技術用語解説93 『バイオフィルム(Biofilm)』

1.バイオフィルムとは何か

 バイオフィルムとは、細菌やカビ、酵母などの微生物が、設備や器具、食品表面などに付着して増殖し、自分たちが分泌した粘着性の物質で覆われた「膜状の集合体」をつくったものを指す。日本語では生物膜とも呼ばれる。図1にバイオフィルムの例を示す。

1.バイオフィルムとは何か

図1.バイオフィルムのイメージ(出典:北海道立総合研究機構1)

 この膜は、単に微生物がたくさん集まっているだけではなく、多糖類やタンパク質、核酸などからなるゲル状のマトリックスによって三次元的な構造を形成しており、内部には水路のような通り道も存在します。そのため、栄養や酸素がバイオフィルム内部に行き渡りやすく、微生物にとっては非常に住み心地のよい「住処」になる。
 食品工場では、このバイオフィルムが配管やタンクの内面、コンベヤ、カッター、作業台、排水溝、床や壁など、さまざまな場所に形成されます。一度形成されると、通常の洗浄や殺菌では除去しにくく、長期間にわたって残存しやすいことが大きな問題となる。

2.構造と特徴

 バイオフィルムを構成する微生物は、単独で存在する場合と比べて、性質が変化していることが知られている。バイオフィルム内部では、微生物同士が密接に接触して情報伝達や遺伝子のやり取りを行い、環境変化に対する耐性を高めています。表面側と内部では酸素や栄養の濃度勾配ができるため、代謝状態の異なる細胞が共存しており、外部からのストレスに対して集団としてしぶとく生き残ることができる。
 バイオフィルムの主成分である細胞外高分子マトリックスは、細胞外多糖と呼ばれるネバネバした糖質や、タンパク質、DNA などが混ざり合った複合体である。このマトリックスが、微生物を表面にしっかりと固定すると同時に、外部からの薬剤や熱、せん断力を遮る物理的バリアとして働く。その結果、遊離状態の細胞と比べて、洗剤や消毒剤、熱に対する抵抗性が大幅に増加する。
 また、バイオフィルムは一度形成されると安定して存在するが、成長とともに一部が剥がれ落ち、新たな場所に付着して二次的なバイオフィルム形成の種になる。このような剥離は、生産ラインの流体と共に下流側へ移動し、製品への汚染や別設備への拡散を引き起こす要因となる。

3.食品工場での発生場所とリスク

 食品工場では、バイオフィルムの形成しやすい条件がそろいやすくなっている。栄養源が豊富で、水分が存在し、温度も中温域で安定しており、さらにステンレスや樹脂など微生物が付着可能な表面が多いためである。特に、洗浄しにくい隙間や段差、ガスケット周り、デッドレグ配管、目地やひび割れなどは、洗浄剤や水流が届きにくく、バイオフィルムの温床になりやすいとされている。
 バイオフィルムに含まれる微生物は、腐敗菌や汚染指標菌だけでなく、場合によっては食中毒菌や日和見病原菌が含まれる可能性もある。バイオフィルムの微生物は、通常の洗浄・殺菌条件では完全に死滅させることが難しく、バイオフィルム片が製品に混入すると、非加熱食品や加熱後急冷するような製品の品質劣化や安全性低下につながる。カット野菜、サラダ類、漬物、デザート類など、最終的に再加熱されない製品では特にリスクが高いとされている。
 さらに、バイオフィルムは微生物汚染だけでなく、設備トラブルの原因にもなる。熱交換器や配管内面にバイオフィルムが蓄積すると、流路が狭まり、圧力損失の増加や熱交換効率の低下を招く。また、バイオフィルム中の微生物代謝により腐食性物質が生成され、局部的な腐食を促進することもある。これらは設備の寿命短縮や保全コスト増加につながる。

4.洗浄・殺菌との関係

 バイオフィルムの厄介な点は、通常の洗浄や殺菌では完全に除去しにくいことである。遊離した細胞に対しては有効な濃度や温度、時間であっても、バイオフィルム状態では薬剤が内部まで十分に浸透せず、内部の細胞が生き残ってしまうことが多く報告されている。
 食品工場で一般的に用いられるCIPなどの定置洗浄システムにおいても、流れが当たりにくいデッドスペースや、洗浄条件が不十分な箇所では、バイオフィルムが除去されず残存しやすくなる。こうした残存バイオフィルムが、洗浄後の再汚染源として機能し、製品の初発菌数を押し上げる要因の一つとなる。
 このため、近年ではバイオフィルムに着目した洗浄技術の検討が進められている。従来型のアルカリ洗浄や塩素系消毒に加え、バイオフィルムのマトリックスを分解・膨潤させる機能を持つ洗浄剤や、形成自体を抑制するバイオフィルムコントロール剤などが開発されており、非加熱食品ラインなどでの適用が検討されている。

5.評価と対策の考え方

 バイオフィルムを適切に管理するためには、まず現場でどこに、どの程度形成されているかを把握することが重要である。近年の研究では、食品工場におけるバイオフィルムの分布や付着挙動を評価し、洗浄方法や薬剤の違いによる除去効果を比較する試験が行われている。蛍光染色や培養法を用いた付着菌数の測定、検査片を用いた定点モニタリングなどがその一例である。
 また、規格試験としては、材料表面におけるバイオフィルム形成抑制性能を評価する試験法が国際規格として整備されつつあり、一定条件下で形成したバイオフィルム量を測定し、抗バイオフィルム活性を評価する取り組みも行われている。これにより、材料やコーティング、洗浄剤などの評価が客観的に行いやすくなっている。
 実務的な対策としては、衛生設計に基づく設備・配管構造の見直しによる付着・滞留の低減、CIP条件や分解洗浄手順の最適化、バイオフィルムに対応した洗浄剤・薬剤の採用、環境衛生の強化などが挙げられる。さらに、定期的なモニタリングと検証により、バイオフィルム形成の兆候を早期に把握し、洗浄強化や設備補修を適切なタイミングで行うことが求められる。
 食品工場におけるバイオフィルムは、単なる「汚れ」ではなく、微生物が高度に組織化した生活形態であり、従来の洗浄・殺菌概念だけでは十分に制御できない対象である。その特性を理解したうえで、設備設計、洗浄プロセス、検査・モニタリングを一体として見直すことが、バイオフィルム対策の鍵となる。

以上

【参考引用先】

1.「食品工場におけるバイオフィルムの付着挙動解明と洗浄除去技術の開発」道総研産業技術環境研究本部食品加工研究センター
https://www.hro.or.jp/upload/1389/R01seika%2818%29.pdf?utm_source=openai
2.「抗バイオフィルム試験(ISO 4768)|SIAA性能基準対応」一般財団法人ボーケン品質評価機構
https://www.boken.or.jp/find_tests/functionality/cleanliness_1/22791/?utm_source=openai
3.食品工場Q&A「洗浄・除菌、洗剤・除菌剤について」ADEKAクリーンエイド株式会社
https://www.acajp.com/faq/foodfactory.html?utm_source=openai
4.プレスリリース「抗バイオフィルム剤 PAZCLEAR」CHEMIPAZ株式会社
https://www.chemipaz.com/products/anti-biofilmagent/