2025/12/22
アメリカで注目を集めているのが、日本発のスタートアップ「Oishii Farm」によるいちごの植物工場である。同社はニューヨークを拠点に、日本の高品質なイチゴを完全閉鎖型の工場で栽培し、セレブや高級レストランから支持を得てきた。従来、アメリカのいちごは「酸っぱい」「水っぽい」といった評価が多く、日本の甘く濃厚な品種は現地で大きな差別化要因となっている。Oishii FarmはAIやロボットを駆使し、天候や季節に左右されない安定供給を実現。さらに水資源の再利用や再生可能エネルギーの活用など、環境負荷を抑えた持続可能な仕組みを構築している。
現状としては、ニュージャージー州に稼働した「メガファーム」が象徴的である。サッカーコート3面分以上の広さを誇る工場内では、ラック型の栽培棚とロボットアームによる自動収穫が導入され、従来比で生産能力を20倍に拡大している。これにより、従来は1パック50ドルと高価格帯だったイチゴも、効率化によって10ドル程度まで価格を下げ、Whole Foodsなど大手スーパーで一般消費者にも手が届くようになっている。
今後の方向性としては、まず研究開発拠点の拡充が挙げられる。東京に設立された「オープンイノベーションセンター」では、LED照明や空調制御、AIによる成長予測などの技術開発が進められており、グローバル展開に向けた基盤づくりが進行中だ。また、累計で250億円以上の資金調達を達成しており、資金力を背景にさらなる拡張が可能となっている。
さらに、Oishii Farmが掲げるビジョンは「世界的な食料危機への対応」である。植物工場は気候変動や土地不足といった課題を克服し、世界中どこでも同じ品質の農作物を供給できる可能性を秘めている。特にいちごは嗜好性が高く、ブランド力を持つ果物であるため、植物工場の普及を牽引する象徴的存在となり得る。今後はイチゴにとどまらず、他の果物や野菜への応用も視野に入れ、「農業の産業構造そのものを変革する」という壮大な挑戦が続いていくであろう。
アメリカで展開中のいちご植物工場は、単なる高級食材の供給にとどまらず、持続可能な農業モデルとして世界的に注目されている。今後は技術革新と市場拡大を両輪に、食料安全保障や環境問題の解決に寄与する新たな農業の姿を提示していくことが期待されている。
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