技術用語解説76『節水型乾田直播 (Water-saving dry field direct seeding)』

技術用語解説76『節水型乾田直播 (Water-saving dry field direct seeding)』

 地球温暖化や気候変動の影響により主食とするコメ不足が問題となる中、節水型乾田直播(せっすいがた・かんでんちょくは)は、従来の水田栽培とは異なる「水を張らない乾いた田んぼに直接種もみをまいて育てる」革新的な水稲栽培技術で注目を集めている。

1. 特徴と仕組み

  1. (1) 育苗・田植え・代かき不要
    苗を育てて移植する工程を省略できるため、作業の省力化が可能である。
  2. (2) 乾いた田に直接播種
    播種後、苗が根づいた段階で水を入れて水田環境に移行する。
  3. (3) 水使用量の削減
    従来の湛水栽培に比べて水の使用量が大幅に減り、気候変動対策にも貢献できる。

2. メリット

  1. (1) 省力化・効率化
    機械作業がしやすく、特に大規模農地での作業効率が向上する。
  2. (2) コスト削減
    育苗施設や人件費が不要になり、経営負担を軽減できる。
  3. (3) 環境負荷の低減
    温室効果ガスの排出抑制、水資源の節約など、持続可能な農業に貢献できる。

3. 課題と留意点

  1. (1) 雑草管理が難しい
    水を張らないため、雑草が繁茂しやすく、除草剤の適切な使用が不可欠である。
  2. (2) 土壌条件に左右される
    水持ちの良い土壌が前提で、砂質や漏水の多い田では不向きである。
  3. (3) 気象リスク
    播種後の雨などによる発芽不良のリスクがあるため、天候の見極めが重要である。

4. 導入にかかる主なコスト項目

代表的な費用構成を表1.に示す。

表1. 導入費用構成の例

項 目 概 要 参考費用(目安)
播種機 麦・大豆用の機械を流用可能。点播・条播対応型が望ましい 約30万~100万円
振動ローラ 鎮圧用。漏水防止と発芽安定に重要 約78万~113万円(幅120~150cm)
コート種子 除草・害虫対策済みの専用種子 約3~5kg/10a、価格は品種・加工内容で変動
肥料・除草剤 緩効性肥料や土壌処理型除草剤が必要 約1~2万円/10a程度
ICT水管理装置 自動給水栓など(任意) 数万円~数十万円
(導入規模による)

5. 経済効果と回収見込み

  1. (1) 労働時間の削減
    10aあたり約6~7時間短縮
  2. (2) 水使用量の削減
    従来比で40~70%減
  3. (3) 収益向上
    資材費を含めても、慣行比で約1万円/10aの所得向上例あり
  4. (4) 収量安定
    成功事例では10aあたり550~630kgの収量を確保
    初期投資はやや高めですが、省力化・節水・収益性の向上が見込めるため、
    特に中長期的な視点での導入が効果的である。

6. 回収期間の目安と背景

表2. 回収期間の項目と内容

項 目 内 容
初期投資 播種機・振動ローラ・コート種子などで数十万~100万円以上
年間コスト削減効果 育苗・田植え・水管理の省力化により、10aあたり約1万円以上のコスト削減例あり
収益向上 労働時間の短縮・水使用量の削減・収量安定により、慣行栽培よりも高収益の事例あり
補助制度の活用 地域によっては機械導入やICT水管理装置に対する補助金あり(最大50%補助など)

7. 実際の導入事例から見える傾向

  1. (1) 大規模経営ほど早期回収が可能
    作業効率の向上が顕著で、1~2年で回収できる例もある。
  2. (2) 小規模農家でも補助制度を活用すれば3年以内の回収が可能
  3. (3) 収量の安定性と品種選定が鍵
    適した品種と土壌条件を選ぶことで、減収リスクを抑え、回収期間を短縮できる。

8. 具体的な地域での回収期間

 地域別の導入事例を見ると、節水型乾田直播の投資回収期間は地域の条件や栽培体系
によって異なる。以下に代表的な地域の傾向を示す。

表3. 地域別の回収期間と特徴

地 域 回収期間の目安 特徴・背景
青森県西北地域 約4~5年 初期投資は大きいが、集落営農組織による大規模導入で効率化。収量は移植栽培比で10~15%減も、苗立ちが安定すれば8俵以上の収量確保
関東地域
(茨城・千葉など)
約3年 品種選定と播種時期の工夫で収量安定。早播・晩播の両方に対応可能で、輪作体系にも適応。収量・品質ともに良好な事例あり
九州北部(福岡など) 約3~4年 振動ローラ式乾田直播が普及。麦との二毛作が可能で、播種から収穫までの流れが確立。小区画でも導入しやすく、麦・大豆用機械の流用でコスト削減

【補足ポイント】

  1. (1) 大規模経営ほど早期回収が可能
    機械効率が高く、労力削減効果が大きいため。
  2. (2) 補助制度の活用が鍵
    地域によっては機械導入費の半額補助などがあり、回収期間を短縮できる。
  3. (3) 品種選定と播種管理が収益性に直結
    苗立ちの安定が収量を左右するため、地域に合った品種と播種タイミングが重要である。

9. 最後に

 気候変動により高温、乾燥、水不足などによるコメ不足が問題となっている。革新的な水稲栽培技術で注目を集めている節水型乾田直播の導入することにより、地球温暖化や気象変動に対しても有効な技術として期待できる。しかしながらコメの増産への政策に伴う海外輸出、大規模化・集約化、スマート農業、付加価値を持ったお米づくり、高齢化・人材不足対策などの取り組みが必要であると共に小規模な事業者への保障など課題は多い。一丁目一番地の基盤整備、構造改革として農地バンクや収入保険制度などの整備が急務である。

以上