技術用語解説68『FSMA(Food Safety Modernization Act:食品安全強化法)』

技術用語解説68『FSMA(Food Safety Modernization Act:食品安全強化法)』

1. FSMA 制定の経緯

 FSMAとは Food Safety Modernization Act の略称で、日本では食品安全強化法と訳されている。2011年1月4日付で米国議会を通過し大統領が承認した、食品安全関連の新しい法律である。米国疾病予防センター(CDC)によると2011年当時の食品由来の疾患による死亡事故は3,307件と推計され FDA(米国食品医薬品局)では「問題が起こってからの『事 後的対応』から、問題を未然に防ぐ『予防管理』への転換を図るべき」という考え方の下、食品安全に関する従来の法律の大規模な改正を行った。
 FSMAの制定に伴い、 FDAの権限は以前よりも強化されている。 FSMAは米国内で製造される食品だけでなく、米国内で流通する輸出食品にも適用されるため、対米輸出を行う日本の食品関連事業者にも対応が求められた。FSMAが成立した2012年以降、日本では325件のFDAによる査察が実施されており、日本国内でもFSMAに係る査察への対応は大きな関心事となった。

 

2. 主要な新規則

 FSMAは全4章から構成され、具体的な内容を定めた規則が順次、策定・施行されている。施行時期については、事業者の規模や売上高を考慮して段階的に進められている。これまでと比べて大きく変化する主な規則としては、102条のバイオテロ法に基づく登録情報の更新制度、103条の現行適正製造規範(CGMP:Current Good Manufacturing Practice)ならびにハザード分析とリスクベースの予防コントロール(Hazard Analysis and Risk-Based Preventive Controls for Human Food;PCHF)、105条の農産物基準、106条の意図的な食品不良の予防(いわゆるフードディフェンス)、111条の衛生的な食品輸送、301条の外国サプライヤー検証プログラム(Foreign Supplier Verification Program;FSVP)、302条の任意適格輸入業者プログラム(Voluntary Qualified Importer Program;VQIP)、307条の第三者監査制度などが挙げられる。

 

3. FSMA対応で必須となる「新しい形のHACCP」(PCHF)

 FSMAの制定に伴い、日本の食品企業に最も顕著な影響を及ぼしている要素の一つが103 条のPCHFである。一部の品目(従来の規則が引き続き適用される食品、アルコール飲料など)を除き、米国への輸出があるほぼ全ての食品事業者(輸入業者も含む)に適用されることから、非常にインパクトの大きな規則といえる。Hazard Analysis and Risk-Based Preventive Controls for Human Foodの頭文字をとって、以前はHARPC(ハープシー)と略されていた時期もあるが、最近はPCHF、あるいはPreventive Control(予防コントロール、以下「PC」)という略称が一般的に用いられている。

図1. FSMA における食品安全システムの位置付け(従来のHACCPとの違い)
図1. FSMA における食品安全システムの位置付け(従来のHACCPとの違い)

 

 PCHFの対象となる企業は、図1.に示すような「食品安全計画(Food safety plan)」の作成が義務づけられる。PCHFでは、ハザード分析を行い、何らかのコントロール手段(管理手段)が必要な重大なハザードが特定された場合には、そのハザードに対してPCを設定しなければならない。

 PCには、次の4種類がある。

① プロセス予防コントロール(Process PC、従来のCCP管理と同じ意味)
② 食物アレルゲン予防コントロール(Food Allergen PC)
③ サニテーション予防コントロール(Sanitation PC)
④ サプライチェーン予防コントロール(Supply-chain PC)

である。これらに加えて、PCを適用する全ての食品についてリコール計画を作成しなければならない。

 従来、食品の製造環境における食物アレルゲンの交差接触を予防するための徹底的な洗浄や、RTE(Ready-to-eat)食品工場において環境からのリステリア・モノサイトゲネス食中毒を予防するための徹底的な洗浄などは、いわゆる「HACCPの土台となる一般衛生管理プログラム(前提条件プログラム)」で取り扱われてきた。しかし、PCHFの施行に伴い、これまでは「環境由来なので、一般衛生管理でコントロールする」と考えられていたハザードについても、ハザード分析の結果で「食品安全上、重大なハザード」と判断された場合には、食品安全計画において「食物アレ ルゲンPC」や「サニテーションPC」として取り扱い、従来でいうところのCCPと同様に厳格な管理をしなければならない。すなわち、FSMA では「HACCPに取り組む」という表現は用いていないが、実質的には「HACCP+αの管理をしなければならない」と表現することができる。

以上

【参考文献】

  1. 米国食品安全強化法(FSMA)の導入ガイド「Action ! ! FSMA」日本貿易振興機構(JETRO)