇抑制 |
| 打栓(ロータリ) | 24ヘッド | 4rpm | 96 | 5,760 | 0.6~0.8s/瓶 | PCO1810トルク均一化 |
| インライン検査 | 1レーン | 100~120bpm 処理 | 96–120 | 5,760~7,200 | – | 満量・トルク・外観・リーク |
| 段取・高さ調整 | 共通治具 | 自動高さ+クイックチェンジ | – | – | ≤20min/回 | スター・ガイド共通化 |
6-3. レシピB:2L混在(ターゲット約2,900~3,000bph)
表6. レシピB:2L混在(ターゲット約2,900~3,000bph)の設定を整理する。
表6. レシピB:2L混在(ターゲット約2,900~3,000bph)の設定
| モジュール | ヘッド/ レーン |
回転数・ 速度 |
毎分能力 (bpm) |
毎時能力 (bph) |
滞留/照射時間 | 主要設計ポイント |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 供給・整列 | 1レーン (大型) |
60~80瓶/分 | 60~80 | 3,600~4,800 | – | 首部支持強化、揺れ抑制 |
| EB容器照射 (内外) |
1レーン×多面照射 | 60~80瓶/分 | 60~80 | 3,600~4,800 | 0.35–0.45 s/面×2–3面 | 面線量の確保、底部影対策 |
| EBキャップ照射 | 1レーン | 60~80キャップ/分 | 60~80 | 3,600~4,800 | 0.25–0.35 s/キャップ | 大径キャップ治具 |
| 充填(ロータリ) | 24ヘッド | 2rpm | 48 | 2,880 | 1.2–1.6 s/瓶(実効) | スロッシング抑制、低乱流 |
| 打栓(ロータリ) | 24ヘッド | 2rpm | 48 | 2,880 | 0.8–1.0 s/瓶 | トルクばらつき抑制 |
| インライン検査 | 1レーン | 50~70bpm 処理 | 48~70 | 2,880~4,200 | – | 満量・トルク・外観・変形 |
| 段取・高さ調整 | 共通治具 | 自動高さ+クイックチェンジ | – | – | ≤20min/回 | ネック・ベースガイド切替 |
6-4. 能力突合の要点と式
• 充填能力の基礎式:
bph = ヘッド数 × 回転速度〔rpm〕× 60
• 突合方針:
① EB照射能力は充填能力を常に上回る設定(余裕係数 ≈ 2~3)。瓶・キャップの線量均一化を優先し、機械速度ではなく照射品質で
上限を決める。
② 検査能力は充填能力+10~20 %の余裕を付け、廃棄分や小停止の吸収に使う。
③ 500mL主体時は充填がボトルネック、2L混在時は搬送安定性と充填がボトルネック。EBは余裕を確保し、品質KPIで制御。
6-5. 運用・品質KPI(両レシピ共通)
• DO管理:
充填前後差 ≤0.1 mg/Lを継続監視。
• トルク管理:
PCO1810規格範囲でばらつきCVを低減。
• メディアフィル:
立上げ時と定期で合格基準を維持。
• 段 取:
2~3回/日の切替を≤20分/回で安定運用。
7. 週次ライン計画と能力目標(500mL主体・2L混在、EB滅菌・薬剤ゼロ)
2Lを週2日、500mLを週5日とした二模式運用に最適化した「能力・検査・EB線量」設計とする。検査ゲートは500mL時のスルー制約を最小、2L時の揺れ対策を最小にする構成でまとめる。
ゲート構成は、2モードのゲートでボトルネック最小化。ミスがあった時のためにパススルーバイパスを使いながら、高スループット用の500mLを素早い画像処理で確認する。
7-1. 週次スケジュールと生産目標
表6.に週次スケジュールと生産目標を示す。
表6. 週次スケジュールと生産目標
| 項目 | 500mL運用(5日) | 2L運用(2日) | 備考 |
|---|---|---|---|
| 日次ターゲット | 約5,700bph (前提:24ヘッド・4rpm) |
約2,900~3,000bph(前提:24ヘッド・2rpm) | レシピA/Bを前回提示のバランスで適用 |
| 1日稼働時間 | 8h/日(例) | 8h/日(例) | 実働は計画に応じ調整 |
| 週次総量目安 | 約228,000本 (500mL) |
約48,000~60,000本 (2L) |
段取2~3回/日、切替≤20分/回 |
| 段取計画 | レシピA固定 (サイズ内切替) |
レシピB固定 (サイズ内切替) |
異容量切替は週跨ぎまたは日単位で集約 |
• ライン方針:
500mLで速度を稼ぎ、2Lは安定性優先。週次目標は検査余裕10~20%込みで設定し、短停止を吸収して達成率を高まる。
7-2. EB線量設計(PP/PEキャップ・ライナー耐性を踏まえた初期値)
• 線量値(初期試験値):
表面実効5~8kGyを第一候補。ライナーの材質差(PP/PE)に合わせて上下限を微調整し、十分な殺菌効果と材料劣化の両立を
確認する。
• 温度管理:
照射時の部品温度 < 40 ℃を上限目安。発熱抑制のため、短パルス照射+インターバル搬送で温度上昇を制御。
• 均一化設計:
キャップ内面・ネックスレッド部への多面照射+反射板最適化。影領域を最小化する治具を仕様化。
• 材料評価(OQ/PQに組込み):
① PP/PEの機械物性:
ねじ込みトルク・シール保持・寸法安定性の前後比較。
② 化学安定性:
臭気・抽出物試験(官能+GC/MS簡易スクリーニング)。
③ 耐 久:
加速劣化試験(照射×繰返し)でトルクドリフト・割れの有無を確認。
• 均一化設計:
キャップ内面・ネックスレッド部への多面照射+反射板最適化。影領域を最小化する治具を仕様化。
• 受入基準例:
① トルクの平均値変動 ≤ ±5%/CV ≤ 10%
② リーク率の増加なし(基準同等)
③ 官能臭気スコアに差無し(ブラインド評価)
④ DO上昇への影響無し(前後差 ≤ 0.1 mg/L)
実装時は、線量マップ(内面・外面・スレッド部)で最小線量と最大線量の比を管理し、材料耐性の安全側に収めます。
7-3. 検査ゲート構成(500mL高速のスルー最小化/2L揺れ対策最小化)
【500mL(スルー制約最小)】
• 検査アーキテクチャ:
二段ゲート(一次:高速外観・満量/二次:抜取リーク)+バイパスレーン。
• 撮 像:
エリアカメラ×3(360°近似)と同軸+リング照明で短露光化。
• 満量計測:
ロードセルまたはX線質量換算で1次判定、外観はAIフィルタで誤検知低減。
• 能 力:
検査処理能力 ≧ 充填能力×1.2(例:5,760bphに対し≥6,900 bph)。
• 運 用:
軽微アラームは二次ゲートのみ停止し、一次ゲートはバイパス継続でライン速度を維持。
7-4. レシピ別ラインバランス(再掲・検査余裕突合付き)
表7.にレシピ別ラインバランス(再掲・検査余裕突合付き)を整理して示す。
表7. レシピ別ラインバランス(再掲・検査余裕突合付き)
| ブロック | 500mL(bph) | 2L(bph) | 設計余裕・運用ポイント |
|---|---|---|---|
| 供給・整列 | 14,400 | 3,600~4,800 | 供給>充填で常に余裕 |
| EB容器照射 | 14,400 | 3,600~4,800 | 充填の2~3倍能力で線量品質優先 |
| EBキャップ照射 | 14,400 | 3,600~4,800 | ライナー材質別に線量最適化 |
| 充 填 | 5,760 | 2,880 | ラインのボトルネック(品質で上限設定) |
| 打栓 | 5,760 | 2,880 | トルク均一化・座屈抑制 |
| 検査(一次) | ≥6,900 | ≥3,600 ~ 4,200 | 充填×1.2の余裕で短停止吸収 |
| 検査(二次/抜取) | 500~1,000 | 300~500 | 不良深掘り+校正・リーク |
7-5. 実務チェック項目(導入前確認)
• 比率の固定化:
週2日(2L)・週5日(500mL)の順番固定で段取ロスを最小化。
• ライナー材質確認:
PP/PEのグレード(添加剤・顔料)を取得し、線量耐性のプリクオリフィケーションを実施。
• 検査ゲート試験:
500mLの高速スルー試験(バイパス連動)、2 Lの揺れ位相マップを作成。
• KPI連:
DO・トルクCV・一次検査通過率をHMIのダッシュボードに常時表示。
8. 週次ライン計画の確定更新(100時間/週、短縮日適用、EB・検査・材料)
短縮日の適用、週次生産量レンジ、検査運用、EB線量と材料適合の最終整理を行いました。実務で使える数字と運用ルールだけを明記する。
8-1. 週次スケジュールと生産量レンジ(短縮日10–12時間)
• 時間配分(合計100時間/週):
① 500mL:
4日×16h + 1日×10~12h = 74~76h
② 2mL:
2日×13~12h = 26~24h
• 週次生産量(能力値で算出):
① 500mL:
5,760bph × 74~76h = 426,240~437,760
② 2mL:
2,880bph × 26~24h = 74,880~69,120
【合 計】501,120~506,880 本/週
• 運用意図:
500mLで速度を稼ぎ、2Lは安定性重視。短縮日は500mL側で柔軟に設定してOKである。
8-2. 検査の合否閾値と運用(スルー最小・揺れ最小)
• 満 量:
① ロードセル(重量)/容量制御
② 合 否:
±0.5~1.0%の運用レンジ、外れ値は二次ゲートで精査。
• 外 観:
画像処理(AIフィルタ併用)
① 500mL:
二段ゲート+バイパスでスルー制約最小化。
② 2mL:
広視野撮像+高スタンドオフ照明、首部支持でブレ低減。
• リーク:
装置標準の試験圧・保持時間で実施、合否はリークなし。
① 1.0~1.5 N·m(PCO1810)
② ばらつき管理:
CV ≤ 10%を合否に追加し、均一性を担保。
8-3. EB線量と材料適合(PP/PE、食品衛生法・ポジリス適合、ネガティブリスト準拠)
• キャップ材質:
PP/PE(食品衛生法・ポジティブリスト承認グレード、ネガティブリスト使用可能範囲内)。
• 初期線量:
表面実効 5 ~ 8 kGyで線量マップを作成し、内面・スレッド・ライナーの最小線量を保証。
• 温度管理:
< 40 ℃を上限目安(短パルス+インターバル搬送)。
• OQ/PQ項目:
① 機 械:
トルク平均±5%以内・CV ≤ 10%、シール保持・寸法安定。
② 化 学:
臭気・抽出物差なし(官能+簡易GC/MS)。
③ 耐 久:
照射×打栓繰返しで割れ・ドリフトなし。
8-4. CIP/SIP・休止・清掃(100時間枠内に収める編成)
• CIP/SIP:
週4~6時間の枠(例:日次0.5–1h+週末2h)。
• 段取時サニタイズ:
外面クイック清掃 10~15分を工程票化。
• ログ:
温度・時間・流速・導電率の自動記録を合否と紐づけ。
8-5. 最終確認
• 短縮日:
500mLの1日を10 ~ 12 hで適宜運用(確定)。
• リーク試験:
装置標準パラメータで実施(確定)。
• 材料情報:
ネガティ・顔料(確定)。
9. 最後に
無菌充填機の要求仕様は、製品特性・容器材質・運用速度・無菌保証方式に応じて最適化される。ライン構築はEBや紫外線殺菌、薬剤ゼロ設計など、品質・安全・効率のバランスが重要である。検査・段取・CIP/SIP・週次計画まで一体で設計することで、安定運用と高品質を両立できる。
スケールアップ時は、充填能力だけでなく滅菌・検査・搬送・段取のバランスが重要になる。容器サイズや製品特性に応じて、回転数・ヘッド数・照射時間・検査処理能力を最適化し、品質KPI(DO、トルク、リーク率)を維持する必要がある。段取時間短縮やCIP/SIPの自動化も安定運用の鍵となる。
以上
【参考引用先・参考レポート】
1. 技術レポート「PETボトルおよび紙容器の飲料充填技術」
木本技術士事務所HP:https://www.kimoto-proeng.com/report/1665
2. 技術レポート「無菌充填技術」
木本技術士事務所HP:https://www.kimoto-proeng.com/report/4427
3. 技術用語解説74 「無菌充填包装 (Aseptic packaging) 」
木本技術士事務所HP:https://www.kimoto-proeng.com/keyword/4111