2026/09/01
技術用語解説95 『オービタル溶接(Orbital welding)』
1.はじめに
食品や医薬品の製造設備では、配管の内面が常に清潔で、洗浄しやすく、微生物が滞留しないことが絶対条件である。この衛生設計の国際標準が ASME BPE(Bioprocessing Equipment)であり、ここでは配管の材質、表面仕上げ、溶接方法、検査基準まで細かく定められている。その中でも、溶接品質を安定して確保するために欠かせない技術が オービタル溶接である。
2.オービタル溶接とは
溶接ヘッドがパイプの周囲を360度自動で回転しながら TIG 溶接を行う技術である。人の手によるばらつきを排除し、電流・速度・アーク長・ガス流量をコンピュータで制御することで、常に同じ品質の溶接を再現できる。食品や医薬の配管では、溶接部のわずかな不均一が洗浄性や滅菌性に影響するため、この再現性が非常に重要になる。写真1は薄肉パイプのオービタル溶接の事例である。
写真1.薄肉パイプのオービタル溶接(出典:SENLISWELD)
3.ASME BPE規格に準拠
ASME BPEの中では、特に Materials Joined(MJ) と Surface Finish(SF) の章がオービタル溶接と関係している。 SFでは、内面粗さ Ra 0.5µm 以下(SF-1)が標準的な要求値である。この値を達成するためには、溶接ビードが滑らかで、段差やクレバスがないことが必要である。オービタル溶接は自動制御により、ビード形状を均一に保ち、洗浄液が滞留しない滑らかな内面を形成できる。これが、CIPやSIPの洗浄性を確保するうえで大きな利点になる。
4.溶接部の変色管理
次に重要なのが、溶接部の変色管理である。 ASME BPEには「MP/EP変色チャート」があり、ストロー色までが許容範囲、青や黒は再処理が必要とされている。変色は酸化の指標であり、酸化膜が厚いと微生物が付着しやすくなる。オービタル溶接では密閉型ヘッドを使い、アルゴンガスで十分にパージすることで酸化を防ぎ、チャートの許容範囲に収めることができる。
5.溶接の記録
さらに、ASME BPEでは溶接の記録レベルを BWクラスとして定義している。医薬品の高純度配管では BW -2以上が一般的で、継手ごとに溶接記録を残すことが求められている。オービタル溶接は電流、速度、時間、ガス条件などを自動記録できるため、バリデーションや監査対応に非常に強いという特徴がある。このトレーサビリティの確保は、GMPやFDA対応の現場では欠かせません。
6.設計段階
設計段階では、オービタル溶接ヘッドが確実に装着できるスペースを確保することも重要である。また、ASME BPEの SDセクションでは、ドレナビリティやデッドレッグの制限が定められている。例えば、勾配は1:100以上、デッドレッグ長さは管径の2倍以下が推奨されている。これらを守ることで、液溜まりや洗浄不良を防ぎ、衛生的な配管を設計できる。
7.設計と施工の要とは
食品・医薬向けの衛生配管では、
(1)内面の清浄性
(2)変色管理
(3)ドレナビリティ
(4)トレーサビリティ
この4つを満たすことが設計と施工の要になる。オービタル溶接は、これらを確実に実現するための技術的な基盤である。
8.現場教育
現場教育では、単に「自動溶接だから便利」という説明ではなく、「ASME BPEの要求を満たすために、オービタル溶接がどのように品質を保証しているか」を理解してもらうことが大切である。この理解があると、設計者・施工者・検査者が同じ品質基準で会話できるようになる。つまり、オービタル溶接は単なる溶接技術ではなく、衛生設計の信頼性を支える品質保証の仕組みといえる。
以上
【参考動画】
1,日酸TANAKA㈱
Orbitalum(ドイツ オービタルム社)配管自動溶接機ORBIWELD
Sシリーズ
紹介動画:https://youtu.be/Dhnr9WzYi9I
2,YesWelder 軌道溶接:入門
https://wholesale.yeswelder.com/ja/blog/orbital-welding-introduction/