【コラム】

 性善説と性悪説。人間の本性は善である、いや悪であるとする説で、中国の孟子(もうし)と荀子(じゅんし)がそれぞれ説いた。ただ、荀子は本質的に悪だとはしておらず、人間は環境や欲望によって悪に走りやすい傾向があると指摘したに過ぎない……▶私見で恐縮だが、そもそも人間には生まれつき「善」も「悪」も同等に備わっているのではないか。それが外的な要因で一方の感情が突出する。振り子のように行ったり来たりしながら▶彼こそまさしくそうだろう。大ヒット中の映画「ジョーカー」の主人公アーサー・フレックスである。「どんな時でも笑顔で人々を楽しませなさい」という母の教えを守り、大都会で大道芸人として生きる心優しき道化師▶コメディアンしての成功を夢見ながら年老いた母の面倒をみて暮らすイノセントな青年はしかし、社会に虐げられ、やがてこころを病む。理不尽な暴力や社会生活にも支障をきたす持病など、小さな不幸がきっかけに▶純粋無垢な心を持つ青年が、“狂気の犯罪王子”ジョーカーへと変貌していく姿を描いた物語。個々の環境や立場等によって変わる善悪。果たして善とは何か,悪とは何か―。映画の終盤でジョーカーは人々に言い放つ。「善悪は主観でしかない」と。
【10月29号】パッケージ&マシン通信Vol.12 機っくおふ 大平尚 氏 引用・転載