2025/12/15
技術用語解説80『米粉(rice flour)』
1. 米粉市場の全体像
日本国内では、米粉は伝統的な和菓子用途に加え、パン・ケーキ・麺などの洋菓子・製パン・製麺分野へ用途が拡大している。農林水産省は米消費拡大の一環として米粉の普及を推進し、製粉技術の進化とともに「用途別基準」の整備や需要創出・利用促進事業(コメニ)を継続的に実施している。小麦粉や片栗粉の価格上昇が続く中で、米粉は小売価格の安定性とグルテンフリー・ヘルシー訴求によって売上が好調で、粉類における金額シェアの伸長率で最も高い伸びを示している。
2. 現在のトレンド
- (1) グルテンフリーの加速:
- グルテンフリー食材としての米粉の位置づけが確立。小麦粉代替としてパン・焼菓子・揚げ物での利用が広がり、家庭用でも調理の簡便性が支持されている。
- (2) 価格安定と代替需要:
- 小麦系粉の価格高騰に対し、米粉の平均価格は前年並み(前年度比101%)で安定。代替原料としての採用が追い風になっている。
- (3) 用途別基準と品質の可視化:
- 農水省が2017年に用途別基準(粒度、水分など)を整備。表示の統一により、メーカー・消費者の選択容易性が向上し、採用が進んだ。
- (4) 官民連携の需要創出:
- 農水省の「コメニ」によるフードサービス・食品メーカーへの提案、商品開発支援の継続。地域事例・製粉機紹介などの裾野拡大策も進行中である。
- (5) プレミアム・有機・強化米粉:
- 有機米・栄養強化の米粉製品の導入とEC販路の拡充がグローバルで進む。無添加志向、最小限加工へのニーズも上昇している。
- (6) 和菓子原料の季節性と多様化:
- 和菓子向けの白玉粉・だんご粉・上新粉・もち粉などのカテゴリが安定。季節ピーク(例:もちとり粉の12月)を持ちながら、洋菓子・製パン・麺への転用が増加している。
3. 市場規模と成長見通し
- (1) 国内市場:
- 2027年に市場規模350億円の見込み。グルテンフリー食材・小麦代替としての注目、制度整備と助成金による製造能力強化で普及が後押しされている。
- (2) 国内の売動向:
- 粉類カテゴリで米粉の金額シェアは直近6.8%だが、伸長率はカテゴリ最高の108%。小麦・片栗粉が高値の中、米粉価格は安定し、売上好調が継続である。
4. 技術・製品開発の焦点
- (1) 微粉化・機能制御:
- 製粉技術進化により粒度制御が精緻化。パン・ケーキ・麺など小麦に近い機能性・食感設計が可能になる。
- (2) 用途別基準準拠の製品設計:
- 粒度・水分・用途表示の標準化に沿った規格製品の拡充で、B2B採用のハードルが低下する。
- (3) 油吸収率低減・軽い口当たり:
- 米粉は小麦に比べ油の吸収率が低い点がヘルシー価値として訴求可能。揚げ物や焼成製品でのカロリー低減訴求に適合する。
- (4) 有機・栄養強化・無添加:
- 有機米粉、栄養強化(食物繊維・ミネラルなど)、添加物不使用などプレミアム領域の差別化が進行する。
- (5) EC・D2C強化:
- 電子商取引プラットフォームの拡大により、ブランド訴求と用途別ラインナップの可視化が容易になる。
5. 用途別の価値訴求と要件
表1. 用途別の価値訴求と要件の比較一覧
| 用途 | キー価値 訴求 |
技術要件(例) | 成功KPI(例) |
|---|---|---|---|
| 製パン | グルテンフリー、油吸収率低、軽い口当たり | 微粉化、吸水調整、酵素・天然素材併用 | ボリューム指数、歩留り、官能スコア |
| 製菓 | サク・しっとりの両立、無添加・有機 | 粒度分級、脂肪相との相性、焼成条件最適化 | 焼成ムラ、破断応力、リピート率 |
| 揚げ物 | ヘルシー(油吸収低)、クリスプ感 | 粉体改質、吸油制御、被覆性 | 油吸収率、衣剥離率、滞在油寿命 |
| 麺・ パスタ |
もっちり食感、GF訴求 | デンプン構造制御、ゲル強度、乾燥プロファイル | 伸び・切れ、茹で戻り率、食感評価 |
6. リスクと制約
- (1) コストと価格帯の課題:
- 店頭平均価格は小麦粉より高めの傾向が残るため、用途・価値訴求(油吸収率低、グルテンフリー、もっちり食感)で明確な差別化が必要である。
- (2) 供給体制の平準化:
- 季節需要(和菓子・年末)の偏りと、製粉キャパシティの地域差により、安定供給設計と在庫戦略が重要になる。
- (3) 機能性の再現性:
- 小麦グルテン特性の代替には、ブレンド技術や加工プロセス最適化、酵素・天然素材との併用などの工夫が不可欠。用途別基準に沿った粒度・水分管理が鍵になる。
- (4) 国際競争と原料入手:
- APAC主導の供給・輸出構造の中で、国内産地・銘柄の確保、有機原料の価格・認証取得負荷がボトルネックになり得る。
7. 設備・ライン構成(導入優先度)
- (1) ミキシング系:
- 攪拌レオロジー制御が可能なミキサー(可変速/温度管理)。
- (2) 焼成系:
- スチーム量の細かい制御が可能なオーブン、上火・下火の独立制御。
- (3) 成形・静置:
- 成形圧の再現性、ベンチタイム管理スペース。
- (4) 品質・包装:
- クラム解析(画像・比重)、水分活性計、保湿/バリア性の包装資材。
- (5) 補助設備(SKUによって):
- 直蒸気ユニット、グレージング装置、GF対応のアレルゲンコンタミ防止ゾーニング。
8. 今後の方向性と展開
- (1) 小麦用途の代替拡張:
- ① 製パン:高吸水・微粉化米粉+酵素・天然増粘の併用でボリューム改善。油吸収率低のヘルシー訴求と合わせて差別化
- ② ベーカリー・製菓:用途別基準に準拠したラインナップ(ケーキ用・クッキー用)でB2B採用を加速
- ③ 麺・パスタ:もっちり食感を活かし、GF麺の官能最適化。アジア料理・和麺との親和性が高い
- (2) プレミアムセグメント:
- 有機・強化・無添加米粉の拡充。ECで「用途×栄養×食感」検索に最適化した商品設計を強化する。
- (3) フードサービス連携:
- 「コメニ」連動のメニュー共同開発、トライアル導入支援、厨房オペの学習コスト低減テンプレートを提供する。
- (4) 地域ブランド創出:
- 産地・銘柄による官能差・栄養価差を見える化した地域横断プロジェクト。観光×土産×ECを束ねたコラボ展開する。
以上