2025/11/17
『食品機械・機器(ロボット・IoT・効率化システム)の基礎知識』
“Food Machinery and Equipment (Hygiene and Safety Devices) Basic Knowledge”
【Ⅰ】. はじめに
食品製造工程別にラインを構成する「自動化・省人化」に関連する代表的な食品機械・機器(ロボット・IoT・効率化システム)について製品別に解説する。
1. 多関節ロボット
関節ロボットとは、複数の関節があるロボットのこと。英語では、「Articulated robot」や「Multi joint robot」と訳される。人の腕と同じような動きが可能なため、人間が手作業で行っていた単純作業を効率的に行い作業効率や生産性を向上させる効果が期待できる。また、人的ミスを減らせることで品質価値を高めることも期待できる。人間よりも多くの関節を持つことでより複雑な動きに対応できるところもメリットの一つである。軸数は4軸、5軸、6軸のものが一般的ですが、近年では7軸以上を持つ物も上市されている。原理上は6軸あれば、手先の位置と姿勢を一通りカバーできるようになるが、軸数が多いほど様々な姿勢を取ることが可能で汎用性が高くなる。
2. スカラロボット
スカラロボットとは、水平多関節ロボットとも呼ばれる複数の回転軸とアーム、先端部にZ軸を持つロボットのこと。4自由度構成からなっていて、平面3自由度の位置決めとアーム先端の上下運動による押し込み動作が可能である。構造が単純で制御がしやすいこと、高速化で高精度なのがこのロボットのメリットである。垂直多関節ロボットのように3次元的な動作はできないが、一方向からの単純作業を行う際には最適なロボットである。
3. 協働ロボット
協働ロボットとは、安全柵無しに人と同じ空間でとも共に作業を行うことができる産業用ロボットのこと。協働ロボットを導入することで人手不足を解消し、労働環境(長時間の荷物の運搬や移動といった重労働をロボットが行うことによる)を改善することができる。1.80W規制の緩和により従来、国内の規制においては、80W以上のロボットは柵で囲い人間の作業スペースから隔離することが必須となっていた。しかし、2013年12月の規制緩和により、「ロボットメーカー、ユ ーザーが国際標準化機構(ISO)の定める産業用ロボットの規格に準じた措置を講じる」等の条件を満たせば、80W以上の産業用ロボットでも人と同じ作業スペースで、働くことが可能となった。
4. パラレルリンクロボット
パラレルリンクロボットとは、複数のコンピューター制御されたリンクとジョイントで構成される3本のアームが並列に繋がれたものを使用してアーム先端部一点の動きをサポートする産業用ロボットのこと。構造はいたってシンプルで主にモーターやペアリング、リンクアームなどによって構成されています。その為メンテナンス性にも優れています。従来型の多関節ロボットに比較して高速かつ高出力で高精度な動作に優れているので主に自動化設備のピックアップ作業などで活用されていまる。
5. 単軸ロボット
単軸ロボットとは、ワークの搬送などに使用されることが多い産業用ロボットのこと。スライダとモーター、ボールネジの3要素によって構成されているのでロボットの中でもシンプルな構造である。そのためメンテナンスも比較的容易です。UFOキャッチャーなどでも使用されている。また、自由度の高さから組み合わせによって多種多様な使い方ができるのもこのロボットの特徴である。似ている機械としてロボシリンダがありますが、ロボシリンダはシリンダの代替品として低コストで開発されたものである。構造は相似していますが単軸ロボットの方が大きい荷物や重量物の搬送が可能で動作も早いのが特徴である。高速、高精度、高剛性が求められる作業現場でも比較的用途が広い。また、人手を介さない分、衛生的に作業ができる。このように様々な面から単軸ロボットを活用することで品質の安定化、ラインの効率化につながる。
6. ガントリーロボット
ガントリーロボットとは、直交ロボットとも呼ばれる2軸もしくは3軸の直交するスライド軸により構成される非常にシンプルな構造の産業用ロボットのこと。製造業では射出成型機からの取り出しや組み立て、搬送工程に活用されることが多いが、ブレが少なく作業が高精度で出来る点から食品分野では繊細な食品の運搬に活用されることが多い。また、他のロボットと組み合わせることで作業を自動化できる。垂直多関節ロボットのように旋回する動きはできませんが、X-Y-Zの直線的な動きによる繊細な作業は得意である。また、高速な作業を継続的に行いたい際にも適している。
7. パレタイズロボット
パレタイズロボットとは、荷物をパレットに並べたり(パレタイズ)するパレタイザー、パレットから取り出したり(デパレタイズ)するデパレタイザーの荷積み、荷下ろしに特化したロボットのこと。このロボットを導入することで、人力で重い荷物を荷積み、荷下ろししていた作業を代わりに行う。重量物も軽々と持ち上げ移動させ、パレットに並べることができる。また、最近では原材料や製品などのワークを掴むために使うハンド先端部の性能が進化して、段ボールや紙袋などのより幅広い荷積み現場に対応できるようになってきている。
8. 自立走行搬送ロボット(AMR)
自律走行搬送ロボットとは、「AUTONOMOUS MOBILE ROBOT」の頭文字3文字を取った名称であるAMRと呼ばれるロボットでAGVにロボットを組み合わせて自律走行する搬送ロボット。自立走行搬送ロボットは入力された、あるいは自立して得られた地図データや指示で工場内を自由に動くことができる。また、走行中は人や障害物を感知し避けながら設定された目的地へ向かう。このロボットを導入することで作業者の移動距離を0に近づけることが可能になる。作業員の歩行削減は作業時間の削減につながる。その他にも作業人員の削減の面でも効果がある。移動距離が減ることでそこに割り当てる人員を減らすことも可能である。
9. ロボットハンド
ロボットハンドとは、「ハンドエフェクタ」とも呼ばれるロボットアームの先端に取り付けて作業を行う機械要素である。ロボットハンドの他にも、グリッパ、ハンド、チャックなどと呼ばれることもある。ものを掴む、吸着する、ねじを回す、組み立てるなどの用途で多く使われる。近年では、触ったときの感覚を電気信号に変換する触覚センサー搭載のロボットハンドも登場している。 野菜や果物などの、個々で柔らかさの異なるものも掴めるようになり、人の指先に近い繊細な作業も可能になってきた。
10. ロボット架台
ロボット架台とは、ロボットを搭載して固定する構造物のこと。ロボットを固定する姿勢には床置き、天吊り、棚置き、壁掛けなどがあり、また搭載するロボットの重量、ロボットの作業速度や作業内容などによって形状、構造、安全対策などの制約が異なる。特に高速で動作するロボットや可搬重量の大きい場合には強度だけではなく、揺れや撓みになどを十分考慮しなければならない。食品製造現場、工場ではロボット以外にも様々な製造設備が稼働している。ロボット本体を固定するためだけの用途ではなく外部からの振動を減衰し、ロボットに振動を伝えない役割もある。微々たる振動でもロボットに伝わると動作のズレによる不良品の発生や品質の低下、ロボット本体の故障にも繋がる可能性もある。多品種少量製造ラインに対応した移動設置可能なフレキシブルロボット架台も採用されている。
11. ロボット安全装置、安全柵
ロボット安全装置とは、ロボットの周辺で人が安全に働くために設けられた装置、機器。運転中の危険や異常を察知して作動する。また、誤操作や故障による事故の発生を予防し、安全装置の中には、異常を検知した際に自動的に作動し停止するもの、操作者が異常を感じ取った際に操作するもの、あるいは不意な動作で事故が起きないようあらかじめ機械の動作を制限するもの、また複数の安全装置を組み込むものもある。これらのものを導入することでより安全性を高める。
12. センサー
センサーとは、機械が取り扱うことのできる信号に置き換える装置のこと。人間の場合、視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚の5感によって得た情報を基に行動しているが、機械も同様にセンサーから得た情報を基に制御や処理を行ってい。。センサーが情報を収集し、その情報を置き換える信号には温度、光、色、圧力、速度、加速度などさまざまなものがある。食品製造現場ではさまざまな工程で数多くのセンサーが使用されている。センサーの種類、使用用途で利用され機械を制御しているため、制御が正しく行なわれないとトラブルに繋がることになる。例えば、食品工場の接触式の温度センサーは測定対象物に接触させて、熱平衡に達したときの温度を測定する方式で熱電対、サーミスタなどがある。非接触式の温度センサーは、測定対象物の発する赤外線を感知して、その放射量から温度を測定する方式で放射温度センサーなどがある。
13. スマートグラス
スマートグラスとは、頭部に装着するメガネ型のウェアラブルデバイスで、スマートフォンと連携して使用できるデバイス。内蔵されたマイクやセンサー、カメラを通じて、リアルタイムで情報を取得し、拡張現実(AR)技術により、実際に見える視界にガイドや指示を重ねて表示する。これにより、ハンズフリーで操作が可能で、音声指示や再生機能、内蔵スピーカーを利用して、効率的に情報を処理できる点が大きな特長である。スマートグラスは、ビジネスシーンでも注目を集めており、リアルタイムでのデータ入力や作業指示を視覚的に行うことができる。また、特定のOSやパソコンと連携して使用できる製品も多く、拡張現実を活用したアプリケーションを利用することで、作業効率が飛躍的に向上する。レンズの性能や音声機能、スピーカーの品質も重要なチェックポイントで多機能な製品が数多く上市している。
14. 食品工場見える化(システム)
食品工場や製造現場では、情報の共有が非常に重要となります。広い製造現場の中で対面対話のみでの情報のやり取りでは非効率となってしまう。様々な項目を見える化(可視化)することによって整理された情報をタイムリーに取得することができるシステムが「見える化」である。食品業界に限らず、工場や製造現場ではあらかじめ設定されたQCDに沿って生産活動を行う。QはQuality(品質)、CはCost(コスト)、DはDelivery(納期)であり、その全てを達成する必要がある。食品工場に「見える化」システムを導入して、生産進捗状況、ロス率歩留まり、出荷実績、在庫状況などの様々な情報が数値化、可視化された環境を構築することで、情報取得の手間を省き、見えない不安が解消します。適正在庫、歩留まり率の向上、生産性の向上など課題も見えやすくなるため改善活動にも効果的である。
【Ⅱ】. 最後に
食品機械・機器について工程ごとに導入する基礎知識として「加工・製造装置」、「充填・包装装置」、「検査・検品装置」および「ロボット・IoT・効率化システム」の“基本の基”について特徴、活用事例、長所、短所等々を解説した。
以上
【参考文献・レポート】
1. 「食品設備・機器事典」編集:食品設備・機器事典編集委員会 発行:産業調査会
2. 技術レポート「食品機械・機器(加工・製造装置)の基礎知識」木本技術士事務所HP
https://www.kimoto-proeng.com/report/4751
3. 技術レポート「食品機械・機器(充填・包装装置)の基礎知識」木本技術士事務所HP
https://www.kimoto-proeng.com/report/4765
4. 技術レポート「食品機械・機器(検査・検品装置)の基礎知識」木本技術士事務所HP
https://www.kimoto-proeng.com/report/4814