『次世代技術:パルス電界と温和加熱を組み合わせた牛乳殺菌の検討』

  • HOME
  • 技術レポート
  • 『次世代技術:パルス電界と温和加熱を組み合わせた牛乳殺菌の検討』

【技術レポート】

2026.09.07

『次世代技術:パルス電界と温和加熱を組み合わせた牛乳殺菌の検討』
“Next-Generation Technology: Investigation of Milk Pasteurization Combining Pulsed Electric Fields and Mild Heating”

1.はじめに

 牛乳の殺菌技術を検討する際には、微生物の制御だけでなく、風味、成分、保存性、さらには製造工程全体の衛生管理まで含めて考える必要がある。近年は、加熱による品質変化をできるだけ抑えつつ安全性を確保するために、非加熱または低加熱の技術が注目されている。その中でパルス電界は、短時間の高電圧パルスを食品に印加して微生物を不活化する技術であり、牛乳のような液状食品にも応用可能性が示されている。一方で、牛乳は脂肪やたんぱく質を多く含むため、電界の作用が均一になりにくく、処理条件によっては十分な殺菌効果が得られない場合がある。したがって、パルス電界を牛乳の殺菌技術として評価するには、単独での有効性だけでなく、温和加熱や衛生管理との組み合わせを含めた総合的な観点が必要である。

2.非加熱殺菌技術パルス電界の可能性

 牛乳は栄養価が高い反面、微生物の増殖に適した性質を持つため、安全性を確保するための殺菌工程が不可欠である。従来は加熱殺菌が主流であり、一定の温度と時間を与えることで安定した微生物制御を実現してきた。しかし、加熱処理には風味の変化、たんぱく質の変性、色調の変化など、品質面への影響が避けられないという課題がある。このため、より低い熱負荷で安全性を確保できる技術が求められてきた。
 パルス電界(PEF)はその候補の一つであり、加熱による品質劣化を抑えながら微生物を不活化できる点に特徴がある。特に液状食品では電界を比較的均一に作用させやすく、理論上は高い有効性が期待される。ただし、牛乳は水分だけでなく脂肪球、たんぱく質、ミネラルなどを含む複雑な系であるため、電界の影響が一定せず、菌種によっても不活化のされ方が異なる。したがって、パルス電界を牛乳に適用する場合には、殺菌効果の有無だけでなく、安全性をどのように確保するかを工程全体で考える必要がある。図1にパルス電界のイメージを示す。

図1.パルス電界(PEF)のイメージ

図1.パルス電界(PEF)のイメージ

  図2に加熱殺菌とパルス電界の安全性比較を示す。

図2.加熱殺菌とパルス電界の安全性比較

図2.加熱殺菌とパルス電界の安全性比較

3.パルス電界の役割

 パルス電界は、牛乳の品質をできるだけ保ちながら微生物数を減らすための補助的な殺菌技術である。加熱に比べて熱による負荷が小さいため、風味や口当たり、成分組成への影響を抑えやすいという利点がある。特に、熱に敏感な品質特性を重視する場合には、非加熱技術としての価値が高い。
 しかし、牛乳におけるパルス電界は万能ではない。第一に、脂肪やたんぱく質が微生物の周囲環境に影響し、電界によるダメージを受けにくくする場合がある。第二に、処理装置内での流れ方や電界の分布により、処理ムラが発生しうる。第三に、芽胞形成菌のような耐性の高い微生物に対しては、単独では十分な不活化が難しいことがある。したがって、パルス電界は主殺菌法として完結させるよりも、ほかの工程と組み合わせて使う補助技術として捉えるのが現実的である。

4.温和加熱の役割

 温和加熱は、パルス電界だけでは不足しやすい殺菌効果を補う安全性の補完である。加熱殺菌ほど高い温度条件を用いないため、品質変化を抑えながら安全域を広げることができる。すなわち、パルス電界で品質保持を図りつつ、温和加熱で微生物制御の確実性を高める構成である。
 温和加熱の条件は一律に定めることはできないが、一般には60度台から70度前後の範囲で検討されることが多い。温度が高いほど短時間で効果を得やすい一方、風味の変化やたんぱく質の変性が起こりやすくなるため、目的に応じた調整が必要である。パルス電界と併用する場合には、加熱単独で完全な殺菌を狙うよりも、比較的穏やかな条件で不足分を補う設計が適している。つまり、温和加熱は主役の殺菌法ではなく、安全性の底上げを担う位置づけである。
 この考え方は、品質と安全性を両立させるうえで重要である。加熱を強めすぎれば品質が低下し、逆に弱すぎれば安全性が不十分になる。その中間で、パルス電界による微生物低減効果を前提にしながら、必要最小限の加熱負荷を与えることで、全体として実用的な条件を見いだしやすくなる。

5.衛生管理の役割

 衛生管理は、殺菌後に菌が再び混入するのを防ぐ再汚染対策である。食品安全においては、殺菌工程だけでなく、その後の工程も含めて安全を確保する必要がある。いかに高い殺菌効果を得ても、配管、タンク、充填機、容器などが不衛生であれば、製品は再汚染されるおそれがある。
 牛乳の製造では、原料受け入れから殺菌、充填、冷蔵、出荷までの各段階で衛生管理が求められる。特に、殺菌後の充填工程は重要であり、清潔な設備、適切な洗浄、作業環境の管理が欠かせない。また、保存中の温度管理も再増殖防止の観点から重要である。仮に少量の生残菌があったとしても、低温で管理されていれば増殖を抑えやすい。したがって、衛生管理は補助的な要素ではなく、殺菌効果を最後まで成立させる基盤である。

6.3要素の組み合わせによる実用性

パルス電界、温和加熱、衛生管理を組み合わせる考え方は、それぞれの弱点を補い合う構成である。パルス電界は品質保持に強みがあるが、殺菌の安定性に課題がある。温和加熱は安全性を補うが、強くしすぎると品質に影響する。衛生管理は再汚染を防ぐが、それ自体は微生物を減らす工程ではない。したがって、これら3つを役割分担として組み合わせることにより、単独技術では得にくいバランスを実現できる。

図3. 3要素の組み合わせによる実用性

図3. 3要素の組み合わせによる実用性

 この組み合わせは、牛乳のように安全性と品質の両立が強く求められる食品に適している。特に、風味を重視した商品や、高付加価値を狙う製品では、過度な加熱を避けながら安全性を確保する設計が有利になる場合がある。ただし、実用化には処理装置の性能、初発菌数、保存条件、流通温度なども関係するため、単純に技術名だけで優劣を判断することはできない。

7.清涼飲料水や果汁飲料におけるパルス電界の有効性と安全性

 パルス電界は、液体の中の微生物に電気的なダメージを与えて不活化する方法。清涼飲料水や果汁飲料は比較的流動性が高く、牛乳のような高脂肪・高たんぱく系よりも電界が作用しやすい傾向がある。
そのため、栄養細胞型の細菌や酵母、カビの一部に対しては効果が期待できる。特に、加熱すると香りや色が変わりやすい飲料では、品質を保ちながら安全性を上げる手段として検討されている。
 安全性の面では、パルス電界は加熱より風味劣化を抑えやすい一方で、処理条件が不十分だと生き残りが出る可能性がある。つまり、技術としては有効でも、常に完全な安全を保証するものではない。
表1に飲料ごとの向きやすさを示す。

表1.飲料ごとの向きやすさ

飲料のタイプ 有効性の傾向 補足
清涼飲料水 高い傾向ある 水分主体で電界が通りやすく、品質変化を抑えやすい
果汁飲料 高い傾向だが条件依存である 酸性で保存性に強みがあるが、糖分や果肉の影響を考慮する
果汁入り飲料 やや条件依存である 果肉や懸濁成分が多いと処理ムラが出やすい

8.結論

 牛乳の殺菌技術としてパルス電界は、品質保持の観点から有望な非加熱技術である。しかし、牛乳は成分が複雑であり、微生物の不活化効果が一定しにくいため、単独で安全性を完結させるのは難しい。そこで、温和加熱を安全性補完として組み合わせ、さらに衛生管理によって再汚染を防ぐ構成が現実的である。
 この3要素の役割は明確である。パルス電界は補助的な殺菌技術であり、温和加熱はその不足分を補う安全性の補完であり、衛生管理は再汚染を防ぐ最後の防波堤である。したがって、パルス電界+温和加熱+衛生管理という組み合わせは、牛乳の品質を保ちながら安全性を確保するための実用的な枠組みとして評価できる。今後の検討では、単独技術の性能比較だけでなく、これらの工程を含めた全体最適の視点が重要である。
 本技術の実用化を検討するにあたっては、技術的有効性だけでなく、現行の食品衛生法体系および乳等に関する規格基準との整合性を確認する必要がある。とくに牛乳の製造方法については、現行制度上、加熱殺菌を前提とした規定が置かれており、保持式では63℃で30分間、またはこれと同等以上の殺菌効果を有する方法で加熱殺菌することが基準として示されている。このため、パルス電界のような非加熱技術を単独で適用する場合には、既存の加熱殺菌基準との関係を慎重に考えなければならない:を補足しておく。
 また、清涼飲料水や果汁飲料は、牛乳に比べてパルス電界の実用化が進めやすい食品である。理由は、液体として扱いやすいことに加えて、加熱で壊れやすい香気成分や色調を守りやすいからである。
 ただし、果汁飲料ではpHが低いものが多く、酸性によってある程度の保存性は得られるが、それでも微生物リスクがゼロになるわけではない。パルス電界はその補強として有効であり、完全な単独運用より、衛生管理や低温流通と組み合わせるほうが現実的である。

以上

【参考引用先】
1. 月刊誌 食品と開発 9月号Vol.61 2026 No.9「品質保持と安全性を両立する非加熱殺菌技術」
 P8 – P10 著者:木本晋作 発行:インフォーマ マーケッツ ジャパン(株)
2. 技術レポート「非加熱処理による食品殺菌技術の最新動向」木本技術士事務所HP
https://www.kimoto-proeng.com/report/4862
3. 技術用語解説12「非加熱殺菌(Non-heat sterilization)」木本技術士事務所HP
https://www.kimoto-proeng.com/keyword/1326
4. 「乳及び乳製品等の規格基準の改正について」平成14年 8月13日 厚生労働省HP
https://www.mhlw.go.jp/shingi/2002/07/s0717-2.html