2026/02/02
技術用語解説83『食糧法(正式名称:主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律)』
Food Law (official name: Law Concerning Stabilization of Supply and Demand and Prices of Staple Foods)
1. はじめに
「食糧法(正式名称:主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律)」 を、歴史的背景から制度の本質、政策思想、そして廃止後の影響まで解説する。
2. 食糧法とは何か
1995年に廃止された「食糧管理法(食管法)」の後継として制定された法律で、米を中心とした主要食糧の需給と価格の安定を、 市場メカニズムを活かしつつ政府が最低限管理するという新しい枠組みを作ったものである。表1. に食管法との最大の違いを整理して示す。
表1. 食管法と食糧法の違い
| 項 目 | 食管法(1942〜1995) | 食糧法(1995〜2004) |
|---|---|---|
| 流 通 | 政府が一元管理(強制供出) | 民間流通を基本に政府は補完 |
| 価 格 | 公定価格(生産者米価・消費者米価) | 市場価格が基本、政府は備蓄で調整 |
| 目 的 | 国家統制・配給 | 市場安定・需給調整 |
| 米の輸入 | 原則政府管理 | WTO合意に基づくMA輸入を制度化 |
補足:食糧法は、戦時統制の完全否定 → 市場移行の橋渡しという位置づけ。
3. なぜ食糧法が必要だったのか(歴史背景)
- 3 – 1. 食管法の限界
- 戦後の食糧難期には有効だった食管制度も、1960年代後半からの「米余り」で構造的赤字が拡大した。
- • 生産者米価は高く維持
- • 消費者米価は低く抑制
→ 食管会計が慢性的赤字に(1950年代後半から顕著) - さらに、1970年代以降の減反政策でも需給調整は追いつかず、1990年代には国際交渉(ウルグアイ・ラウンド)でミニマムアクセス(MA)米輸入が義務化され、旧制度の維持は不可能になりました。
- 3 – 2. 国際化・市場化への転換
-
1995年のWTO発足に合わせ、「政府が米を買い上げて価格を決める」仕組みは国際ルールと整合しなくなった。
そこで食糧法は、市場価格を基本にしつつ、備蓄で安全保障を確保するという折衷案として誕生した。
4. 食糧法の制度構造
- 4 – 1. 基本理念
- • 主要食糧の安定供給
- • 適正な価格形成
- • 国民生活の安定
- • 農業の健全な発展
- ここで重要なのは、
- 「価格安定=政府が価格を決める」ではなく、「市場価格の急変を抑える」
- という思想に変わった点です。
- 4 – 2. 需給調整の仕組み
- 食糧法は、次の3本柱で需給を安定させた。
- • 政府備蓄(国家備蓄米)
- ① 平時:市場に干渉しない
- ② 価格高騰時:放出
- ③ 価格暴落時:買入
- → 市場のショックアブソーバーとして機能。
- • 民間備蓄の促進
- 民間流通業者にも一定の備蓄を義務づけ、供給途絶リスクを分散。
- • 需給見通しの公表
- 政府が毎年、
- ① 作付面積
- ② 生産量
- ③ 消費量
- ④ 在庫量
- を公表し、民間の意思決定を誘導。
5. 食糧法の評価(メリット・デメリット)
- 5 – 1. メリット
- • 市場原理を導入し、食管会計の赤字構造を解消
- • 米の品質競争が進み、多様なブランド米が登場
- • 国際ルール(WTO)に整合
- • 民間流通の活性化
- 5 – 2. デメリット
- • 価格が市場に委ねられ、農家の所得が不安定化
- • 減反政策との整合性が弱まり、政策が複雑化
- • MA米輸入により国内市場が混乱
- • 「政府が守ってくれる」という旧来の期待が崩壊
6. 2004年の大改正とその後
2004年の改正で、食糧法はさらに市場化が進んだ。
- • 主な変更点
- ① 米の流通規制(登録制)が大幅緩和
- ② 生産調整(減反)が事実上、農家の自主判断へ
- ③ 需給調整は「行政指導」から「情報提供」へ
- その後、2020年代に至るまで、米政策は「市場 × 補助金 × 情報」の三位一体で運用されています。
7. 食糧法の本質
食糧法は、「統制経済から市場経済への移行を、食料安全保障と両立させるための過渡的制度」 である。その本質は次の3点に集約できる。
- • 市場価格を基本としつつ、国家備蓄で安定を担保 → 完全自由化ではなく「管理された市場」。
- • 国際ルール(WTO)との整合 → MA米輸入を制度化し、国際協調を優先。
- • 農家保護の仕組みを価格政策から所得政策へ転換 → 価格支持 → 直接支払い(ナラシ、経営所得安定対策)へ。
以上
【参考引用先】
1. 「食糧法遵守事項の概要」農林水産省HP:
URL:https://www.maff.go.jp/j/syouan/keikaku/zyunsyu/index.html
2. 「食糧法遵守事項関連Q&A」農林水産省(令和2年4月)PDF公開資料
URL:https://www.maff.go.jp/j/syouan/keikaku/zyunsyu/attach/pdf/index-4.pdf
3. 「主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律」出典: フリー百科事典『ウィキペディア
(Wikipedia)主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律 – Wikipedia