Focus3:アーカイブ聴講セミナーレポート『FOOMA JAPAN 2026』

Focus3:アーカイブ聴講セミナーレポート『FOOMA JAPAN 2026』

FOOMA 自動化検討プロジェクト:

テーマ:「食品製造におけるDX技術、およびハンドリング技術」

開催日時:2026年06月03日 (水) 10:30 – 12:30
会場:東京ビッグサイト 会議棟6階 605 – 606 セミナー会場
アーカイブ聴講日:2026年06月08日 (月)

FOOMA 自動化検討プロジェクト

1.登壇者講演の概要

 アーカイブ聴講テーマを基に登壇者講演の概要を以下にまとめる。

(1)食品製造を支える次世代ハンドリング技術

登壇者:慶應義塾大学 野崎貴裕 准教授
 野崎氏は、食品製造の自動化を阻んできた「不定形・柔らかい・壊れやすい」という食材特性に対し、ロボットが“人の手”に近づくための次世代ハンドリング技術を体系的に示した。 特に、視覚・触覚・力制御を統合したマルチモーダルセンシングが、盛付・ピッキング・供給といった工程の自律化を大きく前進させると指摘。 さらに、食品特有の衛生制約や多品種少量生産に対応するためには、ロボット単体ではなく「工程全体の再設計」が不可欠であると強調した。 食品工場の自動化を“技術”と“現場要件”の両面から捉えた講演。

(2)視触覚が拓くロボットによる食品ハンドリングの進化

登壇者:株式会社FingerVision 代表取締役社長 濃野友紀 氏
 濃野氏は、FingerVisionが開発する“視触覚センサ”が食品ハンドリングの常識を変える技術であることを示した。ゲル内部の変形をカメラで読み取り、滑り・接触・力加減を推定することで、唐揚げ・煮物・揚げ物など、従来ロボットが苦手としてきた不定形食材を安定してつかめる点が最大の強み。さらに、盛付ロボットやフライ投入ロボットなど、実際の食品工場での導入事例を通じて、視触覚技術が“つかめない問題”を根本から解決し、自動化の適用領域を一気に広げることを示した。食品ロボットの未来像を具体的に描いた講演。

(3)菓子製造におけるデータ活用の取組み

登壇者:株式会社マスダック 川瀬輝雄氏
 川瀬氏は、菓子製造ラインにおけるデータ活用の実践例を紹介し、製造条件・温度・湿度・焼成状態などの多変量データを統合管理することで、品質安定化と熟練技能の形式知化を実現できると説明した。特に、焼成工程の“見極め”をデータ化する取り組みは、菓子製造の自動化における最大のブレークスルーであり、歩留まり改善・省人化・再現性向上に直結する。さらに、データ活用は単なる可視化ではなく、工程改善・設備制御・人材育成まで含めた“製造DXの基盤”であると強調した。食品DXの実務に根ざした講演。

(4)粉体機器総合メーカーとして“メーカーならではのDX”をご提案

登壇者:ツカサ工業株式会社 谷村英明氏
 谷村氏は、粉体機器メーカーとしての知見を活かし、粉体特有の“見えない現象”をDXで可視化する取り組みを紹介した。粉体は流動性・付着・凝集などの挙動が複雑で、経験則に依存しがちだが、センサデータ・流量データ・設備状態を統合することで、安定供給・詰まり予防・品質均一化が可能になると説明。さらに、粉体機器メーカーだからこそ実現できる「設備×データ×制御」の一体設計が、食品工場の自動化・省人化に大きく貢献すると述べた。粉体工程DXの方向性を示す講演。

(5)食品R&Dの反復作業にどう向き合うか

登壇者:株式会社アイキューブデジタル 取締役 FA事業部長 三原秀一氏
 三原氏は、医薬品分野での実績を基に食品R&Dにおける“試作・評価・条件出し”の反復作業をDXで効率化するアプローチを紹介した。食品開発は試作回数が多く、官能評価・物性測定・配合調整などの作業が属人化しやすいが、デジタルツイン・レシピ管理・試作データの統合により、開発スピードを大幅に向上できると説明。特に、試作条件と製品特性の因果関係をデータ化することで、再現性の高い開発プロセスを構築できる点が重要。R&Dの“暗黙知”を形式知化し、開発力を組織的に高める実践的な講演。

2.DX × ハンドリング技術 総括

 食品製造の自動化は、これまで「人の手の器用さ」と「現場の暗黙知」に強く依存してきた。しかし今回のFOOMA自動化検討プロジェクトでは、DXとハンドリング技術の進化が、この構造を根本から変えつつあることが明確に示された。野崎氏が示した次世代ハンドリング技術は、視覚・触覚・力制御を統合し、ロボットが“食材の状態を理解しながら扱う”段階に入ったことを示す。濃野氏のFingerVisionはその象徴であり、不定形・柔らかい食材を安定把持できる視触覚技術は、盛付工程の自動化を一気に現実化させる突破口となる。
 一方、川瀬氏・谷村氏が示したように、食品製造のDXは単なるデータ収集ではなく、焼成・粉体・混合といった“見えない現象”を可視化し、品質の再現性と工程安定化を実現する基盤技術へと進化している。さらに三原氏が指摘したR&D領域のDXは、試作・評価の反復作業をデジタル化し、開発スピードと組織的な知識蓄積を飛躍的に高める。
 総じて、食品製造の自動化は「ロボット単体」ではなく、DX(データ)× ハンドリング(ロボット)× 工程設計(食品機械)の三位一体で進むフェーズに入った。これにより、盛付・検査・粉体供給・焼成・R&Dまで、食品製造のあらゆる工程が“データに基づく自律化”へ向かっている。

3.DX × ハンドリング技術ロードマップ

 DX × ハンドリング技術の今後の展開として考えられる、技術ロードマップを食品製造の工程構造・技術成熟度・導入フェーズの3軸で以下に示す。


◆ 2026 → 2030 DX × ハンドリング技術ロードマップ
― 食品製造の自動化が「部分最適」から「自律ライン」へ進む5年間 ―


■ 2026年:自動化の“突破口”が見えた年
キーワード:視触覚、AIピッキング、軽量DX、デジタルツインの普及開始

  • FingerVision に代表される 視触覚ハンドが実用レベルに到達
  • AI画像認識 × 3Dビジョンで 不定形食材の位置・姿勢認識が安定
  • デジタルツインがライン設計・ROI算出に活用され始める
  • R&D領域では試作データの統合管理が進み、開発DXが本格化
  • 自動化は「盛付」「検査」「粉体供給」など 工程単位の導入フェーズ

■ 2027年:工程間連携が進み“部分自律化”が始まる
キーワード:盛付セル化、AI検査の標準化、段取り替えDX

  • 盛付ロボット(FingerVision、Kobot、Connected Robotics)が “盛付セル”として標準化
  • AI検査が包装ラインに組み込まれ、外観検査の自動化率が上昇
  • 粉体・焼成・混合のデータが統合され、工程間の因果関係が可視化
  • 段取り替えの自動化(レシピ切替・洗浄ガイド)が普及
  • 自動化は「工程単体 → 工程グループ」へ拡大

■ 2028年:ロボットとDXが統合し“自律ライン”の原型が登場
キーワード:視触覚 × AI × デジタルツインの統合

  • 視触覚ハンドが標準化し、多品種盛付の自律化が実現
  • AIがライン全体の稼働データを解析し、最適な人員配置・段取り・生産計画を自動提案
  • 粉体・焼成・混合・充填のデータが統合され、品質の再現性が飛躍的に向上
  • 出荷工程では、直行型 × 多関節ロボットのハイブリッド化が進む
  • 自動化は「工程グループ → ライン単位」へ

■ 2029年:食品工場の“自律制御”が現実的な選択肢に
キーワード:自律盛付、自律検査、自律段取り

  • 盛付・検査・包装が 自律的に連携するラインが登場
  • AIが異常兆候を検知し、自動でライン速度・温度・供給量を調整
  • R&Dデータと製造データが統合され、開発 → 生産の一気通貫DXが実現
  • 中規模工場でも自律ラインの導入が始まる
  • 自動化は「ライン単位 → 工場単位」へ移行

■ 2030年:食品製造は“データ駆動の自律工場”へ
キーワード:自律工場、全工程デジタルツイン、ハンドリング完全自動化

  • 全工程(原料 → 調理 → 盛付 → 包装 → 出荷)がデジタルツインでリアルタイム最適化
  • 視触覚 × AI × ロボットが統合され、人の技能をデータ化した“自律ハンドリング”が普及
  • 工場全体のエネルギー・人員・生産計画がAIによって自動最適化
  • 自動化は「工場単位 → サプライチェーン単位」へ拡張

◆ 総括:2026 → 2030は“食品工場の自律化元年”

  • 2026:技術の突破口(視触覚・AI・軽量DX)
  • 2027:工程グループの自動化
  • 2028:ライン自律化の原型
  • 2029:自律ラインの普及
  • 2030:自律工場の実現

食品製造は、「人の技能依存」から「データ駆動の自律ライン」へ大きく舵を切る5年間に入っていくと考える。


以上