技術用語解説98『乳酸菌(lactic acid bacteria)』

【食品工場キーワード】

2026.10.19

技術用語解説98『乳酸菌(lactic acid bacteria)』

1.乳酸菌とは

 乳酸菌とは、糖類を利用して乳酸を主に生成する細菌の総称。名前に「乳」とありますが、牛乳だけに存在する菌ではなく、野菜、果実、穀類、食肉、発酵食品、人や動物の腸内など、自然界のさまざまな場所に存在している。食品や飲料の分野では、発酵の主役として古くから利用されており、味づくり、保存性の向上、品質の安定化などに大きく関わっている。日本の行政情報でも、食品表示や機能性表示食品の制度が整備されており、乳酸菌を活用した食品は現在も広く流通している。

2.乳酸菌の特徴

 乳酸菌の大きな特徴は、糖を分解して乳酸をつくることである。乳酸が蓄積すると食品の酸性度が高まり、腐敗しやすい微生物の増殖が抑えられやすくなる。このため乳酸菌は、単に風味を与えるだけでなく、食品の保存性や衛生性の向上にも役立つ微生物として扱われている。発酵によって生まれる酸味、まろやかさ、香り、口当たりの変化は、乳製品、発酵飲料、漬物、発酵調味料など多くの製品の個性を形づくっている。こうした発酵利用は、食品産業における重要な基盤技術の一つである。図1に乳酸菌の特徴と働きについて示す。

図1.乳酸菌の特徴と働き

図1.乳酸菌の特徴と働き

3.乳酸菌の性質

 乳酸菌は一種類の菌を指す言葉ではない。実際には、いくつかの属や種を含む大きなグループであり、それぞれ性質が異なる。ある菌は酸に強く、ある菌は低温でも働きやすく、またある菌は香気成分や粘性物質をつくりやすいなど、製品設計に関わる特性が異なる。そのため食品や飲料で乳酸菌を活用する際は、ただ「乳酸菌を入れる」のではなく、目的に合った菌株を選ぶことが重要である。たとえば、酸味をしっかり出したいのか、やさしい風味にしたいのか、発酵時間を短くしたいのか、冷蔵中の品質変化を抑えたいのかによって、適した乳酸菌は異なる。

4.食品分野における利用

 食品分野における乳酸菌の利用は、大きく分けると二つある。一つは、発酵そのものに使う方法である。これは原料中の糖を乳酸菌が代謝し、製品の味や香りや組織をつくる使い方である。もう一つは、乳酸菌そのものを食品の価値として活用する方法である。後者では、発酵後も菌を生きたまま含む設計や、加熱後でも菌体成分を活用する設計などがある。近年の市場では、発酵の機能と健康イメージの両方が重視される傾向があり、乳酸菌は食品・飲料の商品設計で非常に重要なキーワードになっている。機能性表示食品の制度でも、一定の科学的根拠をもとに届出される食品が扱われている。

5.代表的な食品

 乳酸菌が活用される代表的な食品としては、発酵乳、乳酸菌飲料、発酵野菜、漬物、サワー系の発酵食品、発酵調味料などが挙げられる。乳製品では、乳糖や添加した糖を利用して乳酸を生成し、独特の酸味やなめらかな食感を生み出す。飲料では、すっきりした酸味や飲みやすさを与えるだけでなく、商品の差別化要素としても活用される。野菜系の発酵では、原料由来の微生物やスターターとして加えた乳酸菌が働き、保存性と風味を高める。このように乳酸菌は、動物性原料にも植物性原料にも応用できる汎用性の高い微生物である。

6.乳酸菌の条件管理

 一方で、乳酸菌は万能ではない。製造現場では、菌が期待通りに働くための条件管理が欠かせない。温度、時間、原料組成、糖濃度、酸素の有無、塩分、他の微生物との競合などが発酵結果に大きく影響する。条件が適切でないと、酸生成が不足したり、過度に酸っぱくなったり、風味バランスが崩れたりすることがある。また、製品に望ましい乳酸菌であっても、工程や製品が変われば品質上の課題になることもある。したがって、乳酸菌の利用は微生物学だけでなく、原料設計、設備衛生、温度管理、製造条件の最適化と一体で考える必要がある。

7.乳酸菌類似のプロバイオティクス

 乳酸菌を説明する際によく関連づけられる用語に、プロバイオティクスがある。これは、十分な量を摂取したときに人に有益な働きをもたらす生きた微生物を指す考え方である。ただし、すべての乳酸菌がそのまま同じ意味で扱われるわけではない。乳酸菌という言葉は微生物の種類や性質を示す広い用語であり、プロバイオティクスはその中でも特定の働きが期待されるものに関わる概念である。したがって、商品説明や技術文書では、この二つを混同せずに使い分けることが大切である。

8.注目される安全性と品質保持

 さらに、乳酸菌は食品の安全性や品質保持の面でも注目されている。乳酸の生成による酸性化に加え、一部の乳酸菌は他の微生物の増殖を抑える物質をつくることがある。この性質は発酵食品の安定化に役立つ一方で、意図しない場所で増殖すると、異常発酵や膨張、風味劣化などの原因になることもある。つまり乳酸菌は、適切な場所では有用菌であり、不適切な条件では品質トラブルに関わる場合もあるため、食品工場では「活用すべき菌」と「管理すべき菌」の両面から理解する必要がある。

9.まとめ

 食品・飲料で活用される乳酸菌を一言でまとめると、「糖を乳酸に変える働きを通じて、風味形成、保存性向上、品質設計に貢献する微生物」である。発酵食品の伝統を支えてきた存在であると同時に現代では健康価値や商品差別化の観点からも重要性を増している。製品ごとに求められる役割は異なるが、乳酸菌の本質は、原料をより安定的でおいしく、価値ある食品へ変える点にある。そのため乳酸菌は、食品・飲料業界において、発酵技術、微生物制御、商品開発をつなぐ中核的な用語として理解しておくべき存在である。

以上

【参考引用先】
「第15回個別品目ごとの表示ルール 見直し分科会 説明資料 – 消費者庁」消費者庁
  https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/meeting_materials/assets/food_labeling_cms201_251111_03.pdf
「食品表示基準Q&A(新旧対照表)」消費者庁
  https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/food_labeling_act/assets/food_labeling_cms201_240401_214.pdf
「【参考資料2】食品表示基準別表第19(衛生事項抜粋)」
  https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/meeting_materials/assets/food_labeling_cms201_251111_05.pdf