2025/12/15
◇「2025国際ロボット展(iREX2025)」視察_2025.12.03
会場: 東京ビッグサイト(東・西展示棟、アトリウム)
主催:一般社団法人
日本ロボット工業会、日刊工業新聞社
出展規模
673社・団体、3,334小間(過去最多の出展者数)
来場者数:156,110名 (4日間 速報値)
リアル展開催期間:2025年12月3日(水)〜6日(土)4日間
オンライン展開催期間:2025年11月19日(水)~
12月19日(金)31日間
開催テーマ:「ロボティクスがもたらす持続可能な社会」
東京ビッグサイト展示棟前
- 1. 視察目的:
- 三品産業(食品・医薬品・化粧品)向けに活用が可能な最新ロボット技術、事例などを展示ブースで直接確認し、導入提案検討に参考となる情報を収集。またロボット組込み技術の要素部品である遊星歯車などの最新技術を視察した。
- 2. 全般的な展示内容:
- 人手不足や技術伝承など産業界が抱える構造的な課題の解決に加え、AI(人工知能)やヒューマノイド、デジタル変革(DX)技術が目覚ましく進展する中、会場ではそれらを活用した多数のロボットやシステムが展示されていた。
3. 主な展示トレンド:
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① AI・協働ロボット:
製造業の人手不足解消やDX推進を背景に、AI搭載型の協働ロボットが多数出展。 -
② ヒューマノイドロボット:
過去最多の出展数。川崎重工の四足歩行ロボット「CORLEO」が注目を集め、産業用途だけでなくレジャー分野での展開も示唆。 -
③ フィジカルAI・基盤モデル:
世界的トレンドである「Vision-Language-Action(VLA)モデル」やロボット基盤モデルは中国企業が積極的に展示、日本企業は既存技術の完成度を強調。 -
④ スマート農業・物流:
農林水産省がスマート農業をテーマに出展、物流ロボットや部品供給装置ゾーンも併設され、製造業以外の分野への広がりを示す。
- 4. 三品産業・スマート農業向けに活用が可能な最新ロボット技術、事例
- 本展示会では、三品産業(食品・医薬品・化粧品)に直結するソリューションが各社から披露された。三井化学×豆蔵はAIと材料技術を融合した新しい自動化基盤、セイコーエプソンは小型精密ロボットによる省スペース化、SMCは衛生対応の空気圧機器、デンソーウェーブは高速・高精度の搬送・検査、川崎重工は外観検査や遠隔操作、安川電機は粉体計量や医療器材仕分けなど多彩な応用を提示していた。
【代表的なメーカーおよび注目製品】
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① 三井化学株式会社と株式会社豆蔵が共同開発:
https://www.mamezou.com/
食品盛り付けロボット「美膳(びぜん)」
「美膳」は三井化学と豆蔵が共同開発した食品盛り付けロボットで、本展示会で初公開された。最大の特徴は人手作業と同等の生産性(2,000食/時)を実現し、多品種生産に柔軟対応できる点にある。
写真Ⅰ. 食品盛り付けロボット「美膳(びぜん)」
「美膳」は単なる盛り付け自動化ではなく、人手不足・多品種生産・安全性という中食業界の三大課題を同時に解決するロボット。豆蔵のAI制御と三井化学の樹脂技術の融合により、現場適用性と汎用性を兼ね備えた次世代ソリューションとして注目した。
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② セイコーエプソン株式会社:
https://corporate.epson/ja/
食品・飲料向け新型天吊り高速搬送ロボット「RS6」
セイコーエプソンがデモ展示した「RS6」は、食品・飲料工場の省スペース化と高速搬送を両立する新型天吊りロボット。従来の床置き型スカラロボットでは難しかった「ライン上空の有効活用」と「高速タクト搬送」を可能にし、食品業界の人手不足・衛生管理・多品種対応に応えるソリューションとして注目した。
RS6は、食品・飲料工場の自動化における「省スペース・高速・衛生」の課題を同時に解決する新型搬送ロボット。エプソンの精密制御技術と天吊り構造の融合により、食品業界のスマートファクトリー化を加速させる可能性を持っている。
写真2. 食品・飲料向け新型天吊り高速搬送ロボット「「RS6」
RS6は、食品・飲料工場の自動化における「省スペース・高速・衛生」の課題を同時に解決する新型搬送ロボット。エプソンの精密制御技術と天吊り構造の融合により、食品業界のスマートファクトリー化を加速させる可能性を持っている。
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③ SMC株式会社:
https://www.smcworld.com
「食品搬送デモンストレーシヨンとベルヌーイグリッパ」
SMCが披露した「食品搬送デモンストレーシヨンとベルヌーイグリッパ」は、非接触で食品を搬送できる革新的なハンド技術を中心にした展示。食品の衛生性確保と多様な形状への対応を両立し、食品工場の自動化における新しい可能性を示している。
写真3-1. 「弾性(ゴムシート)フィンガー」による食品搬送デモンストレーシヨン
写真3-2. 「ベルヌーイグリッパ」による食品搬送デモ
SMCの「食品搬送デモとベルヌーイグリッパ」は、食品工場の衛生性・柔軟性・省エネ性を同時に解決する新しい自動化技術。非接触で繊細な食品を扱える点は、従来の吸着パッドや機械的グリッパでは難しかった領域をカバーし、食品業界のスマートファクトリー化を一歩進める展示でした。
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④ デンソーウェーブ株式会社:
https://www.denso-wave.com/
・房取りミニトマト全自動収穫ロボット「Artemy」
・「医薬品無菌充填ソリューション」
デンソーウェーブは、農業分野の「房取りミニトマト全自動収穫ロボット Artemy」と、医薬品分野の「無菌充填ソリューション」を同時に展示し、食と医療という社会課題に直結する領域でのロボット活用を強調していた。両者は「農場の工場化」と「ラボ・製薬工程の自動化」という異なる分野であるが、デンソーの精密制御技術を応用した事例としてデモ展示していた。
写真4-1. 房取りミニトマト全自動収穫ロボット「Artemy」
写真4-2. 「医薬品無菌充填ソリューション」
デンソーウェーブは「農業の工業化」と「医薬品製造の自動化」という異なる領域で、自動化技術を応用した精密ロボット制御の社会実装を提示していた。Artemyは食の持続可能性を、無菌充填ソリューションは医療安全性を担保するもので、両者は「社会課題解決型ロボット」の代表例といる。
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⑤ 川崎重工業株式会社:
https://kawasakirobotics.com/jp/
医薬ロボットMCシリーズ「MC006V」
川崎重工業は、医薬・医療向けロボットMCシリーズの最新機種「MC006V」をデモ展示していた。これは製薬現場のクリーン環境対応と耐薬品性を強化した6軸垂直多関節ロボットで、バイアル充填や滅菌工程、包装工程などの自動化に大きなインパクトを与える製品である。
写真5. 医薬ロボットMCシリーズ「MC006V」
川崎重工のMC006Vは、製薬現場のクリーン環境・耐薬品性・生産性向上を同時に実現する医薬ロボット。医薬品製造の自動化を加速させるだけでなく、他の高衛生分野への展開も期待される次世代ソリューションといえる。
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⑥ 株式会社安川電機:
https://www.yaskawa.co.jp/
「AIロボティクスソリ―ション(自律ロボット: MOTOMAN NEXTシリーズ)」
安川電機が2025国際ロボット展で披露した「AIロボティクスソリューション(MOTOMAN NEXTシリーズ)」は、食品工場の多品種・変量生産に対応する自律型ロボットとして注目した。従来のティーチング依存型ロボットでは難しかった「環境変化への即応」「未自動化領域の自動化」を可能にし、食品業界の人手不足・衛生管理・柔軟性の課題を同時に解決する狙いがある。
写真6. 自律ロボット: MOTOMAN NEXTシリーズ
安川電機の「MOTOMAN NEXTシリーズ」は、食品工場の多品種・変量生産を自律的に支える次世代ロボット。人手不足や衛生管理の課題を解決しつつ、柔軟なライン設計を可能にする点で、食品業界のスマートファクトリー化を加速させる存在といえる。
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⑦ 株式会社日本ピスコ:
https://www.pisco.co.jp/
ロボットエンドエフェクタ用「真空パットを用いたたまご吸着ハンド」
日本ピスコは、ロボットエンドエフェクタ用の「真空パッドたまご用タイプ」を用いた卵吸着ハンドをデモ展示していた。これは、壊れやすい鶏卵を安定して搬送できる特殊真空パッド技術で、食品分野や自動化ラインにおける新しい応用可能性を示したもので。
写真7. 「真空パッドたまご用タイプ」吸着ハンド
日本ピスコの「真空パッドたまご用タイプ」は、壊れやすい卵を安定搬送できる革新的エンドエフェクタ技術であり、食品分野の自動化における新しい可能性を示しました。国際ロボット展では、食品工場の省人化・品質保証に直結するソリューションとして注目した。
総括ポイント:
- 三井化学×豆蔵: 盛り付け工程+AIで新基盤
- セイコーエプソン: 空間を活かすロボット搬送
- SMC: 食品搬送+ベルヌーイグリッパ
- デンソーウェーブ: 高速搬送・検査+トレーサビリティ
- 川崎重工: 医薬・医療+検査・遠隔操作
- 安川電機: 粉体計量から包装まで総合自動化
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日本ピスコ:柔軟な真空パッド設計+安定した吸着搬送
三品産業における課題(衛生・品質・効率)に対し、各社が異なる強みでソリューションを展示していた。
- 5. ロボット組込み技術・要素部品「歯車=ロボット関節」の注目した最新技術
- 本展示会では、各社が独自の減速機・歯車技術を披露していた。ナブテスコは遊星歯車を基盤とした高精度減速機、ハーモニック・ドライブは遊星歯車機構、ニデックドライブテクノロジーは多彩な精密減速機群(FLEXWAVEなど)、ニッセイは球状歯車機構を参考出展するなど、それぞれ異なるアプローチでロボットの関節や駆動系を支えている。
【代表的なメーカーおよび注目製品】
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① ナブテスコ株式会社:
https://precision.nabtesco.com/ja/
「垂直多関節ロボット向けの超大型RV」「精密減速機RVシリーズ」
ナブテスコは、産業用ロボットの関節駆動に不可欠な「精密減速機RV™シリーズ」を全面的に展示し、特に「自動車を持ち上げる垂直多関節ロボット向け超大型RV」と「幅広いラインアップのRVシリーズ」をデモで強調していた。
写真8-1. 「垂直多関節ロボット向けの超大型RV」
写真8-2. 「精密減速機RVシリーズ」
ナブテスコの「超大型RV」と「RVシリーズ」は、産業用ロボットの性能を根本から支える基幹技術であり、iREX2025ではその適用範囲の広さと社会的可能性を強調する展示であった。特に超大型RVは、重量物搬送や新領域への拡張を可能にする「次世代ロボティクスの鍵」と位置づけられていた。
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② 株式会社ハーモニック・ドライブ・システム:
https://www.hds.co.jp/
「ハーモニックプラネタリシリーズ」
ハーモニック・ドライブ・システムズは、自社の基幹技術「ハーモニックドライブ」に加え、高精度遊星減速機「ハーモニックプラネタリシリーズ」を展示し、ロボット関節や精密モーション制御分野における拡張性と信頼性を強調していた。
写真9. 「ハーモニックプラネタリシリーズ」
ハーモニック・ドライブ・システムズの「ハーモニックプラネタリシリーズ」は、従来のハーモニックドライブの精密性に遊星機構の高トルク伝達を組み合わせた次世代減速機。本展示会では、ロボット関節からFA機器まで幅広い応用を示し、競合との差別化と新市場開拓の可能性を強調していた。
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③ ニデックドライブテクノロジー株式会社:
https://www.nidec.com/jp/nidec-drivetechnology/
「内接式遊星歯車減速機 KINEX」
ニデックドライブテクノロジーは、内接式遊星歯車減速機「KINEX」を目玉展示として披露していた。これは大型ロボットや高負荷用途に対応する新世代精密減速機で、高精度・高剛性・低騒音・省スペース設計を同時に実現している点が大きな特徴である。
写真10. 「内接式遊星歯車減速機 KINEX」
「KINEX」は、ニデックドライブテクノロジーがロボット用減速機市場で存在感を高めるための戦略的製品であり、大型・高負荷用途における電動化の切り札として位置づけられている。国際ロボット展では、FLEXWAVEやSmart-FLEXWAVEと組み合わせた「全軸ソリューション」として提示され、競合との差別化と新市場開拓の可能性を強調していた。
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④ 株式会社ニッセイ:
https://www.nissei-gtr.co.jp/
「球状歯車機構(参考出展)」 https://www.nissei-gtr.co.jp/gear/collaboration/
ニッセイは「球状歯車機構」を参考出展し、従来の減速機では不可能だった3自由度同時回転を可能にする革新的な歯車機構をデモ展示していた。これはロボット関節や多軸制御分野に大きなインパクトを与える技術で、産業応用に向けた実用化が進められている。
写真11. 「球状歯車機構(参考出展)」
ニッセイが展示した「球状歯車機構」は、3自由度同時回転を可能にする革新的な減速機構であり、ロボット関節設計の常識を覆すポテンシャルを持っている。現在は研究・実用化段階であるが、量産化が進めば医療・介護・宇宙など幅広い分野で新しいロボットの形を生み出す可能性がある。
総括ポイント:
- ナブテスコ: 遊星歯車ベースで高剛性・高耐久
- ハーモニック・ドライブ: 遊星歯車と波動歯車機構で超高精度・軽量
- ニデック: 多彩な減速機+センサ統合で安全性強化
- ニッセイ: 球状歯車機構で新しい関節自由度を提案
各社は「歯車機構」という共通テーマを持ちながら、精度・耐久・安全・自由度といった異なる方向性でロボット技術を進化させている。
6. 今後の展望
全般:
- ① 製造業DXの加速: AI協働ロボットの普及により、現場の自動化がさらに進展する。
- ② 国際競争力: 中国勢の積極的な基盤モデル展示に対し、日本企業は新たなイノベーション戦略 が求められる。
- ③ 産業横断的応用: 農業・物流・サービス分野への展開が加速し、ロボット産業の裾野が広がる。
食品分野:
- ① 中食・惣菜工場への普及: 弁当・惣菜の盛り付け工程で即効性あり。人手不足解消に直結する。
- ② 食品安全規格との統合: ISOやHACCP基準に適合する設計が必須である。
- ③ 拡張応用: 盛り付け以外にも、検品・包装・搬送工程への展開が期待されている。
- ④ 競争軸: 日本企業は「食品安全+完成度」、海外勢は「量産+低コスト」で競争が激化する。
以上
【参考引用先・参考レポート】
1. 2025 国際ロボット展(iREX2025)HP:
https://irex.nikkan.co.jp/
2. 展示会レポート「2022 国際ロボット展(iREX2022)」木本技術士事務所
HP:
https://www.kimoto-proeng.com/exhibition/2346