技術用語解説85『アロマプロテクト法(Aroma Protect)』

技術用語解説85『アロマプロテクト法(Aroma Protect)』

1. はじめに

アロマプロテクト法は、大和製罐が開発した分別殺菌技術を応用した香気保持製法で、特にコーヒー飲料や機能性飲料の香り・色・機能成分を守ることを目的としている。

この技術の核心は:
 「成分ごとに最適 pH・最適条件で殺菌し、無菌環境で後混合する」という一点に集約される。

2. なぜ香りが失われるのか(従来法の課題)

 コーヒーの主要な焙煎香成分(FFA, MMBA, MMBF など)は酸性域(pH ≈ 5)で熱安定であるが、ミルクコーヒーは乳タンパク安定化のため pH 6.5〜7.0 に調整してから UHT 殺菌される。

その結果:
• pH 7.0 で UHT(140℃×30s)すると香気成分は大幅に分解
• 特に MMBF はほぼ消失
• 殺菌工程で香りが飛ぶため、後から香料添加で補う必要がある

 つまり、香りの劣化は「pH と熱のミスマッチ」が原因である。

【補足説明】
 コーヒーの主要な焙煎香成分として挙げられているFFA、MMBA、MMBFは、それぞれ異なる物質を指している可能性がある。特にFFAはコーヒーの香気成分ではなく、牛乳の遊離脂肪酸を指す場合があるため注意が必要である。コーヒーの焙煎香成分として重要なものには、*2-フルフリルチオール(FFT)*などがある。

3. アロマプロテクト法の原理

アロマプロテクト法は、次のように 成分を分けて殺菌:

第1液(香りを守りたい成分)
 • 例:コーヒー抽出液、クロロフィル含有液、アミノ酸・ビタミンなど
 • その成分に最適な pH に調整して UHT 殺菌
 • コーヒーなら pH 5.0 のまま殺菌 → 香気成分が高残存
第2液(その他の成分)
 • 例:乳成分、pH 調整剤、安定剤など
 • 乳成分は中性域で殺菌しても問題ないため pH 6.5〜7.0 で UHT

→ 無菌環境で後混合し、最終 pH に調整

これにより:
 • 香気成分の熱劣化を最小化
 • 成分間反応(褐変・異臭・沈殿)を抑制
 • 色や機能性成分の保持が可能

4. コーヒー以外への応用(機能性飲料・色素保持)

 アロマプロテクト法は香りだけでなく、色や機能性成分の保護にも応用されている。

【クロロフィルの褐変防止】
 クロロフィルは酸性でフェオフィチン化し褐変しますが、アルカリ側では安定。

そこで:
 • 第1液:クロロフィル含有液をアルカリ側で殺菌
 • 第2液:酸を含む液を別殺菌 → 後混合で最終 pH を調整

 これにより、緑色の保持が可能。

【アミノ酸・ビタミンの熱劣化抑制】
 中性域での UHT はアミノ酸の分解やビタミンの損耗を招くため、
 成分ごとに最適 pH で殺菌することで保持率が向上。

5. コーヒーアロマの高度抽出との組み合わせ

森永乳業の研究では、
  水蒸気蒸留で得たアロマ凝縮液の品質は凝縮温度(5℃、50℃、90℃で比較)で大きく変わることが報告されている。

アロマプロテクト法と組み合わせることで:
 • 高品質アロマの抽出
 • pH 最適化による香気保持
 • 無菌後混合による香りの再構築

 という “香りの完全保護チェーン” が成立させることができる。

6. 工場導入時の技術的ポイント

  実装時の重要ポイントを整理を整理すると、

• 分別殺菌ラインの設計
   ① UHT 殺菌器を2系統化
   ② 無菌ミキサー・無菌バッファタンクの設置
   ③ 無菌バルブマトリクスで交差汚染を防止
• pH 制御の精度
   ① 成分ごとに最適 pH を設定
   ② 殺菌前後で pH ドリフトが起きないよう緩衝能を設計
• 香気成分のロス対策
   ① UHT のホールドチューブ長を最適化
   ② フラッシュ蒸気の回収
   ③ 無菌混合時の溶存酸素管理(DO < 0.5 ppm など)
• バリデーション
   ① 成分別の F₀ 値ではなく 成分安定性 × 微生物リスクの両立
   ② 無菌混合部の環境モニタリング
   ③ 香気成分残存率の GC-MS 評価

7. アロマプロテクト法の産業的インパクト

表1. に従来法とアロマプロテクト法の比較を整理して示す。

表1. 従来法とアロマプロテクト法の比較

項 目 従来法 アロマプロテクト法
香気保持 低い(pH不適合) 高い(最適pH殺菌)
色保持 褐変しやすい クロロフィル保持可能
機能性成分 熱劣化大 分別殺菌で保持
製品設計自由度 低い 高い(成分ごとに条件最適化)
香料依存度 高い 低減可能

 図1.および図2.に従来法とアロマプロテクト法の工程別フローを整理して示す。

図1. 従来ミルクコーヒー(単一系UHT)の概略フロー
図1. 従来ミルクコーヒー(単一系UHT)の概略フロー
図2-1. アロマプロテクト法(分別殺菌+後混合)フロー
図2-1. アロマプロテクト法(分別殺菌+後混合)フロー
図2-2. アロマプロテクト法(混合・充填)フロー
図2-2. アロマプロテクト法(混合・充填)フロー

8. まとめ

アロマプロテクト法は:
 「成分ごとに最適条件で殺菌し、香り・色・機能を守る」高度な分別殺菌 × 無菌後混合技術であり、飲料の品質設計を根本から変えるプラットフォーム技術と言える。

以上

【参考引用先】

1. 技術コーナー「アロマプロテクト® 製法の開発」月刊誌「食品と容器」2014.VOL.55 No.4 P256 – P258:
   https://kangiken.net/seihin/seihin-pdf/5504_seihin.pdf
2. 大和製罐株式会社HP: https://www.daiwa-can.co.jp/index.html