2025/12/15
高市政権の「17重点施策(表1.)」の中でも、生活者に直結する分野として注目されるのが「フードテック」である。植物工場や陸上養殖、食品DX、スマート農業などを通じて、食料供給の安定化と持続可能性を目指す。人口減少と気候変動が進む中で、食料安全保障は国家戦略の根幹に位置づけられるべき課題だ。フードテックは単なる新しい食品開発にとどまらず、供給網全体を再設計する取り組みであり、消費者の健康志向や環境意識とも合致する。
一方で、重点施策には含まれていないが成長の鍵を握るのが「ロボット・スマート工場」である。製造業の現場では人手不足が深刻化しており、ロボットによる自動化やAIを活用したスマート工場の導入は避けて通れない。特に食品や医薬品、化粧品といった衛生管理が厳しい分野では、ロボット技術が品質保証と効率化を同時に実現する。さらに、スマート工場はデータ駆動型の生産を可能にし、予知保全やエネルギー最適化を通じて競争力を高める。これは日本の製造業が再び世界市場で存在感を示すための重要な武器となるだろう。
加えて「農業テック」も見逃せない。農業は高齢化と担い手不足に直面しており、ドローンによる農薬散布、AIによる収穫予測、IoTセンサーによる土壌管理など、テクノロジーの導入が急務である。農業テックは単なる効率化にとどまらず、地域社会の持続性を支える役割を果たす。農業が持つ文化的価値や地域経済への影響を考えれば、テクノロジーによる再生は国家的課題であり、フードテックとも密接に連動する。
これら三つの領域は、食料供給から製造現場、農業基盤までを網羅し、日本の「生きる力」を支える総合戦略の一部として位置づけられるべきだ。フードテックが消費者に安心を届け、ロボット・スマート工場が産業の競争力を高め、農業テックが地域社会を再生する。三者は相互に補完し合い、持続可能な成長を実現するための三本柱となる。
高市政権の重点施策は危機管理投資としての性格を持つが、そこに「食と生産の未来」を支えるこれらの技術を組み込むことで、より包括的な国家戦略が描ける。日本が直面する課題は複雑だが、テクノロジーを軸にした供給力強化こそが、次世代に安心と繁栄を引き継ぐ道筋となるだろう。
以上
表1. 高市政権「17重点施策の取り組みポイント」
| No. | 重点施策 | 取り組みポイント |
|---|---|---|
1 |
AI・半導体 | • 次世代半導体の設計・製造体制強化 • 生成AIやAIロボティクスの産業応用推進 |
| 2 | 造 船 | • 造船再生ロードマップ策定 • サプライチェーン強靱化(特定重要物資の確保) |
| 3 | 量子技術 | • 国産量子コンピュータ開発 • 量子通信・量子センシングの拠点整備 |
| 4 | 合成生物学・バイオ | • 再生医療技術の拡充 • 自動培養装置やバイオ製造設備の導入 |
| 5 | 航空・宇宙 | • 無人航空機や人工衛星の開発 • ロケット部品供給網強化 • 月面探査車(有人与圧探査車)開発 |
| 6 | デジタル・サイバーセキュリティ | • 産業界のサイバー防御強化 • 偽情報対策技術の開発 |
| 7 | コンテンツ産業 | • アニメ・ゲーム・マンガの国際展開 • 海賊版対策と翻訳支援 • デジタル配信基盤構築 |
| 8 | フードテック | • 完全閉鎖型植物工場 • 陸上養殖技術 • 食品DX・スマート農業推進 |
| 9 | 資源・エネルギー安全保障・GX | • 原発再稼働・次世代革新炉 • 再エネ(風力・地熱・ペロブスカイト太陽電池) • 蓄電池導入、レアアース開発 |
| 10 | 防災・国土強靱化 | • 上下水道更新 • インフラ老朽化対策 • 南海トラフ地震対応、分散備蓄 |
| 11 | 創薬・先端医療 | • AI創薬推進 • 創薬スタートアップ支援 • 再生・細胞医療、CDMO投資支援 |
| 12 | 核融合エネルギー | • 2030年代の実証プロジェクト • ITERやBA計画の活用 • スタートアップ支援 |
| 13 | マテリアル (重要鉱物・素材) |
• レアメタル鉱山開発 • 資源循環(リサイクル) • AIを活用した素材開発 |
| 14 | 港湾ロジスティクス | • 港湾サイバーセキュリティ強化 • 電子化・AIターミナル導入 |
| 15 | 防衛産業 | • 無人機や先端兵器開発 • 政府調達拡大による需要創出 |
| 16 | 情報通信 | • 次世代通信網整備(Beyond 5G/6G) |
| 17 | 海 洋 | • 海洋資源開発 • 海洋安全保障強化 |